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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第五章「魔女の試練」編
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第九十二話「コウラン」


 占い師からカロリーナの居場所を占ってもらい、ミズハとブレアは南ハイロウに向かった。


 南ハイロウに入国するには、幾通りかの方法がある。アーセル王国の東側から入国するか、リディア共和国から入国するかである。

 どちらの国境にも関所が設けられているが、基本的には誰でも行き来が出来る。入国に際して幾つかの書類を提出するが、入国料を支払うことはない。


 だが、これが戦争中だと簡単にはいかない。

 民間人の入国が制限され、物資のやりとりが禁止される。敵国以外の商人であっても入国が厳しくなり、場所によっては関税を支払わないといけない。


 現在、南ハイロウは北ハイロウと停戦状態であり、入国に制限は掛けられていない。

 しかし、緊張状態にある国に好んで行く者など商人か冒険者ぐらいのものだった。


 数少ない南ハイロウへと向かう冒険者、ミズハとブレアは関所で審査が通るのを待っていた。


「時間が掛かるな……」


「仕方がない」


 関所の控室で椅子に座って待機している。控室には他にもハイロウに向かう人たちが思い思いに待ち時間を過ごしている。


 殆どが冒険者と商人だが、中には家族連れも見える。


 しばらくして、兵士の一人が部屋に入ってきた。辺りを見渡して、中にいる人を一人ずつ呼んでいく。呼ばれた者は兵士から入国許可証を受け取り、部屋を出ていく。

 どうやらこのまま南ハイロウに向かうことが出来る様だ。


「ミズハ・カグラ」


 何組かが部屋を出ていった後、ミズハの名前が呼ばれる。二人は兵士から許可証を受け取り、部屋を後にする。廊下は一本道で迷うことはない。入ってきた時とは逆を進んでいく。


 しばらく進むと、太陽の光と共に出口が見えた。


 二人は初めて訪れる国へと足を踏み入れた。






 南ハイロウ。

 元は南ハイロウとリディア共和国の北に位置する北ハイロウと一つの国だった。三つの大国全てに接して、大国の一つに名を連ねていた。


 元々は人に溢れ、活気ある国だった。しかし、二つの宗教の対立による内戦で状況は一変した。

 次々と国のあちこちが破壊され、人々は疲弊していった。畑は焼け、食べる物も無くなる。地域によっては飢餓で死んでいく子どもが出てくるほどだった。


 それでも戦いを止めない。お互いに譲れないものがあったのだ。


 内戦から5年。ハイロウは完全に瓦解状態だった。そこに周囲の国とギルドの介入が行なわれた。各国は軍隊を派遣し、力で持って互いの宗主を話しあいの席に座らせた。ギルドは国内の復興に尽力した。


 話し合いは難航を極めたが、会談の結果国を二つに分けることで一応の解決を見せた。


 現在では宗教同士の戦いはないが、お互いにわだかまりを持ちながら国境を接している。






 南ハイロウに入国したミズハとブレアは、関所から一番近い街に辿り着いた。


 関所から馬車で約一時間の場所にある街コウランは、自然溢れる田舎町だ。首都から距離がある為、内戦の被害は殆どなかった。


 しかし、人々の心まで被害が無かったわけではない。

 街の若者は内戦に向かい、残ったのは女性や子供、老人のみ。働き手がいなくなり、街は少しずつ廃れていく。内戦によって物の動きが悪くなり、物が街に入ってこない。食料の流通も徐々に少なくなり、遂には飢餓で死亡する者まで出てきた。


 内戦が終了した今では死亡する者はいないが、それでも以前の様な活気はなかった。


「…………情報収集は難しそうだな」


「人がいない…………」


 街の入口に立ちながら辺りを眺める二人。街の通りには人が殆どおらず、情報収集は難しそうだ。


 仕方なく、二人はまず宿屋を探すことにした。拠点を決めて、そこを中心に活動する。冒険者の基本だ。


 通りにいる僅かな住民に話を聞きながら、二人は宿屋に向かっていった。






「いらっしゃい」


 街の大通りにある宿屋。裏通りにある宿屋と違い宿泊代は高いが、内装はそれなりに良い。更に治安もよく、裏通りよりも安全だ。


 南ハイロウに向かうことをリカルドに伝えたところ、必ず表通りの宿屋に泊るように忠告されていた。


 裏通りは治安が悪く、時には盗賊が宿泊客を襲ったり、宿屋の主が客をだましたりすることがある。アーセル王国の冒険者でも襲われた者がいるほどだ。


 あまり無駄遣いは出来ないが、何があるか分からない。それなりに安全なほうが良いだろう。


 宿屋に荷物を置いたミズハとブレアは、情報収集に最適な酒場にやってきた。


「酒をくれ!!」


「はい、ただいま!!」


 通りとは対照的に酒場には活気があった。あちこちで酒を注文する男達に料理を運んでいく女性店員。

 しかし、他の国の酒場に比べると、どこか大人しい。


 二人が酒場に入ると、視線が集まってきた。だが、すぐに興味を無くして酒を飲み始める。

 よそ者であっても、チラ見する程度の興味しかないのだ。


「ご注文は?」


 カウンターに座ると、カウンターの奥にいるマスターが注文を尋ねてきた。


「適当に料理を頼む」


「お酒は無しで」


 酒場にやってきて、お酒を飲まない。ありえないように思えるが、冒険者には珍しいことではない。

 これからクエストに出かけようとする冒険者は、食事と情報収集で酒場を訪れることが多い。クエスト前に酒を飲んで酔っ払っては、戦うことなど出来ない。


 マスターは注文を受け、静かに料理を始めた。その間に店員が飲み物を持ってきた。


 いつもならここで二人をナンパしようと男達が寄ってくるが、ここではそれが無い。誰もが気だるげに酒を浴びている。


「…………お待ちどう」


 出された食事を口にする。意外にもかなり美味しかった。






 食事を終え、ミズハはマスターに話を切り出した。


「少し聞きたいんだが……」


「なんだい?」


「カロリーナと言う人物を探しているんだ。知らないか?」


『ッ!?』


 カロリーナの言葉を口にした途端、酒場全体が静まり返った。


「…………あんたら、カロリーナに何の用事だ?」


「仲間を助けたいんだ」


「…………」


 ミズハの言葉を聞き、マスターは口を閉ざした。それから先を話そうとはしない。


「マスター、知ってるんじゃないのか?」


「…………知らんな。それ食ったら、さっさと帰りな」


 口を開いたマスターは、カロリーナのことを知らない、さっさと帰れという。


 二人は納得していなかった。マスターの態度は明らかにカロリーナのことを知っているはずだ。


 これ以上マスターからは情報を引き出せないと感じた二人は、酒場内にいる人々に話を聞こうとした。


「知らねえな」


「諦めろ」


 しかし、誰もが素っ気なく、情報を手に入れることは出来なかった。粘り強く聞いて回ったが、結局何一つ情報を得られなかった。


 だが、一つだけ分かったことがある。カロリーナはこの国にいる。






「どうする?」


「どうしよう?」


 酒場を後にした二人は、これからどうするかを考える。

 カロリーナがこの国にいるのは確かだ。だが、このまま情報収集するのは難しい。


 どうしたものかと途方に暮れていた。


「ねえ、お姉ちゃん達」


「ん?」


 声を掛けられる。聞こえてきた方に視線を向けると、そこには男の子が立っていた。


「カロリーナお姉ちゃんを探しているんだよね? 案内してあげようか?」



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