アンバランスワールド『波動使い-3』
神村直哉がそこにたどり着いたのは、女が鎌田瑞樹を殺す瞬間だった。
彼女に振り落とされた剣を片手白羽どりで防いだ。攻撃を防がれた女はすぐに距離を取り直哉を見ながら嬉しそうに口を開いた。
「ハハハァ!まさかこんなところでおまえに会うとは思わなかった!」
直哉はめんどくさそうに頭をかきながら瑞樹の無事を確認してから口を開いた。
「それはこっちのセリフだ。何で一般人を狙う。おまえらの思想は神にあだなす力を持った者の解放じゃなかったか?」
「お前何もわかってないんだなぁ。この女は能力に覚醒しつつある。それも自然を司る能力。新たな神となる可能性も秘めている女なんだ。そんな人間を放置出来ないのはお前さんが一番分かっているだろう?」
「お前の言っていることは正しい。だが彼女はまだ一般人だ。そんな人間をみすみす殺すわけにはいかない。」
その言葉と同時に直哉は戦闘体制に入る。それは女も同じだった。闘いをしかけたのは女が先だった。ナイフを持ち直哉に飛びかかる。しかし直哉もそばにあった鉄棒でなんとかいなす。女は直哉に向かって叫んだ。
「やるようだなぁ‼さすが壁の外にいただけはある」
「そうかい。そいつは嬉しいもんだ!魔術師で有名人のレビィ・グラムに褒められるとはな!」
お互いが拮抗した闘いを繰り広げていた瞬間。グラムの姿が消える。直哉はすぐに周りを探るが、奴の姿はどこにも無い。
「消えた…?」
次の瞬間、直哉の背中にナイフが突き刺さる。
「ぐ…‼」
すぐに後ろを振り返るが、そこには何も無い。しかし、また直哉の背中にナイフが突き刺さる。
「これはおそらく奴の術に違いない。だが一体なんなんだ?」
直哉はこのままでは太刀打ちできないと悟った。
そして次に直哉が取った行動は今も何処かに潜み、直哉を攻撃しようとしている、グラムの想像を越えたものだった。なんと直哉は戦闘体制を解いたのだ!普通どこに敵が潜みいつ攻撃してくるかわからない場合はどこからの攻撃にも対応できるようにする。しかし直哉はそれと逆のことをした。そしてそれがグラムの焦りを生み、次の瞬間。
「衝撃」
グラムは直哉の攻撃を受け、倒れていた。
グラムは痛みを感じながも口を開いた。
「何を…した?」
直哉はグラムを見下ろしながら口を開いた。
「確かにお前の物質の中に潜り込み、気配をも消す能力は手強かった。だが、お前の敗因は二つある」
「敗因だと?」
「1つ目は己の能力を過信しすぎたこと、2つ目は俺を侮っていたことだ。おそらくお前の能力は物質の中に潜り込む能力だろう。そしてそれを利用し気配を消して俺を殺そうとしたことはよかった。しかしいくら気配を消そうと殺気を消すことまでは出来ていなかったようだな。これでお前がまだ近くにいることが分かった。そして俺は戦闘体制を解いたように見せることでお前の動揺を誘った。そのさくにお前はまんまとはまったんだ 」
直哉の話を聞くとグラムは笑いながら叫んだ。
「この闘いの勝者はお前だ!だが私が逃げる力を残していることも考えるべきだったなぁ!」
そしてグラムは能力を使い地中に潜った。
だが次の瞬間。直哉は自らの拳を地面に打ち付けた。すると、まるで地面全体が波のように揺れたような錯覚が起きた。
「ぐはっ!」
人が地面に投げ出されるような音がし、グラムは地中から強制的に出された。
「一体…何が!何が起こったんだぁぁぁ‼」
グラムの叫び声が夕暮れに響く。
驚いているグラムに向かって直哉が言う。
「教える必要は無いが最後に教えてやろう。今のが『波動』だ」
「波動だと?」
直哉の言葉に対して疑問符を浮かべるグラム。
「この世には鍛錬によって人間が使える超常的な力が4つある。波動とはそのうちの一つだ。人間の本来持っている生命エネルギーの事で、多くの一般人がその存在に気づかないもので、過酷な鍛錬によって使いこなす事の出来る力だ。そのエネルギーは波の様に、人間の体内を循環していることからその名前がつけられた。波動は人体、物質、空中に放つ事か出来る。今のは地中に放つ事で地中を波動が波の様に伝わり、お前を地中から跳ね飛ばしたんだ。この説明で満足か?」
直哉がグラムに近づいていく。
「やめろ!私に私に近寄るなぁ!」
「残念だがお前には複数の殺人容疑が掛かっている。正式な場で裁かれろ、レビィ・グラム。」
こうして直哉は襲われていた、鎌田瑞樹を助けた。それはこれからの二人の人生を大きく変えていく、始まりだった。