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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第四章「武術大会」編
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第六十六話「試合後」

「おめでとう、スレッド」


「格好良かった」


「ワウ♪」


 リングから控室に戻ってきたスレッドに、ミズハ達は勝利に喜んだ。スレッドは手を上げて応える。


「快勝、とまではいかなかったからな」


 先ほどまでの戦いを思い出し、スレッドは苦笑する。

 戦いは紙一重だった。一歩間違えれば、ランズが勝利していただろう。もう一度戦えば、勝てるかどうか分からない。


 今も疲れでへとへとだ。直ぐにベッドに倒れ込んで、寝たいぐらいだ。


 だが、これから二回戦の日程を確認しなければならない。しばらくは控室で待機しなければならない。


 コンコン。


「失礼します」


 ノックをして、一人の男が入ってきた。どうやら説明に来た関係者の様だ。


「二回戦ですが、二日後になります。それまで自由に過ごして構いませんが、トラブル等を起こしたら失格となりますので気をつけてください」


「分かった」


 書類に目を落としながら説明を開始する。

 二回戦は一回戦の数日後に行なわれることが慣例となっている。その理由は、各国の要人を招待するためである。


 リディア共和国の武術大会は各国では有名で、大会には各国の要人が招待される。彼らは大会を楽しみにしてやってくる。

 だが、初日の一回戦は次々進んでいき、ゆっくり観戦することは出来ない。

 そこで、二回戦から観戦できるように日程を調整する。


 参加者は彼らにアピールし、好条件での士官や契約を目指す。その為には必ず二回戦まで進まなければならない。

 二回戦に進めなかった参加者の中には今、泣いている者さえいる。それほどまでに二回戦からは重要なのだ。


 関係者が部屋を出ていったのを確認して、宿に帰る準備をする。


「よし、二回戦に向けてしっかりと休もう」


「ああ、さすがに疲れたよ」


 身体をほぐしながら、スレッド達は控室を後にした。


「あ…………」


「ん?」


 控室を出ると、そこにはブレアの昔の仲間が立っていた。






 男を見つけた瞬間、ブレアは身体を硬直させた。

 ブレアの秘密を知っている。たとえ賭けが終了するまで言いふらさないと約束していても、どうしても身体が強張ってしまう。


 そんなブレアを護るかのようにライアが傍に寄り、スレッドがブレアと男の間に立つように移動した。


「ふん、どうやら勝ったようだな」


 スレッドが落ち込んでいないことから、どうやら勝ち進んだと考えたようだ。

 ニヤニヤと笑いながら、スレッド達に近づいてきた。


 そして視線がミズハに向いた。


「ほう…………」


「…………」


 舐める様にミズハの全身を眺める男に、ミズハは不愉快な表情で男を睨みつける、だが、男は気にすることなく眺め続けた。


「一つ聞きたいんだが」


「あん?」


 美女を気分よく眺めていたところに声を掛けられ、不機嫌そうにスレッドを睨んだ。


 男の不機嫌などどこ吹く風、ずっと気になっていた質問をした。


「あんた、名前は?」


「…………ジャン・フラウだ」


 スレッドの今更な質問に、ジャンは呆れながらも素直に答えた。さすがに名前も知らないようでは話が進まない。

 やっと名前を知ることが出来たスレッドは、胸のつっかえが取れたようにスッキリした。


「まあいいや。次の試合で忘れなくさせてやるぜ」


 スレッドを指さし、皮肉るように宣言する。その間も視線はミズハとブレアの身体に向けられている。


「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」


「ふん…………覚えていろ」


 皮肉を皮肉で返す。それに気を悪くしたのか、ジャンは捨て台詞を吐きながら去っていった。

 ジャンが去っていったのを確認して、ブレアは張り詰めていた気を緩めた。そんなブレアを慰める様にライアがブレアの足に顔を擦りつけてきた。


「ありがと、ライア」


「ワウ」


 なんとか笑顔に戻ったブレアをスレッドとミズハは安心するように見つめていた。


 そこに聞いたことの声が聞こえてきた。


「スレッド殿? スレッド殿じゃないか!?」


 声の聞こえてきた方を振り向くと、そこにはバルゼンド帝国近衛騎士団長ヨルゲン・ブルーニが笑顔で近づいてきていた。






「こちらが報告書になります」


「…………やはり怪しいね」


 部下から差し出された資料を眺めながら、ミラは顔を歪めた。


 ミラがいるのは、スレッドとの会談でも使用した郊外に建てられたみすぼらしい建物。森の中に隠れる様に建てられた建物は、ミラ達の部隊が使用するための事務所の様なものだ。

 そんな建物の一室、部隊長の執務室でミラは椅子に座りながら報告を受けていた。


「警備がかなり強化されています。重要な研究を行なっているからだと言われていますが、我々にも内容を明かさないのは問題です」


 本来ミラ以外の者は普段違う部署になっている。だが、部隊の中にはミラと一緒に調査を主にしていると明かしている者もいる。そういった者達が表で動くことで相手の注意を引き、ミラ達が裏で活動する。

 目の前の部下が集めてきた資料は、正攻法で集めてきた資料である。


「分かった。引き続き調査を続けておくれ」


「はっ!!」


 敬礼をして、部屋を出ていく部下を眺めながら、軽く溜息を吐く。


 資料にはマドックの研究に関する調査報告が記載されていた。

 リディア共和国では、どのような研究を行なうにしても報告を行なわなければならない。それがどんな些細な研究であってもだ。


 だが、長老に関しては別だ。彼らはどのような研究を行なっても、報告の義務が免除されている。報告することによって情報が漏れ、国の利益を損ねてしまう可能性があるからというのが理由だ。


 そんな実情から隠れて怪しい研究を行なおうとする者は後を絶たない。


(もう少し、国のことを考えてもらいたいものだね)


 国益のための研究ならば、詳細はともかく概要は教えてもらいたい。全てを秘密にされては調査せずにはいられない。

 ミラ達の仕事が次々と増えていく。彼女たちの仕事はこれだけではないのだ。


「…………そろそろ落ち着きたいものだね」


 窓の外には穏やかな自然が広がっている。ミラ達の現状とは違う静けさを羨ましそうに眺めていた。



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