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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第四章「武術大会」編
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第七十五話「変貌」

 目の前の巨体を眺めながら、スレッドは思った。


「……あの身体の何処にこれだけの巨体を納めていたんだ?」


 膨れ上がる前のエリックは、スレッドよりも小柄だった。線も細く、ヨルゲンを投げ飛ばすほどの力があるとは思えないほど脆そうだった。


 そんな身体からは想像できないほどに膨れ上がったエリック。更には触手が生え、その数を次々と増やしていく。

 最早人間ではないことは明らかだ。


 巨体から放たれる威圧感をものともせず、スレッドはゆっくりと観察していた。戦いは相手を知ることで始まるのだ。

 しかし、どう見ても弱点となるものが見当たらない。


「こいつが相手なら、遠慮はいらないな」


 ニヤリと笑い、スレッドは力を開放した。






「うわー!?」


「た、助けてくれ!!」


 突然のエリックの変貌。異形の存在を目にして、誰もが叫びながら迫りくる触手から逃げ惑う。


「やめてくれーー!!」


 ガシ!! メキメキ!!


 触手に逃げ遅れた男の身体に巻きつき、凄まじい力で締め上げていく。骨が次々と折れていき、折れた骨が内臓を圧迫していく。一般人の力では抜け出せるわけがない。

 数分で男は命を落とした。


「いやっ!!」


 男の命を奪った触手は次の標的へと動く。

 足を挫いた若い女性が地面に座り込み、逃げることが出来ない。そこに触手が迫る。このままでは彼女の命もあとわずかだ。


「紅蓮!!」


 触手が迫り、目を瞑ってしまった女性。そこに凛とした声が聞こえてきた。それと同時に全身に熱さを感じた。


 目を開けると、そこには髪を紅くして、炎を纏ったミズハの姿があった。


「大丈夫?」


「あ、はい!! ありがとうございます!!」


 力を発動させたミズハは、炎を操って触手を次々と焼き払っていく。

 女性に声を掛け、無事を確認する。そこに観客を避難させていた兵士の一人がやってきた。兵士に女性を任せ、ミズハは次の攻撃へと移る。


「炎殺円光陣!!」


 ミズハが刀を横薙ぎに振るうと、ミズハの周りを纏っていた炎が円状に変化し、炎の円が触手を焼き切っていく。


「ちっ!!」


 だが、触手はすぐさま再生し、再びミズハに襲いかかる。回避しながら炎を放つが、触手はどんどん増えていく。


「……このままじゃ、まずいな」


 刀を振る手を止めることなく、ミズハは終わらない戦いに不安を覚えていた。






「アイスブレッド」


 杖を構えたブレアから放たれた氷の塊が触手に向かって飛んでいく。氷の塊は触手にヒットすると触手を凍りつかせ、動きを止めていく。


「ママー!!」


「!? 危ない!!」


 母を呼ぶ声が聞こえた。声のする方へ視線を向けると、そこには泣きながら座りこんでいる女の子の姿があった。


 ブレアと女の子との距離は遠い。直ぐに向かっても、辿り着く頃には女の子は触手に捕まってしまうだろう。


 このままでは女の子は触手に絞め殺されてしまう。未来ある幼い命が目の前で奪われようとしている。

 それを見過ごせるブレアではなかった。


 会場から多くの観客が避難しているが、それでもまだ観客席には多くの観客や避難を行なっている兵士がいる。ここで力を使用すれば、多くの人に知られてしまう。


 自分を恐れる人々の視線が頭の中に思い浮かぶ。その光景がブレアの動きを止めてしまう。


(……迷っていられない)


 それでも諦めることが出来なかった。心の中で決意を固め、力を発動させる。ブレアの左目が蒼く染まり、左目が世界に漂うマナを捉える。


 ブレアはマナを操り、瞬時に紋章術を展開していく。その速度は普段の数倍のスピードだ。


「アイスシールド!!」


 操られたマナが女の子と触手の間に氷の壁を作り出す。触手は氷の壁を破壊しようと攻撃を加えるが、壁に触れた瞬間触手は凍りついていく。そして力を失い崩れ落ちる。


「大丈夫?」


 ブレアはすぐさま女の子に近寄り、無事を確認する。見た目にはどこかを怪我している様には見えない。

 しかし、見た目には大丈夫でも、見えない部分で怪我をしているかもしれない。


「お姉ちゃん、ありがとう!!」


「……良かった」


 女の子は駆け寄ってきたブレアに対して、笑顔で元気よく返事をした。その返事を聞き、ブレアはほっと安心して笑顔を浮かべる。


 ブレアの顔を見た女の子は、ブレアの左目に気付いた。


「お姉ちゃんの眼……」


「ッ!?」


 女の子の言葉にブレアは強張る。心臓が強く鼓動を打ち、頭の中に不安が過ぎる。次の言葉を聞くのが怖い。

 だけど、女の子の言葉は止まらなかった。




「お空の色と同じで、とっても綺麗だね!!」


「え…………」




 一瞬何を言われたのか理解できなかった。

 言葉を理解しても、ブレアの頭の中は真っ白だった。目を大きく見開き、笑顔の女の子を見つめていた。


 見つめられている女の子はきょとんとしながら首を傾げる。おかしなことを言ったかな、と疑問に感じていた。


「お、お姉ちゃん!? どうしたの!?」


「――――あれ?」


 目元が熱くなり、自分が泣いていることに気付く。知らぬ間に涙が頬を伝っていた。

 突然泣き出したことに女の子は心配そうにブレアの顔を覗き込む。


 ギュ――――


「大丈夫?」


「…………大丈夫。大丈夫だよ…………ありがとう」


 女の子をギュッと抱きしめ、大丈夫と繰り返す。女の子に涙を見られない様にしながら、ブレアは力強く抱きしめた。


 そんなブレアの表情は、嬉しさと安堵に満ちていた。



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