第二十九話 SEXYorCUTEY
草木も眠る丑三つ時。夜陰を切り裂く三つの影があった。
いや、そんなたいそうな物ではない。とにかく、林の中をガサゴソと突っ切って歩いていく姿が三つ。
山崎・浜田(浮かない表情)・大島だ。
浜田「はぁ。何か、凄い虚脱感……」
山崎「何言ってんだ、健全な証拠だろうがよ」
大島「ツレションならぬ、ツレ○○○○とはまさにこのことだお」
山崎「気持ち悪いな俺らwwwwwwww」
大島「本当だおwwwwww」
山崎・大島「「うわっはっはははははは!!!」お!!!」
浜田「うぅ。よりにもよって二人に出るところを見られるなんて…… 迂闊だった……」
三人三様に、手には一冊の本とティッシュ箱を持っている。
山崎の手には、グラマラスな外国人のお姉さんが。
浜田の手には、日本人と思しきちょっぴり小ぶりな胸をした水着の女の子が。
大島の手には、いわゆるアニメ絵で描かれた漫画が。
山崎「それにしても、大島。お前、そういうのが好きなのか?」
大島「そうだお、何か悪いかお?」
山崎「別に悪かないが。現実の女の方が良いとは思わないのか?」
大島「全然思わないお。だいたい、リアルの女なんてうざったくて相手なんてしてらんないお」
山崎「お子ちゃまだな。まったく。そういうの含めて、楽しいんじゃないかよ」
大島「五月蝿いお、おっぱい星人。な、浜田お?」
浜田「なんで僕に話を振るのさ!?」
じっと浜田の本を見る大島。嫌な予感に浜田の肌にさぶいぼが立つ。すると、あと言わぬ間に山崎が、浜田の持っていた本を取り上げた。
山崎「何々? 激撮スレンダー天国〜南国水着編〜? はぁ、お前も結構変わった趣味してるな」
浜田「ほ、ほっといてよ山さん!!」
山崎「何? お前胸が小さいのが好みなの?」
浜田「そ、そんなこと……」
じとめで浜田を見つめる二人。気おされて、とても嘘をつけないと思ったのか、浜田はうなだれた。
浜田「あります(泣」
大島「いいおな〜、別にそんなこと。人の性癖にいちいち難癖なんてつけて欲しくないお」
山崎「いやまぁそうだがよ。けど、大島は……」
大島「五月蝿いお!!(怒」
山崎「いや、俺はお前のことを心配してだな……」
と、そういいかけたところで山崎にガンを飛ばす大島。そろそろ本気で怒りそうなので、それ以上言うまいと山崎は言葉をとめる。そして気晴らしにと浜田から奪った雑誌に目を通す。
山崎「うわー。見事にぺったんこなのばっかだな。俺にしてみりゃ、目の毒だ」
大島「どれどれ…… そうでもないお、AからBくらい。嘗ての日本人の平均くらいだお」
山崎「しかしまぁ、なんでまたこういうのが好きなんだ浜田」
浜田「な、何でって…… それは、その……」
大島「もしかしてロリコンかお?」
浜田「違うよ!! だいたい、好きなものは好きで良いじゃないですか。山さんや大島だって、それが好きなことに理由があるの?」
山崎「俺はやわらかくて癒されるから好きだぜ」
大島「日常生活じゃありえない展開とかが好きだお」
浜田「う……」
一言も詰まることなく言いのけた山崎と大島。うろたえる浜田に、にやりと微笑み二人はにじり寄る。
大島「さぁ、何で好きなのかお?」
山崎「へ〜ちょには言わないからさ、言ってみろよ浜田?」
浜田「ちょ、二人とも落ち着いてよ!!!」
大島「いたって平静だお」
山崎「同じく」
ワキワキと手を鳴らして歩み寄る、その動きに更なる危機感を覚える浜田。覚悟を決めて口を開いた。
浜田「べ、別に…… その、あんまり大きいの好きじゃないし。それに、華奢なほうが女の子って感じだし……」
大島「見るを、ここだけ紙が擦れてるお!! よくここら辺を使ってるお!!」
山崎「何!? どこだどこだ!? 何々〜 紺色の甘い誘惑 スクール水着……」
大島「やっぱりロリコンだお!!」
浜田「き、聞いてよ!! 二人とも!!」
浜田の必死の表情に大爆笑する二人。当然怒る浜田をなだめて、話を元に戻す。
山崎「なるほど、お前の好きな女性のタイプというわけか…… 女の子女の子している娘が好きってことな」
浜田「う…… うん。だって、可愛いじゃない…… あ、元気な娘も好きだけど……」
大島「へ〜ちょ見たいにかお?」
ぼっと浜田の顔が赤くなる。それを見て、またケラケラと笑い出す、二人。今度は何も言う気になれなかったのか、浜田は恥ずかしそうにツカツカと一人先に歩いていった。そんな様子にまたケラケラと笑う山崎と大島。
山崎「まったく、反応がかわいいね、あいつは」
大島「まったくだお。からかい甲斐があるってものだお。で、どうおもうお。あの二人? 上手く良くと思うかお?」
山崎「いくだろ多分。二人とも、多かれ少なかれ意識してることだし。ただ、こいつを見つかっちまうとなんていわれるかは知らないがな……」
大島「へ〜ちょの事だから、大激怒間違いないお」
五十嵐「誰が大激怒なの?」
懐中電灯を持ったへーちょがいきなり現れる。びっくりして、飛びのいた山崎と大島。と、ここで本を落としてしまう。
大島「へ、へ〜ちょ!! 何故ここにいるお!?」
五十嵐「起きたら皆いなくて、心配になって探してたんだよ。それより、何か落としたよ?」
そういって、山崎が落とした本を見て、五十嵐が硬直する。
ヤバイ、そう思って瞬時に二人も硬直した。
五十嵐「山ちゃん? 島ちゃん? これはいったい何かな……」
山崎「えーとその。しゃ、写真集?」
大島「そ、そうだお。しゃしゃ写真集だお、ちょっと過激なだけの……」
そう言いかけた所で、二人の顔が恐怖に引きつる。彼らの視線の先には、へーちょが鬼のような形相で笑っていたのだ。
五十嵐「言い訳するなんて、みっともないよ!!!」
山崎・大島「「ご、御免なさい!!!」お!!!」
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五十嵐「まったく!! 男の子ってば不潔なんだから!!」
しゅんとした表情で燃やされる雑誌を見つめる三人。相当のお気に入りだったらしく、山崎・大島は涙をこぼしていた。唯一、浜田だけは、笑っているように装っていたが。それは、五十嵐がそばにいる為であって、本心はそれはもうなきたくて仕方がなかった。
五十嵐「なっちゃんからも言って上げてよ!! エッチなのは駄目だって!!」
浜田「いや〜その……」
涙混じりに睨みつける二人を前にしては流石に声も出ない浜田。
浜田「そのね…… 男の子にはこういうのも必要だから……」
五十嵐「駄目なの!! エッチなのは地球の敵なの!!」
浜田「はぁ……」
五十嵐「分かった? なっちゃん?」
浜田「分かりました……」
五十嵐「山ちゃんも島ちゃんも分かった?」
山崎・大島「「分かりました」お(泣」
メラメラと燃えていく雑誌。
揺らめく炎を見つめながら、男たちは言い知れぬ虚脱感を感じていた。
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五十嵐「もし、なっちゃんもあんな事したら、ただじゃおかないんだからね!!」
浜田「う、うん。わかったよへ〜ちょ」
浜田(よかった〜 ばれなくて……)