第八十六話「情報収集開始」
ついに第五章までやってました。
書き始めの頃はここまで書き続けるとは思っていませんでした。
しかし、読んでくださる方も増え、様々な感想をいただき、
どんどんやりがいが出てきました。
更にこの先の展開もどんどん浮かんできて、
今では仕事から帰ってから書き続けるのが日課になっています。
これからも頑張って更新していきますので
応援よろしくお願いいたします<(_ _)>
それでは本編をお楽しみください。
スレッドを助けるため、ミズハとブレアはリディア共和国からバルゼンド帝国に向かった。
リディア共和国ではスレッドを救う手立ては見つからなかった。ミラの協力を得て様々な資料を漁り、多くの研究者等を尋ねた。
しかし、有益な情報は手に入らなかった。
そこで彼女達は各国を回り、情報を集めることにした。
まずはヨルゲンの見舞いをかねてバルゼンド帝国を目的地にした。
バルゼンド帝国の首都ガンガールドに到着したミズハとブレアは早速城へと向かった。
「近衛隊長ヨルゲン殿に会いたいのだが……」
「……約束はあるか?」
城の入口に設置されている警備員室に声をかける。対応したのは若い兵士だった。
若い兵士は美しい女性二人に動揺する。あくびをしながら油断していたところに、今まで会ったこともないほどの美女二人に出会ったのだ。心臓が高鳴っていた。
それでもみっともないところを見られたくないのか、憮然な態度で尋ねる。
そんな事とは知らずに、ミズハは言葉を詰まらせてしまう。
兵士とはいえ、ヨルゲンは近衛隊長だ。皇帝を守護するものであり、国の重要人物だ。そう易々と会うことが出来ない。
どうしたものかと考えていると、そこに一人の男が現れた。
「ミズハ殿にブレア殿ではないですか!!」
「ヨルゲン殿!!」
「お久しぶり」
二人の前に現れたのは、右手を上げて近づいてくるヨルゲンの姿だった。
「元気そうで何よりだ」
「……いつまでも休んでいられないからな」
城の中を案内するヨルゲンは、動かない左腕を擦りながら歩いていく。その表情には微かな悲しみが含まれていた。
リディア共和国からバルゼンド帝国に帰国したヨルゲンはあらゆる治療を試した。紋章術から飲み薬、塗り薬、更には針治療まで様々な治療を行なったが、左腕が回復することはなかった。
ヨルゲンはそれに絶望することなく、右腕だけで棍を操る稽古を積んだ。稽古に稽古を重ね、ヨルゲンは遂に片腕だけで数人の兵士を一人で圧倒するまでに到達した。
しかし、それで満足するヨルゲンではない。今でも毎日稽古を欠かさない。目指すは片腕だけでランクSの魔物を倒すことだ。
「今ではこの通り!!」
そう言って、ヨルゲンは背負っていた棍を右手で掴み、力強く振り下ろした。振り下ろされた棍から発生した風と衝撃が天井へと飛んでいき、衝撃が天井近くに激突した。
「ぐあッ!?」
悲鳴と共に何かが落ちてきた。良く見てみると、落ちてきたのは黒い戦闘服を着た男だった。
男は肩から腰にかけて衝撃による怪我を負っており、ヨルゲンの攻撃で落ちてきたのが分かる。
どうやらこの男は間者の様だ。
「最近はこういった者が多くてな。困っているところだ」
ヨルゲンは部下を呼びながら、現在のバルゼンド帝国の事情を話し始めた。
宰相ブッシャルが死亡したことで、バルゼンド帝国の危機は去ったように思える。
だが、そうではなかった。ブッシャルが死亡し、ジョアンが次期皇帝に内定したことにより、他国からはバルゼンド帝国の体制はまだまだ整わないことが知られてしまった。
そこで各国はバルゼンド帝国の内情を知るために間者を放っていた。平和な時であっても、情報というのは重要なのだ。
