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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第一章「アーセル王国」編
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第六話「パーティ」

「私とパーティを組まないか?」


「パーティを?」


「ああ」


 突然の提案に驚く。しかし、ミズハは冗談で言っているようには見えない。


 ミズハはパーティを組まないことで有名だ。一人で冒険者を続け、どれだけ危険なクエストであっても一人でこなしてきた。

 それがミズハの誇りであり、プライドだった。


 それを知っていた周りの人間は、スレッド以上に驚いていた。


「俺としては構わないが、どういう理由なんだ?」


「やはり理由がないと駄目か?」


「駄目というわけじゃない。ただ、知り合って間もない俺とパーティを何故組みたいのかと思ってね」


 スレッドはミズハがこれまで誰ともパーティを組まなかったことを知らない。本人が自ら語るわけがなく、また今日この街にやってきたスレッドがその事を知るわけがない。


 だからどうしてパーティを組むのかではなく、自分を選んだのかという質問になった。


「助けられて、恩を感じているのなら気にしなくていい」


「そうじゃないよ……そうだね、あえて理由を述べるなら、目の前で見た君の強さに惚れたといったところかな」


「え!! あーっと……」


 『惚れた』という単語に顔を赤くしてテレながら唸る。その姿にミズハはついつい笑みを浮かべてしまう。


「ガウ!!」


「はは、勿論ライアも凄かったよ」


 自分も強かったと主張するように吠えるライアもちゃんとほめる。ほめられて気分を良くしたのか、ライアは嬉しそうに胸を張っていた。


 森での戦い。あの時体力も精神力も限界で、弱っていたからなのかは分からないが、スレッドの戦いに見惚れていた。

 型も何もない格闘術。単に凄まじいスピードで移動し、ただただ殴るというだけの行為。それだけなのに目を離すことが出来なかった。


 彼の傍で、肩を並べて戦いたい。今はまだ対等な強さではないが、助け合いたい。

 不覚にもそう思ってしまったのだ。


 他にも、意外と良い男であるとか、意志の強い瞳がいいとか、理由は幾つでも出てくるだろうが、それが最も強い理由だった。


「それに、スレッドは一般常識に疎い部分がある。一人では何かと不便だろう?」


「…………そういうことならこちらからもお願いするよ」


 いまだに照れは残っているものの、笑顔で片手を差し出す。それが承諾のサインであることに気付いたミズハも片手を差し出し、握手を交わす。


 その後ライアとも握手を交わし、酒場の片隅で一つのパーティが誕生した。






 とりあえずその日はもう休むことにした。


「リーネさん、相談があるんですが」


「ん? なんだい?」


「ここってライアは大丈夫ですか?」


 リーネにライアを部屋に入れても大丈夫か尋ねる。氣獣とはいえ、ライアの見た目は魔物に分類される。知らない人間からしたら、魔物と変わらない。

 店主であるリーネに許可を貰わないわけにはいかない。


「ん、構わないよ。躾けも出来ているみたいだし……そうだね、値段も半額でいいよ」


「そいつは助かる。あまり手持ちも多くないからな」


 これからクエストで稼ぐからといっても、出来るだけ節約したい。冒険者はいつ何が起こるか分からないのだ。


「それともう一つ……部屋を二人部屋に変えたいんですが……」


 ミズハがスレッドを連れて発言したことで、その場は騒然とした。


 パーティを組んだことで、結束を強めるためには部屋を一緒にしようと考えた。更に資金の節約も出来ると思って、部屋を変えようとした。


 だが、口にした言葉の意味にミズハは気付いていなかった。


「ミズハ、あんた意外と大胆だね」


「え……あ!!」


 ニヤニヤ笑うリーネの言葉に、ミズハは自分の発言の意味に気付いた。

 部屋を変え、男と一緒に泊まる。一応ライアというもう一匹がいるとはいえ、男女の仲を疑われても仕方がない。


「そうじゃないです!!」


「まあまあ。ちゃんと分かってるから」


「ですから、違うんです!!」


 リーネは感慨深い視線をミズハとスレッドに向ける。ミズハは慌てて、普段とは違う女の子っぽい口調で否定するが、誰も信じてくれなかった。


 その姿をスレッドは良く分からない様な表情で眺めていた。そして、そのドタバタ劇を常連客は酒の肴にしながら笑っていた。






「まったく、リーネさんは……」


「ははは……」


 部屋に案内され、去り際に「ごゆっくり」というからかいに疲れてしまった。


 部屋にはベッドが二つあり、他にも共同のタンスなどが設置されており、窓際には綺麗な花が飾られている。

 一応真ん中をカーテンで仕切ることはできるが、コミュニケーションを取るためには区切りを必要最低限にすることは決めている。


 部屋に入った二人は、荷物を置き、整理を始めた。手持ちの袋から荷物を取り出し、クエストに持っていくものと宿に置いていくものに分けていく。


 その間、ライアは毛繕いをして、部屋の隅で丸くなって眠っていた。


「やはりもう無理かな」


「そこまで刃毀れしては、修理も難しいだろうな」


 刀を掲げて溜息をつくミズハに、刃を観察しながら判断する。

 所々刃が欠け、魔物の血によって輝きを失っている。もはや使い物にならないだろうし、修理するのも難しい。


 自分の命を預けるのだ。武器を節約することは出来ない。


「買い替えるしかないんじゃないか?」


「確かにその方が良いんだけど、お金が……」


「そんなに高いのか?」


「普通の武器なら今の資金でも買えるけど、紋章武器スペルウェポンを買うには足りないかな」


 今持っているお金を確認し、足りないことを再確認する。


 紋章武器スペルウェポン――――武器には紋章を刻むことが出来る。紋章を刻み込むことで、紋章術師以外であっても紋章術を使用することが出来る。それにより一人であっても強敵と戦うことが可能となった。基本一つの武器に一つの紋章しか刻むことが出来ないが、遺跡などから発掘された紋章武器は古代の技術で造られており、二つ以上の紋章が刻み込まれていることがある。現在でも二つ以上刻みこめないか研究中である。


 ちなみに、スレッドが所持している手甲も紋章武器であり、フォルスが遺跡から発掘し、調整されたものである。


「とにかく明日にでも武器屋に行ってみるしかないか」


「だな。俺はギルドカードの受け取りがあるから、その後でも構わないか?」


「ああ、構わないよ」


 その日のうちにやるべきことを終えて、二人は早めに休むこととした。着替えなどはカーテンを閉め、それ以外はカーテンを閉めない。

 そうすることで仲間意識を強めていく。実際仕切りを無くすことで少しだけ距離が近くなったような気もする。


 しばらく世間話をしながら、お互いの親交を深めていく。一時間後、明日のことを考えて二人は眠ることにした。


 余談だが、ベッドに入るものの、二人はなかなか眠ることが出来なかった。



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