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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第四章「武術大会」編
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第八十一話「ブレアの戦い」

 伸びたジャンの腕を掻い潜る様に回避するブレア。


 ブレアの身体能力は決して高くない。一般人に比べれば高いが、冒険者としては下の方だ。ジャンの攻撃を回避できるほどの動きは出来ない。


 そこで、身体強化の紋章で動きを向上させ、魔女の眼を持って動きを予測していく。

 次々と回避していくブレアの顔には焦りは見えない。


「…………」


「ドウシタ!! サケテバカリカ!!」


 反撃してくることのないブレアに、ジャンは嘲るように罵倒していく。力任せに腕を繰り出し、回避されていく。

 対するブレアは、前方に展開した紋章と一緒に移動し、機会を窺っていた。


 左目がマナの動きを捉え、作戦を考える。その間も動きを止めることはない。


(…………見えた)


 ジャンの動き、マナの動き、そして自身が展開できる紋章の数。この先の展開を予想し、それら全てを考慮して、ブレアは動き出した。


「レイ」


「ッ!?」


 手を前方にかざす。すると、ジャンの周りに紋章が展開され始めた。全方向に展開された紋章は全てジャンに狙いを定め、光線を撃ち出した。

 光線はジャンの身体を撃ち抜き、次々と攻撃をヒットさせていく。


 紋章は基本的に術者の周りにしか展開することが出来ない。紋章は世界に漂うマナに働きかけ、マナを法則に従って並べ、紋章を造り出す。

 人間は自身の近くにあるマナに干渉するのが限界で、離れた場所のマナを操ることは出来ない。


 しかし、ブレアは魔女の眼でマナを操ることによって離れた場所に紋章を展開することが出来る。

 それがジャンの周りに展開された紋章だ。


「コノテイド!!」


 光線は次々とジャンの身体を貫いていくが、効果的なダメージを与えているようには思えない。


 ジャンは攻撃を受けながらも身体を変化させ、無数の触手を生み出す。触手は光線を潜り抜け、ブレアへと襲いかかる。


「ブライトフレア」


 杖を動かし、今度は大きな紋章を空中に描き出す。一流の紋章術師でも展開するのに一時間以上は掛かる大きさをブレアは一瞬で描く。

 その動きはまるで踊っているかのようだ。


 描き上がった紋章から巨大な炎の塊が飛び出し、触手を飲み込む。触手は消し炭となって崩れ落ちた。


「ウオォォォォ!!」


 炎の塊は勢いを止めることなくジャン本体を飲み込んでいく。だが、炎はジャンの身体から溢れ出す魔力に阻まれ、かき消されてしまった。


「ッ!?」


 攻撃後の隙を狙われ、ブレアは触手に捕らわれてしまう。手足や身体に絡まり、ブレアの動きを止めた。

 ブレアの動きを止める触手の動きは何処となくエロい感じがした。


「くっ、ふぅ!!」


 ブレアの口から洩れる声が艶めかしい。どうやら触手にジャンの性格が含まれているようだ。


 触手はブレアの服の中に入り込もうとしていた。


「ブレア!!」


 触手の動きを見ていたミズハは、女性としての怒りを覚え、ブレアを助けようと飛び出そうとした。

 だが、それを止める者がいた。


「駄目……ミズハ」


「ブレア…………」


 ミズハの動きを止めた者、それはブレア自身だった。


 杖を持っていない方の手でミズハを止める様に突き出し、苦しみながらも笑顔を浮かべる。


「大丈夫」


「ハッハッハ!! コノジョウタイカラナニガデキル!! オトナシクシテオケバイインダ!!」


 身動きの取れないブレアにジャンは高笑いしながら締め上げていく。


 身体に強い締め付けを受けながら、ブレアは意識を集中させ、周囲に漂うマナを一点に集める。集めたマナを並べ、自身の魔力をマナと混ぜ合わせていく。

 混じり合ったマナと魔力は杖の先に小さな光を産み出す。光は徐々に大きくなり、ブレアの身長以上の大きさまで膨れ上がる。


 ブレアは更に意識を集中させ、膨れ上がった光を圧縮していく。光は手の平大までに小さくなり、眩しいほどに輝いている。


「…………さようなら」


 蒼い瞳がジャンの身体を見つめる。悲しそうな、それでいて力の籠った言葉と共に光を開放した。


 杖の先から放たれた光は真っ直ぐ、光速で、ジャンの胸を貫いた。


 パキィィン!!


「――――!?」


 割れる音と共にジャンを魔物化させていた核が砕けた。

 魔力の塊である黒い核が砕けたことにより、ジャンを覆っていた魔力が霧散し、ジャンの口から獣の様な叫び声が上がる。


 なぜ、ブレアは核をピンポイントで打ち抜くことが出来たのか?

 その理由は、魔女の眼にある。魔女の眼はマナを視認し、マナを操る力があるが、魔力を視認する力はない。

 だが、マナを操り、魔力が反応する場所を特定することが出来る。そうして特定した場所を攻撃したのだ。


 核を砕かれたジャンの身体は崩れ落ちていき、後に残ったのは痩せ細ったジャンの姿だけだった。


「…………どうして、俺が、こんな目に」


 地面に倒れ伏したジャンの目には涙が浮かんでいた。


「…………」


「…………」


 泣いているジャンに二人は何も言わない。いや、言えない。かける言葉が見当たらないのだ。


 ジャンの声は少しずつかすれていった。


「どうして…………」


 その言葉を最後に、ジャンは静かに息を引き取った。


「……先を急ごう」


「ああ…………」


 多くを語ることなく、二人は先へと進んでいった。



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