第十六話 初めての作戦 Part4
山崎「おまえら、静かにしろ!!!」
銃声が屋内にこだまする。
一瞬何がなんだか分からなかった衛生兵たちは、その銃声で急に静まり返った。
ベッドで寝ている宇宙人達も、一同に山崎のほうを向く。
手に婦長を抱き、銃を持ちこちらに威嚇する男。
山崎「どういう了見かは知らないが、敵の宇宙人をかくまうなんざお前達気でも狂ってるのか?」
衛生兵1「なっ…… あな」
鈴原「駄目!! 下手に刺激しちゃ駄目よ!!」
鈴原が食って掛かろうとした部下を止める。
苦渋に満ちた顔で衛生兵の顔が歪んだ。
山崎「そうだ、こいつのように大人しくしてれば、命だけは助けてやる。人間だけはな!!」
山崎は銃口を宇宙人の上に向けると、二・三発ほど発砲する。
天井は打ち抜かれ破片が寝ている宇宙人の布団へ舞い落ちる。
宇宙人たちの顔がさっと青ざめた。
衛生兵2「あなた、分かってるの? ここは敵陣のど真ん中なのよ。こんなことしても無意味でしかないわ!!」
鈴原「や、やめなさい七瀬!!」
山崎「あぁ? 何だとてめぇ」
一人の衛生兵が前に出る、眉を吊り上げ酷く怒っているようだ。
衛生兵2「ここでこの人たちを殺しても、仲間が必ず報復に来るわ。敵のど真ん中、逃げ切れるわけないじゃない!!」
山崎「それが、いったい何だって言うんだ?」
衛生兵2「殺すだけ無駄だって言うのよ!! 命を大切にしないだなんて馬鹿じゃな……」
山崎が衛生兵の頬を打った。
衛生兵2「な…… 何すんのよ!!」
山崎「うるせぇ!! 俺はな、宇宙人に仲間殺されてんだよ!!
いくら弱っているからってなぁ、見逃すなんてできねえんだよ!!」
辺りはしんと静まり返る。ぶたれた衛生兵もそういわれては言葉が出ない。
衛生兵をはじき飛ばすと、鬼気迫る顔で銃を構える山崎。
今度は先ほどと違い、しっかりと銃口が宇宙人に向けられる。
山崎「おめえたちはよぉ。ずるいよな。
泣いてわめいたら、助けてくれる人が居るんだぜ。
飯だって食わせてもらえるし、惨めな思いもしなくていい」
引き金に手をやると山崎は宇宙人に一歩近づく。
一番近くのベッドに寝ていた宇宙人に銃口を突きつけると、下目使いに睨み付けた。
衛生兵3「や、やめて!! けが人に酷いことしないで!!」
山崎「甘ったれんな!! 戦争なんだよ!!」
宇宙人と山崎の目が会う。
山崎「死ね」
山崎が銃口を引こうとしたその瞬間。何かが、山崎の方へと飛んできた。
花瓶だ。そう山崎が判断したとき、既にそれは彼の頭を揺らしていた。
鈴原「今よ、みんな!! 逃げて!!」
鈴原の声に、全員が我に返ったように動き出した。
たった一つのドアに向かい、衛生兵と宇宙人が一斉に駆け出した。
山崎「ま…… 待て……」
鈴原の足をつかむ山崎。頭から血を流しながらもその力は強い。
衛生兵1「ふ、婦長!!」
宇宙人2「婦長さん!!」
鈴原「いいから行って!! できるだけここから遠くへ!!」
少しずつ立ち上がろうとする山崎は、血を滴らせながら逃げようとする彼らをにらみつける。数々の戦場を潜り抜けてきた兵の目は、見るものを圧倒する。
衛生兵「すみません、婦長!!」
衛生兵、宇宙人達は後ろめたさをごまかすようにドアから出て行く。
喧騒の跡に残された二人。
山崎「…… まぁ、こんなものか?」
山崎がへたりと尻をついた。
鈴原「山崎さん!! 大丈夫ですか!?」
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包帯をぐるぐると頭に巻きながら鈴原は山崎に謝る。
山崎「あんたが謝る必要はねえよ。それに、作戦は成功してるんだからよ」
鈴原「それでも、まさかこんなことになるだなんて」
山崎「こんなの戦場じゃ日常茶飯事さ……」
包帯を巻き終えると、山崎は急いで立ち上がる。同じく鈴原も、横で山崎を支えるように立った。
山崎「で、最後の切り札って奴はいったいどこにあるんだい?」
鈴原「いえその…… あるっていうか、居るというか……」
怪訝な顔をする山崎。
山崎「なんだそれ…… いったいどういう」
鈴原「あってみれば、あなたも分かると思います……」
そういって鈴原はドアを開ける。
未だ脳のゆれが収まらない山崎は、支えながら部屋の外に出ると、少し暗めの廊下に入った。