第二十五話 秋の味覚編 Part5
懐から出てきた写真に驚く三人。というのも、その二つの写真に写っているのは、紛れも無く先ほどの宇宙人たちであった。
浜田「どういうこと? いったいこれはどういうこと」
大島「あいつらが嘘をついてたってことかお?」
サイラ「もしや、貴殿らこの男たちを知っているのですか?」
簀巻きにされたサイラの視線をよける様に三人は顔をそらす。
山崎「どうする。もしかすると、俺たちとんでもないことに加担しちまったんじゃないか?」
浜田「宇宙人の言うことなんて信用するんじゃなかった」
大島「それを言ったら、こっちの言ってることも信用できないお。なにより奴の格好だお」
そういってちらりとサイラのほうを向く三人。きょとんとした、まるで魚の死んだ目のような目で見つめ返されて、思わず三人は噴出しそうになりきびすを返した。
秋刀魚が侍の格好して、それでいて体はマッチョという、わけの分からないいでたちなのだ。それで、死んだような目でこちらを見つめ返されれば、嫌がおうにも噴き出してしまう。
山崎「信用できねぇ…… あんな、ギャグキャラ信用できねえwwww」
浜田「駄目だよ笑っちゃ。あれが、彼の星では普通の格好なんだよ……」
大島「あのちょんまげ…… クオリティ高すぎるお」
山崎「魚のくせにどこを結い上げるんだっつうの。なぁ?」
大島「まったくだおwwww」
もちろん尾である。
サイラ「あの〜もし。よろしいでござるか?」
山崎「えぇ、よろしいでござるよwww」
浜田「よろしいでござるwww」
大島「よろしいでござるおwwwwww」
にっこりと笑って振り返る三人。特に大島はつぼにはまったのか、今にも笑顔で歪んでしまいそうな顔の皮を一生懸命伸ばしている。と、そんな顔を見て、残り二人の笑顔も少し歪み始める。
サイラ「地球人の貴殿らが拙者のような宇宙人を警戒するのは良く分かるでござるよ。しかし、このようなやり方は、双方気持ちの良いもではないと思うのでござるよ。ここはやはり、話し合いで解決するのが、最良だとはおもわぬか」
大島「お、おもうでござるwwww」
サイラ「そうでござろう。しかしながら、拙者の立場を理解してもらわぬことには話しようがないでござるな。よし、では拙者がなぜこの地球に来たのかからお話いたそう」
大島「よろしくたのむでござる」
三人の思いもいざ知らず、いたって冷静なサイラ。目を細めてまるで諭すように語り始めるのだが、その姿は笑いを誘うものでしかない。ぷと、大島が噴出した。
サイラ「はて、何か言いましたかな?」
大島「い、いえなんでもないですお。続けてくれだお」
山崎・浜田((あ、あぶねー))
サイラ「それでは…… まず、拙者は……」
と、ここでピコリとサイラのちょんまげが動く。一瞬のため、思わず三人目を疑ったが、すぐにまた動く。右へ、左へ。上へ、下へ。小刻みにまるでサイラの話に相槌を打つように、ちょんまげのように結い上げた尾っぽが動くのだ。
山崎(だ、駄目だ。笑ってはいけない)
大島(笑ってはいけないお)
浜田(笑っちゃいけないんだけど)
山崎・浜田・大島(((気になって、話に集中で気ねー))お)
山崎(まるで、捨てられた子犬のようにフリフリと)
大島(それでいて活き造りのごとく荒々しく)
浜田(何故かわかんないけど、新鮮に輝いて……)
三人が三人、顔を隠すためアンドちょんまげから目をそらすために俯き気味になる。と、細目で見ていたのか、サイラがそんな彼らの姿に気づき目を開ける。怪訝そうな顔で、三人を見ると話の腰を折って黙り込む。
サイラ「…… 貴殿ら、ちゃんと聞いているでござるか?」
大島「も、もちろんだお……」
浜田「う、うん。聞いてるよ聞いてる」
サイラのほうを向くも、目は笑みを装い決して開かぬ二人。同じように一向に怪訝の表情を崩さないサイラ。一息つくと、なんともやりづらそうにもう一度目をつぶるサイラ。話を再開する気になったらしく、内心三人は胸をなでおろすような心地であった。
浜田(なんとか、誤魔化せたや……)
山崎(とはいえ、迂闊に見るとまた噴出しちまいそうだな……)
ちらりと、前を向く山崎。と、見ればサイラの首元辺りがなにやら蠢いている。よくよく見れば、それは魚特有の鰓である。
この魚、陸だというのに鰓呼吸している。そう思うと急におかしくなり、山崎は思わずむせ返ってしまった。
