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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第四章「武術大会」編
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第七十四話「決勝戦」

『大会も遂に最終章!! この日がやってきたぜ、野郎ども!!』


『うおおぉぉぉぉ!!』


 これまでで一番テンションの高いアナウンサー。それに応える様に観客達が叫ぶ。あまりの叫びに闘技場が微かに揺れる。


『この組み合わせを誰が予想したか? 無名の選手二人が決勝の舞台にやってきた!!』


 会場は熱気にあふれ、誰もが今か今かと開始を待ち続けている。


 決勝は準決勝までの闘技場ではなく、更に広い闘技場が用意されている。これまでの倍以上の観客を収容し、VIP室の広さに至っては3倍以上だ。


『拳と紋章術を駆使し、立ちはだかる相手を叩きつぶす!! スレッド・T・フェルスター!!』


「…………」


 真っ直ぐと前を睨み、身体から殺気が溢れている。今までのスレッドからは考えられない雰囲気に、会場の誰もが息を飲む。


『対するは、全試合を一瞬で決めてきたリディアの戦士!! エリック・シュローダー!!』


「…………」


 スレッドと同様に沈黙のまま現れたエリック。そこには感情は無く、覇気もない。生気は全く感じられず、不気味だ。

 前回の試合を見ている観客はあまりの惨劇だった為、スレッドの時同様に歓声を上げない。


 決勝戦とは思えないほど異様な雰囲気が闘技場に満ちていた。






「ピー!!」


 最近出番の少なかったライアは、張り切っていた。


 ライアは今スレッドの指示を受け、城への潜入しようとしていた。鷹の姿で空を飛び、ゆっくりと城に向かっていた。


 スレッドの指示、それはミラが言っていたようにマドックが危険な研究を行なっているかどうかを探ることである。


 危険な研究という言葉を聞き、スレッドは何処かに引っかかるものを感じていた。国の重鎮が国の為にと怪しい研究を行なっている。

 どこかで聞いた様な話しだ。


 本来ならばミラ達だけに任せるべきだろうが、この先の事態を考えればスレッド達も密かに動いて、情報を多く集めた方がいい。


 しばらく城を眺めた後、ライアはスピードを上げて入口に向かう。


 ヒュン!!


 翼を広げ、兵士の上を通り過ぎる。そのスピードは一般の兵士では視認することが出来ないほどの速さだ。


「…………」


 城の中に到着し、狼の姿に戻る。陰になる様な所に隠れながら周囲を確認すると、周囲には数人の兵士が警備していた。その中には動かずに警備する者と絶えず動き回って警備する者に分かれる。


 彼らの動きや目線を確認し、徐々に城の内部へと侵入していく。


「あ~あ、決勝観に行きてーな」


「しょうがないさ。それより気を抜きすぎるなよ」


「分かってるさ。だけど、少しくらい愚痴を言ってもいいだろ」


 扉の前に立っている二人の兵士の話しが聞こえてくる。どうやら武術大会を観戦出来なかったことを愚痴っているようだ。


 兵士の気が話しにそれている間にライアは城内へと侵入した。ここまで誰一人気付いていなかった。






「…………始め!!」


「…………」


「…………」


 開始の合図が告げられても、スレッドとエリックは動きださなかった。


 スレッドが纏う雰囲気から、誰もが最初から激しい戦いを予想していた。

 だが、実際は静かな立ち上がりだ。睨みあい、一歩も動かない。スレッドは相手の出方を見て、エリックは生気のない表情で立ち尽くしている。


『…………』


 戦いが進まない。いつもなら観客のヤジが飛ぶが、会場に漂う言い知れぬ雰囲気が言葉を奪う。


(どうする? 注意すべきか?)


 動かない二人に審判はどうすべきか思案する。このままではいつまで経っても勝負がつかない。

 二人に注意を促そうと口を開いた瞬間、戦いが動き出した。


 身体の周りに幾つもの紋章を展開させたスレッドがエリックに向かって突っ込む。間合いを詰め、展開していた紋章の一つを発動させる。


「ウィンド!!」


「…………」


 風の紋章が発動したはずだが、風が捲き起らない。一見すると失敗したように見えるが、しっかりと発動していた。


 その様子をエリックはぼんやりと眺めている。


「ウィンド!!」


 スレッドは更に紋章術を発動させるが、全て目に見える効果が現れない。それでもスレッドは紋章術を発動させていく。

 最後の紋章術を発動し、攻撃の準備が終了した。


「ブレイク!!」


 ドン!!


 スレッドはエリックの周囲に拳を叩きつける。それによって見えない爆発がエリックを包みこんだ。


 スレッドが行なったことは、風を使って空気の塊をエリックの周りに造り出し、衝撃によって空気の塊を爆発させた。それを更に風を使って衝撃の方向を調整する。


 全方向から衝撃を受けたエリックは、身体中をへし折られるように吹っ飛んでいく。


「…………ふう」


 無事に攻撃がヒットし、スレッドは軽く息を吐いた。倒れたエリックを警戒しながらも、身体の力を抜く。


 これだけで終わるとは思えない。この程度で終わるようなら、ヨルゲンが負けるはずがない。

 ここで気を抜くわけにはいかない。


「…………まじか?」


 スレッドは呆れたように呟くしかなかった。


 目の前で地面に倒れ伏していたエリックは、まるで何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がった。傷つくどころか、ふらつきすらしていない。しっかりと地面に足を付けてその場に立っている。


 渾身の攻撃が全く効いていない姿に、スレッドは溜息を吐きそうになる。


 再び構えなおした時、エリックに異変が起きた。


「う……う……うああああ!!」


「ッ!?」


 両手で身体を抱きしめ、叫び声を上げる。その姿はこれまでの生気の無い表情から一転、顔をこれでもかというほど歪めている。


 そして、身体に変化が生じた。

 エリックの筋肉が肥大していき、三倍以上の大きさまで変化する。スレッドを余裕で見下ろせるほどの大きさだ。


 次に身体のあちこちから触手が飛び出す。無数の触手がリング上全体へと広がり、何かを探るようにうねっている。


「――――!?」


「おいおい……」


 口が裂け、鋭い牙を生やしたエリックが咆哮を上げる。咆哮は会場全体を揺るがし、巨体が圧倒的な威圧感を放っている。

 あまりの変化にスレッドも呆れていた。


 決勝戦は意外な方向へと進んでいった。



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