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第二十八話 暑がり?寒がり?

 何でこんなことをしているのだろう。

 炎天下の真っ只中、轟々と燃える薪を前に、布団に包まった男が二人。女が一人。

 浜田は、いったいぜんたい何故こんなことになったのか、そのことを必死に思い出そうとした。

 そう、あれは確か、今日の朝食が終わってすぐの出来事だった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 五十嵐「なんか、いっきに暑さが戻ってきたよね」

 浜田「そうだね。元々ジャングルだから仕方ないとはいえ、ちょっときついね」

 大島「ちょっと浜田、少しずれるお。漏れに扇風機が当たらないお」

 浜田「あぁ、ごめん大島。ちょっと待ってね」


 山崎「ったく、あいつら倒したらまた熱帯地域に戻りやがった。あっちーなー」


 山崎はTシャツをパタパタとはためかせ、服と体の間に空気を送り込む。あいもかわらず三人は扇風機の前でまとまって、声を揺らしている。まぁ、年中熱帯のジャングルではこうなってしまうのも無理はないだろう。

 件の宇宙人を倒してからというもの、山はもとの青々しさを取り戻し、いつの間にやら気候も夏に逆戻り。いらなくなったかと思われた扇風機をもう一度取り出してかけ始めるのに、そうそう時間はかからなかった。なんせここは赤道直下にある地域だ、普通に考えれば秋など来るはずも無ければ、気候が変わることはまず無いのだ。

 

 山崎「あぁくそ!! なんかこう、もっと快適に過ごせねえもんかな〜。どうにも四季が無いって言うのは、歯がゆいっていうかもどかしいっていうか。調子狂うんだよな〜」

 大島「激しく同意だお」

 浜田「僕の場合は、季節の変わり目に体調崩すからこっちのほうが楽なんだけどな〜」

 五十嵐「あたしも〜。夜中に暑くて毛布脱ぎ出しちゃう派」

 浜田「あ、それ分かる。で、朝方冷え込んできて目を覚ますんだよね」

 五十嵐「そうそう。毛布って早く出しすぎると、寝るときは寒いから良いんだけど、そのうち暑すぎるようになるんだよね〜」

 浜田「かといって出さないと、今度は寒くて寝付けないしね〜」


 たかが毛布のことで嬉々として騒ぐ二人を、元気だなぁという表情で見つめる山崎。同じく、話から完全に外されて、扇風機に向かってただひたすらら単調というか単音で話しかける大島。そんなことはいざ知らず、二人の会話はまだまだ続く。果てはストーブに、おこたに湯たんぽの話となり、ついにはホッカイロは服に貼るか貼らないかの話までに及んだ。

 と、そこで大島がふとつぶやいた。


 大島「ん? もしかして、二人は寒がりかお?」


 ホッカイロの会話を断ち切るように入ったその質問に、二人は顔をしかめる。


 五十嵐「ん〜どっちかって言うとそうかな?」

 浜田「確かに、僕もどっちかって言うと夏のほうが好きかも」


 浜田は対して気にも留めずに言っただけだろう。しかし、どうやら、夏のほうが好きというのを気に食わない男が、一人いたらしい。そう、三人から離れて座っている山崎だ。


 山崎「聞き捨てならねえな。夏のほうが良いだと?」

 浜田「や、山さん?」


 つかつかと浜田に歩み寄るとどっしりと座る山崎。突然の話への乱入に少し、浜田は気おされている。


 山崎「いいか、夏なんかより冬のほうがよっぽど良いぞ。考えても見ろ。照りつける太陽、地面から立つ放射熱。揺らめく蜃気楼に、ただただ続く砂漠。暑いことなんて何にもいいことなんてねえじゃねえか」

 大島「山崎…… それは、何か夏のイメージとは違う気が」

 山崎「この炎天下の中、敵の野営地目指して昼夜無く行軍する歩兵の気持ちがお前に分かるか? 太陽に照らされ、闇に熱を奪われ。それでもなを前に進むしかない歩兵の気持ちが」

 浜田「は、はぁ……」

 山崎「わかんねえだろうな、お前たちじゃ、きっと。あんな行軍に耐えられるはずが無い。というか、俺自身でもいまだにあの行軍から生きて帰れたことが信じられない。いや、それはまぁいいとして。いいか。お前らが思うよりも、暑いってのは過酷で、残酷なもんなんだよ。軽々しく、暑い夏のほうが良いとか言うんじゃねえよ」


