第三十二話 渚に現るプリン(セ)ス 前編
山崎「いくぞ〜!!」
五十嵐「いいよ〜!! さー!! ばん回するよ、なっちゃん!!」
浜田「ど、どんとこーい……」
ジャングルから少し抜けたところに、海岸。人が住まなくなって久しいためか、澄んだ色をした海を背に、五十嵐一行は少し遅めのバカンスに勤しんでいた。故に、全員水着だ。とはいえ、海パンの男が3人に、子供のようなピラピラの付いた水着を着た女一人では、色気があるとはいえないが。
山崎「そ〜れ!!」
山崎がボールを打つ。それは、大きな放物線を描き、砂に描いたラインすれすれの所に落下する。
と、ここに持ち前の運動神経で、五十嵐が飛びついた。うまくレシーブすると、それを浜田に回す。回された浜田は、五十嵐がすぐには起き上がれないと判断したのか、軽く上に上げて相手コートに返す。が、それをめがけてものすごい勢いで、山崎が突っ込んでくる。弓引くように体をしならせると、その右手をバレーボールに当てるべく狙いを定めた。
山崎の体が一瞬にしてしなる。
強烈なスパイクが、五十嵐・浜田のコートに打ち付けられた。
山崎「よし、これでゲームセット!!」
ガッツポーズで喜ぶ山崎。それを横でボーっと見つめる大島。
一方の五十嵐はといえば悔しそうに土で汚れた水着とTシャツを払っている。
五十嵐「う〜。くやしい〜……」
浜田「やっぱりスポーツやらせると強いな、山さん」
五十嵐「酷いよ〜 こっちは女の子なんだから、ハンデくらいつけてよ〜!!」
よほど負けたのが悔しいのか、むくれっ面で山崎に抗議する五十嵐。
山崎「ハンデって言うか……」
そういって横を向く山崎。其処に居るのは、レシーブの構えのままで今だ立っている大島。
よく見れば汗一つかいている様子がない。
大島「さっきから、一歩も動いてないですがなにかお?」
山崎「ということだ」
五十嵐「う、うー!!! それでも納得できない〜!!」
途端に泣き出す五十嵐。どうにも彼女には負けず嫌いの気があることに、男衆が気づいたのは最近の事だ。
しかしながら、浜田や大島(でもどうかは分からないが)ならいざ知らず、相手は山崎である。女が泣いたところで、どうと思うはずも無い。
慰める浜田にその場を任せ、大島と一緒にコートから少し離れた場所に座り、粉末製のスポーツドリンクを溶き、作り置きしておいたドリンクボトルに手を伸ばした。
山崎「しかし、ビーチバレーセットまで輸送するなんて…… 上の奴らはいったい何考えてんだろうな」
大島「前も言ったけど何も考えてなさそうだお」
飲み終えたドリンクボトルを大島に回す。そうすると、砂の上に頭を降ろし天を仰ぐ山崎。
空は晴天。絶好のバカンス日和。
山崎「こんないいところがあるなら、もっと早く来るべきだったな」
大島「そうだお…… ここは、自然が残ってていい所だお」
聞こえてくる波の音と木々のせせらぎ。心地よい揺らぎにいざなわれ、山崎は眠りの世界に落ちていく。
大島「山崎? 眠ったかお……」
一瞬山崎のほうに目をやった大島であるが、穏やかな寝息を立てる山崎を見るとすぐに視線を前に移した。
何時の間にやらコートでは、五十嵐と浜田が交互に打ち合っている。
五十嵐「なっちゃん、こうなったら徹底的に練習するよ!! 打倒、山ちゃん!!!」
浜田「そ、それはいいけど、ちょっと休まないへ〜ちょ?」
五十嵐「駄目よ!! 勝までやるの、それまで絶対に休ませないんだから!!」
浜田「え〜!!」
五十嵐「え〜って!! なっちゃん!? そんな軟弱な事だから、山ちゃんに負けちゃうんだよ!!」
浜田「た、たすけて〜大島・山さ〜ん!!」
大島「観念するお、浜田〜!!」
浜田「そ、そんな〜……」
五十嵐「ほら行くよなっちゃん!! まずはスパイクを取る練習から!!」
容赦なく浜田に打ち込まれるスパイクの嵐。
大島は、正視に耐えかねて、山崎同様に天を仰いだ。
波の音にまぎれて、時々肉を打つような音が聞こえてきた。
浜田「いい、天気だお……」
照りつける太陽の光さえも心地よい。大島がそう思ったときであった。
五十嵐「キャ…… キャー!!!」
浜田「う、うわー!!」
大島「ど、どうしたお!! へ〜ちょ、浜田!!」
がばりと起き上がる大島と山崎。すると、五十嵐・浜田の傍に何か妙なものが居るのが見える。そう、まるでふんどしの様なものを締めた、角刈りの男と、帽子をかぶった男。紛れもなくそれは……