ヨルゲンが倒した間者は、今の男も合わせて本日だけで3人目だ。
「こちらだ」
コン、コン。
ヨルゲンは案内した部屋のドアをノックし、中からの返事を聞いて部屋の中に入っていった。ミズハとブレアもそれに続く。
「やあ、久しぶりだね」
部屋の中にいたのは、部屋の奥の椅子に座るジョアンの姿だった。ジョアンは先ほどまで仕事をしていたのか、机の上には書類が山積みになっている。
どうやら着実に皇帝への道を進んでいるようだ。
ジョアンはヨルゲンの部下からミズハ達が来ていることを先に伝えていた。その為、ジョアンは二人の登場に驚くことなく、準備万端で二人を迎えることが出来た。
部屋に置かれた机の上にはケーキと飲み物が既に用意されていた。
「すまないね。本当ならもっとゆっくり話をするんだが……」
「無理しなくていいよ」
「こっちも忙しい」
余裕がないのか、仕事をしながら話をするジョアン。
次期皇帝が確定したことで、多くの仕事がジョアンに振られることになった。皇帝は病気が治ったものの、完全に回復したわけではない。更に宰相ブッシャルが死亡したことで国政に関わる仕事の殆どがジョアンに回ってきた。
今では食事と睡眠の時間以外仕事に費やしている。
そんな姿に苦笑しながら、ミズハ達は出されたケーキを食していた。彼女たちも時間が無いはずだが、甘いものは別らしい。
「……すまなかった。挨拶もせずに帰国してしまって」
「気にするな。お互い大変だったし、仕方がない」
リディア共和国での武術大会後、事件のバタバタでお互い挨拶することなく分かれてしまった。
ミズハ達はスレッドの移動や治療法の探索など忙しく、ジョアン達はヨルゲンの治療や国の仕事など、互いにやることが山積みだった。
挨拶をしている時間が無かった為、ジョアン達は仕方なく国元へと帰還した。
「ぜひゆっくりしていってくれ」
「……なかなかそういうわけにもいかないよ。私達にはやるべきことがあるから」
「スレッドのことか……」
スレッドの名前が出たことで、部屋の中が少しだけ暗くなる。
ジョアンは現場にいなかったが、状況に関しては報告を受けている。詳しい内容は分かっていないが、スレッドが重症であることだけは知っている。
なぜジョアンは詳しい内容を知らないのか。それは『竜の血』や『時の紋章』、スレッドの居場所など、秘密にした方がいい情報があり、ブレアとミラが協力して情報を誘導しているのだ。
スレッドはエリックを相打ちで撃破し、現在はリディア共和国で療養中とだけジョアンに伝えている。
ジョアンのことは信頼しているが、情報源は出来るだけ無くしたほうがいい。
「その件でお願いがあるんだ」
「この国が保管している資料を閲覧させてほしい」
沈んだ気持ちを持ち直し、ミズハ達は真剣な表情でジョアンに頼み込む。
リディア共和国ではめぼしい情報は見付からなかった。ミラの協力もあって一般では閲覧することの出来ない資料も探してみたが、ヒントになる情報すらなかった。
そこで二人はバルゼンド帝国までやってきた。諦めることなく、スレッドを治療する方法を探るためにバルゼンドに保管されている資料を閲覧に来たのだ。
本来ならそう簡単に閲覧できるものではない。ましてや国が保管している資料など、一冒険者が手にすることが出来るはずもない。
「分かった。好きに調べてもらって構わない」
しかし、ジョアンは快く承諾した。その行為を止めるべき近衛隊長であるヨルゲンも頷いている。
「必ず、スレッドを助けてやってくれ」
「勿論だ」
「お任せあれ」
力強いジョアンの言葉に、ミズハもブレアも笑顔で応える。
ミズハとブレアはジョアンの許可を得て、バルゼンド帝国での情報収集を始めた。