 山崎の熱演にただただ呆然とする浜田と大島。が、五十嵐だけは腑に落ちないといった表情で、山崎を睨みつけている。


 五十嵐「けどそれは、山ちゃんの主観の話じゃないの?」

 山崎「いいや、これは絶対だな。寒いほうが絶対に良い」

 五十嵐「そんなこと無いよ!! 暑いほうがきっと良いに決まってる!!」

 山崎「ほほう。それじゃへ〜ちょは、さっき言ったような暑さに耐えれるとでも言うのか?」


 うーとうなる五十嵐。浜田もこればっかりはと目を瞑った。耐える自信などあるわけが無いのだ。同じく大島も口を閉じる。

 が、五十嵐だけはやはり引こうとはしなかった。


 五十嵐「耐えれる!!」


 自信満々でそういい切る五十嵐。だが、それを待ってましたといわんばかりに、山崎は残酷に笑った。


 山崎「よっしゃ。それじゃやってみようじゃねえか」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 そう。そういう理由で五十嵐たちは、本当にそんな炎天下を体験しても夏が好きと言い切れると実証するために、このようなことをしているのだ。

 ガンガンと木を焚き火へと入れる大島。付き合いと称して一緒に焚き火に当たっている浜田と山さん、そしてメインの五十嵐は既にゆで蛸と言っていいほどに顔を真っ赤にしている。おまけに、意識も朦朧としているのか、五十嵐の動きは既におかしい。唯一まだまともな山崎も、顔中に汗を染み出させて苦悶の表情にいつ変わってもおかしくないくらいに、顔を引きつらせている。

 

 五十嵐「な、なっちゃ〜ん。だいひょうぶ!?」

 浜田「へ〜ちょこそ、大丈夫なの? 顔真っ赤だよ?」

 五十嵐「あたしはだいじょうぶらろ〜 らって、暑いのだいすきだも〜ん」

 山崎「その割りにはへばってるように見えるがな」

 浜田「ですよね」

 五十嵐「だ、大丈夫!! あたしはまだゃいへるほ!!」

 浜田「ろれつが回ってないよ、へ〜ちょ!!」


 頭をぐわんぐわん回す、五十嵐。と、そんな五十嵐をからかうように、大島はどんどんと木をくべていく。


 大島「燃えるお燃えるお!! どんどん、燃えるお!!」

 山崎「ノリノリだな大島…… いっそ怖いくらいだ」

 大島「そうかお、それじゃ魔女笑いでもしてみるお。 イ〜ヒッヒッヒオ!! イ〜ヒッヒッヒオ!!」

 浜田「うわぁ!! 大島、炎を大きくしすぎだよ!! もっと抑えて」


 浜田の忠告も無視してさらに木をくべる大島。少しトランス入っているのか、山崎たちの声が届いているのかさえ非常に怪しい。むしろ聞こえていても確信犯的に、聞こえていないフリをしているとも十分に大島のことだから考えられる。

 なんにせよ、焚き木の周りは既に人が耐えれるような状態ではなかった。

 と、ここで、ついに我慢の限界を振り切ったのか五十嵐が、布団から飛び出した。


 五十嵐「も!! もうぅ、むりはろー!!!」

 山崎「なんだ? ギブアップかへ〜ちょ!!」

 五十嵐「うにゅん!! なっひゃんあひょははんはっへれ!! ほひはぁ!!」


 そういって、焚き火から少しはなれた所にある木まで走ると、バタリと前倒れにうつ伏せる五十嵐。顔は真っ赤に湯であがり体中から汗が噴出している。

 そんな五十嵐のだらしない姿に、山崎は勝ちを確信し大きな顔で笑い始める。五十嵐からしてみれば、言った手前この体たらく、山崎の笑い声を恥ずべきなのだが、それよりも暑さのほうが勝ったのか一向弁解する気配どころか、動く気配すら無い。