五十嵐・山崎・浜田・大島「「「「へ、変態だー!!!」」」お!!!」
そう、ふんどしの男が二人、其処には立っていたのだ。しかも、二人寄り添うように。
???「ふ、変態とはまた酷く言われたものだ……」
???「俺たちに対する侮辱と、その言葉受け取ったぜ……」
大島「へ、変態以外の何だというんだお!!」
高部「いやー!!! 来ないで、寄らないでー!!! なっちゃーん、助けてー!!」
浜田「へ、へ〜ちょ!!! 早くこっちに!!!」
逃げるようにしてこっちにやってくる二人。それをまるでむかつく笑みを浮かべ目で追う、ふんどし二人組み。
???「くくく、何も逃げなくていいのに…… ねぇ、先輩?」
???「そうだな。俺たちは、女には興味ないのに…… まぁ、そっちの男の方は少し魅力的ではあるがね」
バチンと浜田にウィンクを送る角刈りの方のふんどし。
モロにそれを食らった浜田は、バタリとまるで気絶するかのように砂浜に倒れこんだ。口からは泡を吹いている。
浜田「う…… き、気持ち悪い……」
五十嵐「なっちゃん!! いやだ、死んじゃ嫌だよ!!!」
浜田「ご、ごめんへ〜ちょ。僕は、もう駄目だ……」
大島「し、しっかりするお、浜田〜!!」
???「やーね、照れちゃって可愛い」
???「もう、首輪つけてペットにしちゃいたいわ」
浜田「ゴファ!!!」
五十嵐・大島「な、なっちゃ〜ん!!!」「浜田〜!!!」
血を吐いて倒れる浜田。享年、23歳であった。
※気絶しただけです
大島「くそ、なんて奴らだお……」
五十嵐「よくも、よくもあたしのなっちゃんを…… ゆるせない!!」
???「ふふふ、そうだ。そう。その感じ。もっと恥じろ、もっと苦しめ。だがな、俺が受けた屈辱はこんなものじゃないぞ!!!」
???「そうだな王子。お前が受けた屈辱は、こんな物じゃないな……」
山崎「…… 屈辱? 王子? …… まさかお前!!!」
そういって立ち上がる山崎。そうだ、この男たちに、山崎たちは既に会っている。それも、つい最近。
王子「そう、やっと思い出したか、山崎。お前に倒された、卓球王子だよ!!!」
先輩「同じく、王子の一つ上の先輩だ!!」
そう、そいつらは二月ほど前に前に、山崎が古今東西ゲームで破った男たちであった。あの後、まるで最初から居なかったかのごとく去っていったので、というよりもポットでの使い切りキャラだと思っていたので、まるで気づかなかったが、確かにあのときの二人に間違いない。
王子「お前を倒すため、俺は卓球の道をあきらめた。そして、このビーチバレーでお前を倒すべく、先輩と血の滲む様な練習を繰り返してきたんだ…… ここで、あったが百年目…… 今度こそ勝たせてもらうぞ!! 山崎!!」
ふんどしを翻し、こちらを指差す二人。その挑発的な態度、そしておそらくこの勝負をしなければ、奴らは有無も言わさず地球侵略を始めるに違いない。ここは、受けるより他に手は無い。
が、改めて周りを見回してみると。
浜田は死亡中。
五十嵐は浜田について離れない。
大島は役に立つか分からない上に、やる気も無ささそう。
山崎「こ、これは…… 勝てないかもしれない……」
山崎の額を一筋の汗が伝った。果たして、こんなろくでもない戦力で、勝てるというのか。
王子「どうした!! はやく出て来い山崎!! それとも怖気づいたか!!」
先輩「ふっ、もっとも。出てきたところで、俺たちの敵ではないだろうがな……」
山崎「く、くっそー!!!」
山崎が、下唇を噛もうとしたその時であった。
???「その勝負、私が預かる!!!」
山崎・大島・王子・先輩「「「「だ、誰だ!!!」お!!」」」
急にどこからともなく声がする。皆が皆、声の主を探し四方を見回る。そのとき、死んでいるはずの浜田の指先が天を指差した。
咄嗟に見上げる、五十嵐たち。其処には、大きな音で翼をはためかせる、黒い機影が浮かんでいた。
飛んでいるのは、日本軍の主力空中兵器のヘリコプター。声の主は、まさしく其処に居る。
と、ヘリから飛び降りる一つの影が。それは、五十嵐たちのすぐ手前に、静かに舞い降りる。
そう、その者こそ、声の主。
紺色のスクール水着ではちきれんばかりの胸と身体を包み込み、胸にひらがなで「ゆきこ」と描かれた白い布を張った、高部であった。
高部「ふっ…… こうやって会うのは久しぶりだな、大島……」
大島「た、高部……」
大島(気でも狂ったかお!!??)