第九十七話「コロムの葉」
サラマンダーの身体から幾つかの素材を剥ぎ取り、ミズハの力で辺りを覆う氷を溶かしていく。炎を全力で絞り出し、なかなか融けない氷を30分ほど掛かって何とか融かすことが出来た。
氷が覆ったままの状態では「コロムの葉」を探すことは出来ない。
再び熱くなった周辺を探索していく。
「…………」
「…………」
先ほどみたいな危険はもういらない。無駄話をせずに二人は探索していく。戦いで疲れてはいるが、それでも休んではいられない。
だが、「コロムの葉」は見付からなかった。
「やはり、場所を変えるしかないか」
「次、行ってみよー」
二人は今いる場所を諦め、移動した。
道なき道を歩いていく。辺りには紅く染まった岩が転がっていて、触るだけでやけどしそうなほどの熱を発している。
あちらこちらに鉱石が転がっている。中には特殊な鉱石も転がっているのだが、二人にとって今は必要ないものだ。
少し休んで魔力を回復させたブレアの紋章術で岩を触れる温度まで冷やし、一つ一つ丁寧に探していく。
「…………ん?」
ミズハが次を探そうと足を踏み出した瞬間、足元がぐらついた。突然浮遊感に襲われ、落下していった。
「ミズハ!!」
ブレアは紋章術で助けようとするが、間に合わない。魔力が多少は回復したとはいえ、精密な紋章術は使えない。巨大な穴に落ちていくミズハを見ていることしかできなかった。
「くっ!!」
落ちていく。勢いよく落ちていく為、上手く身動きが取れない。このままでは地面に激突し、命はないだろう。
(こんなところで死ぬわけにはいかない!!)
それでも諦めないミズハ。思考を巡らせ、助かる方法を模索する。
「はああぁぁ!!」
『血の紅』の力を開放し、身体の周囲に炎を生み出す。その炎を背中に集め、翼を形作っていく。
ミズハの生み出す炎の翼で空を飛ぶことはできない。以前空を飛べないかと試したことがあるが、十数センチ浮くのが精一杯だった。
しかし、全く意味が無いわけではない。翼の数を増やし、下に向けて炎を放った衝撃で速度を落とし、無事に下へと到着するというのがミズハの作戦だ。
「フレア!!」
翼を3対6枚に増やし、見えてきた地面に向けて炎を放った。炎を放ったことによる衝撃で落下するスピードが遅くなる。更に炎の翼を全力で動かし、ゆっくりと地面に足をつけた。
「ふう…………」
先ほどの氷を溶かす作業にも炎を使い、力をかなり使用した。これ以上の力の使用はしばらく出来ないだろう。
顔を上げ、周囲を見渡す。そこには無数に転がる白骨と地面に突き刺さった刀、刀に絡まった一枚の葉があった。
「ミズハ、良かった」
風の紋章術を使用したブレアが上空からゆっくりと降りてきた。ミズハを見つけると、安堵の表情を浮かべた。
「すまん、心配を掛けた」
一応持っていた薬草を食べる。生の薬草はかなり不味いが贅沢は言っていられない。
気を取り直して二人は穴の中を探索し始めた。とはいっても、探索するほどの広さもないが。
「同じように落ちてきた者の残骸か…………」
そこら中に転がる白骨死体。錆びた武器や腐った薬草。兵どもの夢の跡が見て取れる。
そして、その中で一際異彩を放つ物。それは全く錆ついていない刀だ。
「これって…………」
異彩を放っているのは刀だが、ブレアは刀に絡まっている一つの葉に注目した。
「これだ」
「ん、何がだ?」
「これが『コロムの葉』」
ブレアの言葉にミズハも刀に絡まる葉に注目する。
青々とした葉。何処にでもありそうな葉だが、植物か育つような環境ではない火山でここまで瑞々しい状態の葉は常識では考えられない。
厳しい環境に耐え、少ない栄養をたった一枚の葉に凝縮される。これこそ「コロムの葉」が貴重な薬の材料とされている理由だ。
しかし、ここで問題がある。
二人が必要なのは「コロムの葉」一枚。そして、ララの分が一枚。ここにあるのはたったの一枚。
ミズハ達もララも時間が無い。それでも二人は迷わなかった。
「これは、ララの分だな」
「うん」
自分達を後回しにして、目の前にある「コロムの葉」をララの為に採取する。幼い少女を見捨てることなど二人には出来なかった。
丁寧に葉を採取し、二人は一度戻ることにした。
穴を登り、帰る前に「コロムの葉」が絡まっていた刀を調べる。長年この場所にあったと思われるのに、錆一つない。
ミズハは柄を掴み、ゆっくりと引き抜いた。
「…………」
持ち上げて掲げ、刃を観察する。傷一つなく、光に反射して輝いている。手に持った感触は軽く、なぜかミズハの手に馴染む。
ヒュン!!
軽く振るってみる。すると、そこにあった岩を簡単に切り裂いてしまった。岩は二つに割れ、その切り口は凄まじく滑らかだ。
「少し見せて」
そう言ってブレアも刀を観察する。ブレアはミズハと違い、刃ではなく刃に刻まれた古代文字に注目していた。
「凄い…………古代の炎の紋章術なんて初めて見た」
「古代の炎?」
「古代の紋章術は、今とは全然威力が違った。そのあまりの強力さに封印され、今の紋章術が開発されたの」
古代の紋章術はあまりにも強力すぎた。たった一つの紋章で国を救いもしたが、滅ぼしもした。その力を恐れた人間は古代の紋章を一つの本に纏め、紋章を封印した。
だが、紋章の恩恵を忘れることの出来ない人間は力の弱い紋章を開発し、それこそが今の紋章術の基礎となった。
「そんなに凄いのか?」
「この紋章だけで上位に匹敵する威力がある」
「そんなに…………」
刻まれている古代文字をまじまじと見つめる。全く読めはしないが、特別な力の様なものを感じさせる。
「どうするの?」
「……せっかくだ。貰って行こう」
辺りには鞘が無い。そこで持っていた布で巻き、腰に差す。武器屋に戻って調整してもらわないと使えない。
「じゃ、行こう」
「!! ちょ、待って――――」
戦利品を手に入れた二人は、後は穴から抜け出すだけだ。ブレアはミズハと自分の足元に紋章を展開し、体勢を整える。
ミズハはサラマンダーとの戦いを思い出し、慌ててブレアを止めようとした。しかし、時すでに遅かった。
一瞬にして二人の身体は飛び上がり、無事? に穴から抜け出した。
次回は仕事の関係で遅れそうです。もしかしたら
来週の土日になるかもしれません。
出来るだけ早く書くよう頑張りますので、
お待ちください<(_ _)>