サイラ「!? ど、どうしたでござるか」
山崎「い、いや何でも」
口をパクパクさせて山崎を気遣うサイラ。その姿に、今度は大島が撃沈する。しかも、大爆笑で。
大島「うはっwwwwwwww!!!」
サイラ「!? うぉ!! ど、どうしたでござるか、いったいなんだというのでござるか!!」
大島「(声にならない声で大爆笑)」
大島の笑いで堰を切ったかのように笑い出す山崎と浜田。ごろごろと転げ周り、もう既に収拾がつかないほどの状況下に陥っている。むしろ、サイラが何かすればするほど、三人の笑いに拍車がかかるような状態だ。
幸い臆してしまったサイラは、動こうにも動けないため、被害は今のところ最小限に収まっている。が、自分が笑われているということに気づいてか気づいていないのか、徐々にだがその心的ストレスが増大していく。
サイラ「お、落ち着くでござる、落ち着くでござるよ!!」
大島「あびゃびゃびゃびゃびゃ!!」
浜田「あははは、あはは、あはははははは!!!」
山崎「うひぃ、うひひひひひ!!」
サイラ「い……」
三人のやむことの無い笑いに、ついにサイラの怒りが頂点に達した。
サイラ「いいかげんにするでござるよ!!!」
頂点に達したついでに、頂点が延びた。サイラの背びれがびょんと突き出したのだ。ついでに胸びれ、腹びれもである。
そのこっけいな怒りの形相は、相手に恐怖とは違うインパクトを植えつける。
そう、そして、そのあまりにも奇異なその姿は、最もこの宇宙人に対してつぼにはまっていた大島の口で適切に表現された。
大島「う、海のエリマキトカゲだお!!!! エリマキ侍秋刀魚だお!!」
浜田「あははは!!!! ホントだ!!! エリマキトカゲだ!!wwwwwwwwwwwww」
山崎「秋刀魚がとかげで、とかげがエリマキ!!! わ、わけわかんねー!!!wwwwwwwwww」
涙を流して笑い出す三人。怒り心頭、エリマキ秋刀魚は、さらにその怒りをかおに表し始める。だが、それすらも大島や浜田たちを笑わせる要因でしかないということに、サイラは気づいていなかった。
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ひとしきり笑い終えた後、三人は改めてサイラを囲む。げっそりと疲れ果てた秋刀魚の宇宙人に、三人は少しひどいことをしたと思ったのか、哀れみの顔を浮かべている。
浜田「ご、ごめんなさいサイラさん。その、僕たち悪気があって笑ったわけじゃ」
サイラ「いいえ、どうせ私はエリマキ秋刀魚ですよ…… どうせ」
大島「悪かったお、このとおり謝るお」
そういって土下座する大島。が、そっぽを向いて一向大島を見ようともしない。はぁ、と山崎がため息をついた。
山崎「サイラさん悪かったって。俺たちも何も悪気があった訳じゃないんだ。許してくれよ、このとおりだ」
サイラ「人の身体的特徴をとやかく言うのはどうかと思うでござる」
山崎「仕方ないじゃん、身体的特徴とか言う前に、サイラさん地球人とは根本的に違う宇宙人なんだし。それに、サイラさんに似た地球上の生物を考えると、どうしてもおかしく思えてくるんだよ」
サイラ「詭弁でござるな」
ぷっくりと胸ビレを膨らませて怒るサイラ。思わずまた、噴出しそうになるも今度はぐっとこらえる三人。ここで怒らせてはこちらにとって何の意味も無い。
山崎「大丈夫、今度はちゃんと聞くから。安心してくれ」
サイラ「本当か?」
浜田「本当、本当」
大島「ちゃんと最後まで話を聞くお」
腕を組み考え始めるサイラ。なんともむかつく奴らではあるが、今は一人でも協力者がほしいとでも言いたそうな表情である。
サイラ「…… わかったでごある。ただ、これで最後でござるからよく聞くでござるよ」
山崎・浜田・大島「「「うん」」」
サイラ「それではまず……」
と、ここでいきなり何故か突風が吹いた。その突風がサイラの尾びれを吹き飛ばす。
シュールに、風に踊らされる、尾びれ。というか、尾びれカツラ。
山崎・浜田・大島「「「お、尾びれカツラだ〜!!!」お」
再び笑い始める三人。だが、既にサイラは怒髪店であった。
サイラ「おぬしら、ちったぁ時間て言うものを大切にしたらどうだ!!!
そんなんでは、その写真の奴らに、地球の半分をきのこ農園にさせられてしまうぞ!!」
山崎・浜田・大島の動きが止まった。