第三十三話 渚に現るプリン(セ)ス 中編
高部の異様な格好にドン引きする、一向。そんな視線すら気にせずにずかずかと歩み寄ってくる高部。 五十嵐たちの前に立つと、宇宙人方を向きびしりと指を刺す。
高部「お前たち、そこの男に変わって、私がお相手しよう」
王子「ハァ? 女。何を言っている?」
先輩「いきなり出てきて、何を言い出すかと思えば…… 俺たちが用があるのは、そこの山崎だ。女は黙ってな?」
高部「ほぅ。この私では、不服というのか?」
王子「不服も何も、まず君はいったい誰なんだ?」
先輩「そうだ、まずは名を名乗れ」
ふっと王子たちをあざ笑うと、さらりと長い髪の毛を流し高部は腰に手を当てる。そして、ありったけの眼力を持って、二人を威圧した。その、女にしてはやたら高圧的な視線に、余裕ぶっていた王子たちが一歩後ずさった。
高部「私は、陸軍大佐。高部由紀子!! 人は私のことを鬼の高部と呼ぶ」
先輩「高部由紀子…… 聞いた事があるぞ」
王子「陸軍大佐ねぇ…… おもしろい。そうするって言うと、君を倒せば、事実上地球軍は倒したと見て良いのかな?」
高部「まぁ、そういうことになるだろうな」
ふふんと、鼻を鳴らすと高部はまた髪を靡かせる。紺色をもってしても隠し切れないほどの、濡れたような黒髪が、太陽の光に照らされて、きらきらと瞬く。
そんな高部の後姿を見つめながら、今だそのショッキングな光景に馴染めない大島は、心の中でつぶやいた。
大島(地球軍じゃない、日本軍だ。何をえらそうに、余裕ぶってるんだ高部!!!)
大島(そもそも、何でこの女、こんな恥ずかしげも無い格好をしているんだ!? しかも、さも自慢したげに。こんなの年頃の女からしてみれば、恥ずかしい以外の何者でもないというのに。しかも高部のスクール水着、よく見たら新品じゃないか。いったいどういう経路で手に入れたんだ……)
冷や汗を頬に伝わせ、深刻な表情で高部を見つめる大島。そして、その大島の背中越しに、高部を信じられないという目で見つめる者がもう一人。そう、高部の友人こと、五十嵐だ。
五十嵐(な、なんでユキちゃん、あんな大胆というか恥ずかしい格好をしてるの…… ま、まさか!! あの時の!!)
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五十嵐の回想
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つい先日の、夜の話。
高部「そ、そそそ、それにしてもだな奈由…… その、大島は…… いったい、どういった雑誌を読んでいたのだ」
五十嵐「へ、あ〜。確か…… 水着の女の子が、たくさん載ってる雑誌だったかな〜」
高部「み、水着か、水着なんだな…… そうか、水着が好きなのか…… ふむ」
五十嵐「それでね〜。たしか、どこだったかのページが、凄くよれてたんだ〜。あれは何のページだったかな……」
高部「何!! それはまことか!! して、どのような水着が、奴は好みなのだ!!」
五十嵐「ちょっとまって…… う〜ん」
五十嵐「そうだ!! スクール水着よ!! スクール水着の女の子が載ってるページだったわ」
高部「な!? ス、スクール水着!? な、な、なんて破廉恥な…… し、しかし、あやつがそれが好きというなら……」
五十嵐「けどユキちゃん。こんな事聞いていったいどうするの?」
高部「ん、ま、まぁ私ほどの役職ともなると、ここ、こうやって末端の部下の事まで、詳しく知っておく必要があってだな……」
五十嵐「そうなんだ、偉くなるって大変なんだね。もしかして、今もお仕事中なのユキちゃん」
高部「む…… ま、まあな。それよりありがとう奈由。おかげで貴重な情報を仕入れる事が出来た。礼を言う」
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五十嵐の回想 終わり
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五十嵐(絶対に、あの時のだ〜!!)
五十嵐の頬を無数の汗が伝う。今思えば、スクール水着では無かった気もしないでもない。こんな事になる事が分かっていたなら、もっと無難な水着を言っておくべきだった。
さらに、大島の反応の無さが五十嵐の不安を助長する。今、高部に振り向かれても、目を見て話す自身などとてもではないが無かった。
と、そろそろ話の本筋に戻るとしよう。
高部の言葉の後少し考えた卓球王子は、先輩と相槌をうつと、高部のほうを向きなおす。
王子「いいだろう。元々私たちの目的は、地球征服だ。それを阻む軍の将を倒せるというなら、それに越した事は無い」
先輩「というわけで、もしお前たちが負けたら、この地球を我々が頂く」
高部「もし、私と大島が勝ったら、お前たちはおとなしく出て行く。それで良いな」
王子「良いだろう」
先輩「良いぞ」
大島「ちょっと待て!! 何勝手に人をゲームに参加させるんだ、高部!!!」
高部につかみかかると、左右に激しく揺らす。
高部「何を言う。私のパートナーといえば、終生お前しかおらぬでは無いか」
大島「それは、仕官候補生時代の話だ!! そんなときの事を、振ってくるな!!」
王子「何が不服なんだい、ボーイ?」
大島「何のメリットも無いのに、こんなくだらない試合に参加させられる事だ!!」
高部「くだらないことは無いだろう、地球の命運が掛かっているんだぞ?」
大島「それこそ、俺なんかじゃなくて山崎にやらせればいいだろ!! 第一、宇宙人たちも本当は山崎としたいんだろ!! 何で俺なんだ!! 納得いかねえぞ!!」
大島は必死の形相であるが、試合メンバーの誰一人としてが、彼の目を見て居ない。それどころか、それがどうしたと開き直った様子で、さも何事も無かったかのように、試合を開始しそうな雰囲気である。
そんな、雰囲気がよけいに大島をヒートアップさせる。
大島「嫌だぞ、俺は絶対やらねえぞ!!」
高部「我侭だぞ、大島。ほれ、さっさと位置に付かんか!!」
大島「だから!! 絶対にやらないって言ってるだろ」
先輩「分かった、それじゃあこうしよう」
先輩「僕たちが勝ったら、君は僕らのペットになってもらう」
大島「余計やりたくねえよ!!!!」
大島「大体なんだよペットって、お前ら何する気だ!!」
先輩「それは、もう。ペットがしそうなこと全てさ」
王子「キャッ。先輩のエッチ。けど、そんなこと言うと妬いちゃうぞ?」
先輩「はははは。あくまで本命はお前一人だよ、王子」
王子「先輩〜」
先輩「王子〜」
がしりとそのたくましい肉体で抱きしめあう二人。その光景と、自分を無視して進む話の流れに、大島の顔の青筋に力が入る。
大島「だから、それじゃお前らが嬉しいだけで…… あぁ!! 誰がやるかこんなもん!!!」
高部「まて、大島。だったら、こうしよう」
高部「私が勝ったら。お前の一日命令権をゲット」
高部が大島を指差してそう言う。
そのとき、大島の中で何かが音を立ててぶちきれた。
大島「だから、俺に何のメリットも無いのに、こんなことできるかぁぁぁぁあああああ!!!!!」