第三十一話 クロネコだったり、ペリカンだったり、飛脚だったり
五十嵐「うわー♪ ついに届いた」
山崎「パラシュートで投下とは、やるな……」
浜田「ちゃんと四つ小包があるよ」
大島「それにしても、流石民間だけあって、宇宙人に容赦が無いお……」
今や世界の航空事情おも掌握してしまった宅急便業界に、彼らがこれほど感謝した日は無かっただろう。会社のロゴマークがペイントされている戦闘機は、そのまま飛行系宇宙人の群れを撃墜しながら本国へと帰っていった。その後姿に手を振る三人。
この日、三人に届いたのは、先日の救出作戦での褒章品である。それは約、一週間ほど前に高部を通して、軍の上層部に提出したものだ。おそらく、複雑な処理を隔てた為だろうか、はたまた戦時下だからか。随分と届くのに時間がかかった。
大島「それじゃ、早速開けてみるお」
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大島の場合
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大島の小ぶりな包みを音を立てた破る山崎。なにやら本らしいものが出てきたので、表紙のほうを見てみる。
山崎「え〜、何々? Java2(Exam Cram)? なんだこれ、洋書じゃねえか。こんなもの読むのかお前?」
大島「そうだお、Javaの参考書だお。そろそろ本格的にJavaを勉強しようと思って、買ってみたお」
やたら難しそうな参考書。しげしげと手に取り見つめる山崎からそれを奪い取ると、大島はちゃぶ台の前に座りPCをつける。場所が場所ならなんとも絵になる光景である。五十嵐も浜田も、そのいつもとは違う真面目ぶりに、おぉと感嘆の声をあげる。
五十嵐「島ちゃん凄いね〜。そんな難しい本読めちゃうんだ」
大島「別にこんなの普通だお」
山崎「いや〜お前の事だから、漫画とかそういうのを頼んだもんだとばっかり思ってた」
浜田「僕も僕も」
五十嵐「あたしも」
大島「お前ら、人を馬鹿にしてるのかお?」
仮にも、士官学校での男にそれは無いだろう。
青筋を立てて起こる大島。まったく、偏見というのはされた本人からしてみれば、不快以外の何物でもない。
だが、言った本人たちは対して悪気が無いというのも、嫌味を言っても取り合わないのも事実である。
全然悪びれた様子も無い五十嵐や山崎に、大島は大きくため息をついた。
五十嵐「けど、どうしよ〜。あたし、島ちゃんがどうせそういうの頼むだろうからって思って、おもいっきり嗜好品頼んじゃった」
山崎「俺も思いっきり嗜好品を頼んじまったな……」
浜田「それなら僕も娯楽品だよ」
五十嵐「あれ? じゃぁ、何も気にする事ないんじゃない…… な〜んだ」
五十嵐・山崎・浜田「「「あははははははは」」」
大島「こいつら、戦時中だって事を分かってるのかお」
呆れた顔で三人を見つめる大島。
しかしながら、彼の内情はそんな顔とは裏腹に、落胆に満ちていた。
大島(しまったお。こんな事なら、漫画を頼んでおくべきだったお……)
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五十嵐の場合
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五十嵐「じゃーん。あたしは、美味すぎる棒30本セット×20だよ〜」
一番大きい包みを開けると、たしかにそこには美味すぎる棒の袋詰めが20個入っている。
浜田「凄いな、美味すぎる棒を600個。1個10円だからって、買いすぎじゃない? ん、これもしかして……」
五十嵐「そうだよ、なっちゃん!! なんと、全種類集めちゃいました!!」
浜田「うわ〜。凄いな…… あ、これはじめて見る。何々、「マグロステーキ味」? 凄い味もあるんだな」
山崎「よくやるな、まったく」
五十嵐「えへへ、一度やってみたかったの〜。こういうときでないと、中々全種類って集められないからね〜」
箱の中から取り出され、ずらりと並ぶ美味すぎる棒の詰め合わせ袋。
その異様な光景に、プログラミング中だった大島も思わずやってきた。
大島「へ〜。すごいお、へ〜ちょ。良くこんな事思いついたお…… 流石へ〜ちょだお」
五十嵐「いやいや〜 そんな事ないよ〜」
大島(あんな命がけの作戦の代価に、こんな馬鹿なこと普通思いつかないお)
浜田「僕は美味すぎる棒は、サラダ味とめんたいこ味がすきなんだよね」
山崎「俺も子供の頃よく食べたな。チーズとポタージュ。後はチョコを良く食べてたな」
大島「漏れも、チーズは好きだお。あと、納豆も」
浜田「あぁ、あれね…… 凄いよね、本当に納豆みたいな味がするんだもん(汗」
山崎「何? そんなのあるのか」
大島「あるお。他にもおにぎり梅干味とか色々あるお。今は売ってないけど」
浜田「おにぎり梅干味は食べてみたいな〜」
じゅるりとよだれをすする大島。そういえば、ここ最近こういった類のジャンクフードを食べていなかった事に三人は気づく。すると、たとえ元が10円のものでも、凄くおいしそうなものに見えてくるから不思議だ。
山崎・浜田・大島「「「ねぇ、へ〜ちょ。少し分けて?」」お?」
五十嵐「だ、駄目だよ!! これは、あたしが一人で全部食べるの!!! 誰にも分けてあげないんだから」
そういって、美味すぎる棒の前に立ちはだかる五十嵐。目は本気だ。
山崎(まぁ、へ〜ちょの事だし)
大島(そのうちきっと根をあげるお)
五十嵐「絶対、ぜ〜ったい。あげないんだからね」