 山崎「まったくあれだけやる気満々だったくせに、情けねーな」

 浜田「大丈夫かな、へ〜ちょ……」

 山崎「人の心配より、自分の心配だろ? お前は大丈夫なのかよ浜田」

 浜田「う〜ん。実のところ僕も、いっぱいいっぱいなんだよね……」


 浜田の額を伝う汗。いつもの浜田の笑みにもどこと無く元気が無い。平静を装っていながらも、やはり浜田も結構効いているらしい。


 大島「どうするお? もうやめるお、浜田?」

 山崎「あとはお前しだいだぜ、浜田?」

 五十嵐「う〜ん」


 そう言って、五十嵐のほうを見る浜田。そうしてしばらく考えた後、すっと布団から出て立ち上がる。


 浜田「ん〜。へ〜ちょのことも心配だしね。ここでやめとくよ」

 山崎「なんだよ、その余裕ぶり。納得いかねえな」

 浜田「いやいや、僕も限界だっていってたじゃん山さん。暑いほうが良いなんて、僕が間違ってたよ」

 山崎「本当か〜? 単に、へ〜ちょの事が心配なだけじゃないのか〜!!」

 浜田「からかわないでよ山さん…… とにかくほら、大島、火の始末して? 山さんも体くらい洗ってきなよ」

 大島「わかったお」

 山崎「そだな……」


 山崎は立ち上がり布団を折って片付けると、まだまだ余裕といった表情で川のほうへと歩いていく。大島はあらかじめバケツに用意していた水を薪に浴びせ、消化をしはじめた。

 一方の浜田は、タオルと消火用の水を一桶だけ持って五十嵐の下へ。ぎゅっと水を含んだタオルを絞ると、五十嵐の頭に載せてあげる。


 五十嵐「なっひゃん。ありがほ〜」

 浜田「もう、無茶しちゃ駄目だよへ〜ちょ。女の子なんだから」

 五十嵐「ご、ごへ〜ん……」

 浜田「ほら、仰向けに寝たほうが楽だよ……」


 そういって五十嵐の体を回転させて、浜田が固まる。

 というのも、汗で服がスケスケになり五十嵐のボディラインがくっきりと浮き出してしまっていたからだ。健全青年である浜田はごくりと唾を飲んでしまう。

 胸こそツルツルのペッタンペッタンであるが、その引き締まったくびれに、整ったおへそ。そして、少しばかり上ずった息遣いと、うっすら紅がかった肌の色。そんな姿を見せられて平静でいられる男のほうがどうかしている。ある種男の性なのだ。そして、それでもそれに抗おうというのも青年・青少年の性である。


 浜田「ほ、ほらへ〜ちょ。楽になったでしょ……」

 五十嵐「ふへ? ほ、ほんほら〜…… さふがなっひゃんはね、なんへもひっへる」


 見ないように見ないようにと、五十嵐から視線をそらす浜田。冷静になろうと大島のほうを見て、関係ないことを考え始めたりしだす。


 浜田(落ち着け、落ち着くんだ僕。そう、こういうときこそ、何か無いか…… 九九とか。うん、九九とかやろう、一の段から九の段まで順に言っていけば落ち着くはずだ。そう、まずは深呼吸だ深呼吸……)


 浜田「スー、ハー。スー、ハー」


 大島(何やってるお浜田は?)


 いぶかしげな表情で浜田を見る大島。火は既に消し終わったが、灰やら燃え残った木々やらの片づけがまだ残っているので忙しいのか、しばらく見つめた後すぐ作業に戻った。

 と、大島が作業を終えるとともに深呼吸を終える浜田。


 浜田「よし、行くぞ、いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん……」

 五十嵐「うぅ!!!」


 びくりと浜田飛び上がった、今度は違う意味でびっくりしたのだ。というのも五十嵐が浜田の背中に、ぺったりと張り付いているのだ。胸ごと。

 それはもちろん、整った心臓の鼓動もとたんに暴走し始めても無理は無い。

 

 五十嵐「なっちゃんの体つめたーい。きもちいー……」

 浜田「ちょっと、へ〜ちょ!! や、やめてよ、そのちょっと!! いろいろ…… 当たってるよ、その……」


 夢と希望でたわわには実ってはいないが、むずかゆいような先端が当たる感覚が、さっきから背中に感じ取られて……

 ものすごい勢いで浜田の緊張と欲望のバロメータが上がっていく。


 五十嵐「ふぇ? 何が〜?」

 浜田「な、なんでもない!! とにかくやめてよ!!」


 がばりと、五十嵐を振り払おうとする浜田。もうバロメータは振り切れる寸前である。はぁはぁと、息を荒げて五十嵐を無理やりに引き離す。


 五十嵐「う〜、痛いよなっちゃん…… せっかく気持ちよかったのに……」

 浜田「僕だって暑いの!!」


 心にも無いことを言ってごまかす浜田。幾分そっけなく、そして突き放すように五十嵐に言ってみせる。

 と、とたんにむくれっ面になる、五十嵐。


 五十嵐「あ〜も〜!!! 暑い!!!」


 バッという何かがはぜる音。

 幾つかのボタンが宙を舞った。

 そして、いくらかの赤い液体も同時に宙を舞った。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 山崎「おう、どうした浜田。お前も、汗流しに着たのか?」


 顔に手を当て白シャツ一枚で向かってくる浜田に、山崎は声をかける。

 声をかけられた浜田は、山崎の前で歩みを止め、空いているほうの手を前に開いた状態で突き出した。


 浜田「前言撤回」


 それだけ言うと、鼻血をたらしながら川へと歩き出す浜田。


 山崎「な、何だ?」


 ポカンとした表情の山崎だけが其処には残された。

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