第六話 怪談編 Part1
五十嵐「暑いよ〜」
山崎「暑い」
浜田「暑いね」
大島「暑いお」
五十嵐・山崎・浜田・大島「「「「暑い〜!!!」」」お」
電気スタンドひとつポツリとたったちゃぶ台に集まりながら、四人はばてた様子で叫ぶ。
既に当たりは闇に包まれ、天幕には星が輝いている。
山崎「夜になってもまだ暑い、ジャングルってのはこれだから嫌だ」
浜田「寝る気にもなれないし、服はべたつくし。勘弁して欲しいよね」
大島「PCからの発熱が凄いお」
男三人は前のめりにちゃぶ台に横たわっている。浜田・大島の目には既に生気が無い。かろうじて、生きた目をしている山崎も、顔中に汗をたらし、目をつぶる体たらく。
五十嵐「みんな弱気になっちゃ駄目!!」
紅一点にして唯一元気の残っている五十嵐が、ちゃぶ台の上に立つ。
五十嵐「暑い、暑いって言ってたら余計暑くなっちゃうよ!!」
大島(今暑いって三回言ったお)
浜田「だからってどうしろと?」
五十嵐「暑くない、暑くない。ここはぜんぜん暑くない。暑くなんか無いんだぁ〜!! って思うのよ。そうすれば暑くなくなる!!」
大島(暑いって言ってるのと変わらないお)
山崎「じゃぁやって見せろよへ〜ちょ」
五十嵐「いいよ。そこで皆見ててね!!」
そういうや五十嵐は、ちゃぶ台の上で胡坐を組み、先程の言葉をつぶやきだした。
一分後。
五十嵐「ごめん、無理です」
ばたりとへばる五十嵐。あきれることも出来ず、ちゃぶだいに突っ伏す男三人。
山崎「なんかこう、気分だけでも涼しくなるような物無いのか、大島?」
大島「それならこういうのがあるお」
取り出したのは黄金のテープ。大島は扇風機の前まで行くと、それを前面に取り付ける。
山崎・浜田「「おぉ」」
扇風機の風に伴いきらきら輝く、黄金のテープたち。
大島「どうだお?」
山崎「いや、ぜんぜん涼しくならない」
浜田「むしろ、うざったいよね」
五十嵐「贅沢は敵だー!!」
大島「わかったお、ならはずすお」
扇風機の前のテープは五分と足らずで取り外された。
山崎「違うんだよ…… もっとこう、ヒヤッとしてゾクッとするようなの」
身振り手振りでその感覚を表現する山崎。
と、それを見ていた浜田がぽんと自分の手をたたいた。
浜田「怪談?」
山崎「そう、それ!!」
山崎が浜田を指差した。
と、途端に涙目になる五十嵐。
五十嵐「嫌だよ〜。怖いのはパス、パス、パスぅ!!」
ブルブル首を横に振りながら泣いて懇願する五十嵐。
山崎はそんな五十嵐に無視を決め込む。
山崎「お前は賛成だよな大島!!」
山崎が大島に話を振る。
大島「ニヤソ」
大島以外の人間の動きが止まった。
かつて見たことの無い顔つきで大島が立っているのだ。
笑っているのか、といまだかつて大島の笑い顔を見たことの無い彼らは思った。
大島「いいお、怪談やるお」
同時に彼らは、『地雷を踏んじまった』と思った。
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大島「一人ひとつずつ怖い話をするお」
そういって大島はちゃぶ台の前のろうそくに火を灯す。
大島「そして、話が終わったときに、自分の前の蝋燭を消すお」
浜田「あの〜大島さん…… えらく本格的なところ悪いんですが…… これは百物語じゃ」
大島「そうだお」
浜田「出るんでしょうか?」
大島「出るお」
怯えた表情の浜田達をよそに、一人楽しそうな大島。五十嵐などは先程から子犬のように凍えている。
大島「まずは山崎から。右回りでどんどん話していくお」
山崎・五十嵐・浜田・大島の順になっている。多分自分を最後に持ってきたかったのだろう、と誰もが思った。
五十嵐「ねぇ〜島ちゃんやっぱりやめようよ」
大島「中途半端にやめると霊が怒るお」
言うや否や、五十嵐の後ろの森がガサガサと音を立てた。それで更に萎縮したのか、五十嵐はちゃぶ台の下に頭を隠してひたすら霊に謝っていた。
大島「それじゃ、始めるお、山崎」
まさか此処まで本格的にやるとはという感じで、大島を見ていた山崎。しぶしぶといった感じで頭をかくと、語りに入った。
山崎「
ある高校にAとBという男がいた。二人は親友で部活も一緒。成績も一緒くらいという似たもの同士だった。
ところが、あるときAの方に彼女が出来た。流石にこればかりはBも一緒とはいかなくて、後ろめたいのか恥ずかしいのかAはしばらくこのことをBに黙っていた。