浜田「い〜じゃん、へ〜ちょ。少しくらい」
五十嵐「なっちゃんでも、駄目なものは駄目なの〜!!」
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浜田の場合
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浜田「僕のはこれ。どんな所でも壊れない、どんなに振り回しても狂わない、超頑丈で有名な、T(Time)Shock!!」
一番小ぶりの小包から、時計を取り出す浜田。だが、そんな浜田のテンションとは裏腹にシーンと静まり返る、三人。
そんな三人の反応に、浜田は思わずキョトンとする。
浜田「み、みんな、どうしたの?」
山崎「いや、フツーだなと思って」
大島「フツーすぎてつまんないお」
五十嵐「ごめんね、なっちゃん。あたしも、フツーだなって思っちゃった……」
五十嵐・山崎・大島「「「総じて、地味!!」」だお!!」
浜田「え、ええぇええ!!!???」
浜田「じ、地味…… 僕って地味なのか……」
いじいじと体育座りで落ち込む浜田。見かねた五十嵐が、すぐさま駆け寄る。
五十嵐「な、なっちゃん!! 気にしちゃ駄目だよ。それに、地味なのは個性であって、別に悪い事じゃないよ!!」
浜田「慰めなんていらないよへ〜ちょ……」
五十嵐「いじけないでよ、なっちゃ〜ん。もう!! 山ちゃんも、島ちゃんも何とか言って上げてよ!!」
流石に言った手前良心が痛んだのか、山崎や大島も浜田の元に近づく。
山崎「そ、そう落ち込むな浜田。へ〜ちょの言うとおり、地味なのは悪い事じゃないぞ」
大島「そうだお。逆にプラスに考えるお。地味で良かったって」
山崎「うんうん。きっと、地味でよかったーって事がこの先あるって」
浜田「…… たとえば、地味だとどんな良い事があるのさ」
シンと辺りが静まり返る。四人とも、ピクリともせず、沈黙の時間が過ぎた。
浜田「ほら、やっぱり!! どうせ、地味なんて、何のメリットも無いんだ〜!!!」
大島「は、浜田、落ち着くお。まずは落ち着くお!!」
五十嵐「そうだよ、なっちゃん。落ち着いて!! 山ちゃんも、早く何か地味で良いこと考えて!!」
山崎「え、俺に振るの!? ちょ、まって…… そ、そうだ!!」
山崎がびしりと浜田を指差す。と、取り乱していた浜田の動きが止まる。
山崎「バレンタインデーの日に、チョコが1個ももらえなくても、気にされない!!」
五十嵐・大島、そして浜田の周りの空気が一瞬にして固まった。
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山崎の場合
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山崎「さて、打ちひしがれている浜田は放っておいて」
五十嵐「む、無責任だよ山ちゃん!!」
皆から離れたところでいじいじとしている浜田。それを言ったとおりに放っておいて、山崎は自分の荷物を開ける。
山崎「最後の俺は、これだ!! 日本の銘酒5本!!」
そういって山崎は箱の中から、一升瓶を豪快な音を立てて抜き出した。何故こんな、割れ物危険な物品をパラシュートで投下したのかは疑問が残るが、その割には一升瓶は綺麗だった。
大島「お〜。山崎らしいといえば、山崎らしいお」
五十嵐「山ちゃんって、お酒好きそうな感じだもんね。それにしても、高そうな名前のばっかだね〜」
山崎「まぁな。一本、五千円とかそれくらいだぞ。前回のミッションで一番体張ったからな、これくらいはしてもらわなくちゃ割りにあわねえさ」
大島「それにしても、変な名前のお酒ばっかりだお」
五十嵐「これは、森…… 外?? この真ん中の字ってなんて読むの」
大島「これは、おうって読むお。って!! これ、人の名前だお!! 森鴎外だお!!」
山崎「いやー。名前のインパクトに負けて、買っちゃった。確か7000円位だったかな、これ」
大島「た、高すぎるお!! 肖像権もへったくれもないお。うぉ!! こ、こっちは「我輩は猫である」って書いてあるお!!!」
山崎「焼酎って、たまに変な名前の酒があったりするよな〜」
五十嵐「ねぇねぇ、我輩は猫であるっていったい何なの〜」
浜田「有名な小説だよ、中学校の教科書とかで見なかった?」
五十嵐「あたし、知らない……」
へらへらと笑いながら、箱の中を漁る山崎。次々と変な名前の酒が、箱の中からは取り出される。
浜田「「中納言」、「天下布武」、「ポーツマス条約」……」
大島「全部変な名前のばっかりだお。ギャ、ギャンブラーだお……」
山崎「普通の酒はほとんど飲んじまったからな、こういう変わった酒でも飲まねえと!!」
ケラケラケラと山崎はあっけにとられて目を丸くしている浜田・大島を笑った。
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高部の場合
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高部「つ、ついに届いたか……」
高部は届いた小包を抱え辺りを、見回す。誰も居ないのを、確認するとチラッと箱の中身を覗こうとする。無論、テープで目張りされているため、中は見えるはずは無い。
仕方が無いので、そのまま自分に与えられたテントへと駆けていく。
高部「ふふふ、待って居ろよ大島……」
ニヤニヤと楽しそうに笑う高部に、すれ違った兵士たちは只ならぬ恐怖を感じて、みな硬直するように敬礼をし続けた。