が、ひょんなことでその事を知ったBは、何で俺に知らせなかったんだと大激怒。それ以来二人はまったく口を利かなくなってしまった。
やがて、卒業の季節が近づくころには二人とも似ても似つかないほどに変わってしまっていた。
Aの方は大学進学も決まり順風満帆。彼女ともうまくいっておりばら色の青春。
対してBの方は、滑り止めにも引っかからず浪人決定。挙句借金の所為で、直ぐにでも働かなくてはならないという有様。
結局Aは高校を卒業したが、Bは自主退学。その後二人が会うことは無かった。
それから10年後。
Aはめでたく高校のときの彼女と結婚し、一男一女をもうけていた。
そんな彼の元に高校の同窓会の案内が届く。
なんとなしにBに対し後ろめたさを感じていたAは、会ったならばあのときのことを謝ろうと決心し、会場に向かった。
しかし、会場に着けばBの姿は無い。
親しかった友人に聞けば、退学後は年賀状の挨拶もなく、誰もどこに住んでいるのか分からないとのことだった。
その夜Aは友人達と飲み明かし、ついに家に帰ることは無かった。
翌朝、友人の家で朝食を食べていると、面白そうに友人が手紙を持ってきた。
それは、彼が友人に出した今年の年賀状だった。
ただ奇妙なことに、何故か二枚あるのだ。それは、まったく同じ裏面で、何故か住所だけが違っていた。
いや、裏面も少し違う。
よく見ると、真ん中に移っている人物が違っていた。
そう、それは久しぶりに見るが、Aのかつての友人Bだった。
何故、こんなものを。
友人に問いただすも、年末に引越しでもしたのかと思っていたとのことで、Bのことは知らないという。
幸い手紙の住所は友人の家から近かったので、AはBにこのことを問いただすべくBの家へと向かった。
Bの家はAの家とまったく同じだった。家の外装、駐車場から庭のつくりまでまったくそのまま。ただひとつ、門の前に掘られた苗字だけが違うだけだった。
おそるおそる玄関に近づいたAは、ベルを鳴らす。二度・三度押してもBが出てくる気配は無い。
留守だろうか。
そう思って、ドアノブに手をかけると、なんとすんなり開いた。
なんだ、いるのではないかと、一応断って中に入るA。中のつくりもまったくAの家と同じようだった。と、何気なしに向いた先で目に入ってきたものに、Aは驚く。
自分の息子が、リビングでくつろいでいるのだ。
土足なのも忘れて息子の居るリビングへと走るA。なぜここに居るんだと、息子をつかみあげる。
すると、その首がポロリと落ちた。
人形だった。
息子だけではない。
キッチンには妻。ソファーには娘。それぞれの人形がまるで生活しているかのように、Aの家で暮らしているのと同じように置いてあるのだ。
しかし、自分の人形が無い。
そのとき、不意に二階から物音がした。
Bだろうか。恐ろしいながらも、このことについてBに聞かねば気がすまなくなったAは二階への階段を昇る。
どうやら寝室から、その物音はしているようだった。
ゆっくりとドアノブに手をかける。見渡せば、見慣れた目覚まし時計がけたたましく鳴っていた。
「ピリリリ ピリリリ」
Aの携帯が鳴った。家からの電話だった。多少肝を冷やしながらも、直ぐに電話に出るA。
「あなた、今どこに居るの? 泊るなら泊るって事前に言ってくださいよ」
「すまんすまん。すぐに帰る」
男はほっとした表情で、クローゼットにもたれかかった。と、いとおしい子供達の声が微かに聞こえてくる。
「ママ〜。パパ帰ってきたよ」
「「え?」」
「待て、切るな」とAが言おうとした時、電話はもう切られていた。
何がなんだか分からない、いったいどうなっているのだろうか。
Aは苛立ちを抑えきれずにクローゼットを殴りつけた。と、なにやらクローゼットの中から鋭い金属音がする。
震える手でクローゼットの取っ手に手をかける。
そこには、制服からマタニティまで身に着けた、過去の妻の姿をした人形が所狭しと収められていた。
」
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山崎「どうだ?」
大島「まぁまぁだったお」
浜田「げに恐ろしきは人の業なり…… ってやつかな」
山崎「まぁこんなもんか」
そう言って山崎は目の前の蝋燭を消した。
大島「さて、次はへ〜ちょの番だお」
五十嵐「……」
浜田「へ〜ちょ?」
そういって、浜田が五十嵐の顔を覗きこんだ。
浜田「気絶してる……」