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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第四章「武術大会」編
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第五十九話「過去」

「美味しい……」


「ワウ!!」


 コロシアムで分かれたブレアは、ライアを伴って露店の食べ歩きをしていた。

 リディア共和国の露店は独特だ。様々な部族が入り混じっており、その部族特有の料理が並んでいる。


 基本的に好き嫌いのないブレアは、二つずつ買ってライアと一緒に食べていた。


「次はあれ」


「ガウ、ガウ♪」


 次に目をつけたのは、肉を串に刺して焼いた串焼きだ。注文をし、お金を払って商品を受け取る。

 肉を串から抜いて、ライアに与える。ライアは喜びながら料理にがっついた。


 ブレアも一口齧る。スパイスの効いたたれと香ばしく焼かれた肉のジューシーさが美味しかった。


「これからどうしようか?」


「クゥン」


 それなりにお腹も膨れ、これからどうするか考える。


 リディア共和国には様々な遺跡が存在する。様々な部族が独自の文化を持ち、多くの部族が自分たちの信仰を形にしてきた。

 それらの遺跡は現在保護指定されている。また観光地としても賑わい、観光客でそれなりの収益を上げていた。


 だが、今から観光に行くには時間が無さ過ぎる。


「……帰ろうか――――」


「あれ、お前ブレアか?」


「ッ!?」


 帰ろうかと呟いたブレアに、横から声が掛かった。その声が聞こえた瞬間、ブレアは身体を硬直させた。


(どうして…………)


 その声は、ブレアにとって聞きたくない声だった。






 薄暗い路地裏で、スレッドは謎の女性と向かい合っていた。


「こいつらに襲わせたのは、あんたか?」


「ああ、あんたの実力を知りたかったからね。まあ、あまり意味がなかったかもね」


 女は悪びれることも無く、笑顔で答える。女の答えに不機嫌になったスレッドは、眼を細めて女を睨みつけた。


 知らない人間に自分の実力を確かめるために、チンピラをしかけられたのだ。チンピラに後れを取るスレッドではないが、それでも気分が悪い。


 そんなスレッドに女は肩を竦める。


「そんなに睨まないでおくれよ。悪いとは思ってるんだ」


「……で、何の用だ?」


「とりあえず自己紹介でもしないかい? あたいの名前はミラ・ダリン。リディア共和国諜報部に所属している」


「…………スレッドだ。冒険者をやってる」


 怒りを抑え、目の前の女性、ミラを観察する。

 諜報部と名乗るには、ミラの格好はとても目立つ。美人で男なら誰もが一度は振り返るほどだ。

 そんな目立つ女性が諜報部を名乗るのは少々不自然だ。


 観察されていることに気付いているだろうが、気にすることなくミラは話を進めていった。


「実は、あんたに武術大会で優勝してもらいたいのさ」


「頼まれたからといって、優勝できるわけじゃないぞ」


 やはり面倒な依頼だと感じ、スレッドは心の中で溜息をついた。






「全く、こんな所でお前と再会するとはな」


「…………」


 皮肉げに話す男に対して、ブレアは無表情のまま俯いていた。


 男はブレアの昔の仲間であり、あることがきっかけでパーティを解散した。それ以来会うことも無く、今日まで至った。

 まさかこんな場所で再開するとは夢にも思っていなかった。


「どうした? 何か言えよ」


「…………」


 俯いたまま何も語らないブレア。そんなブレアに男は苛立つように話しかける。


 そんな二人の間にライアはブレアを護るかのように移動する。そして男を睨みつけた。

 分かれる際にスレッドにブレアを護るように言いつけられている。それに仲間であるブレアを護るのは当たり前だ。


「なんだぁ、こいつ。お前の飼い犬か?」


「ライア……」


 男はますます不機嫌になっていく。それでもブレアは男に対して何も言えなかった。


 険悪なムードの二人を周りの通行人は遠巻きに眺めながらも通り過ぎていく。


「ふん、まあいい。所詮お前は疫病神だからな。なんたってお前はあの『魔女――――」


「やめて!!」


 男が不用意に口にしようとした単語を慌てて止める。ブレアとは思えないほど大きな声だった。

 通行人はブレアの大声に一瞬足を止めるが、直ぐに興味を失って再び動き出した。


「やめて……」


「ああぁ? お前に何か言う権利があるとでも言うのか?」


「…………」


 呪われた眼と呼ばれる『魔女の眼』。様々な文化が集まっているリディア共和国であっても、『魔女の眼』は忌避されている。このような道の真ん中で知れ渡ったら、ブレアは人々の恐怖の視線に晒されるだろう。

 これまで数多くそんな視線に晒されてきたブレアは、自分の力が知られることを恐れていた。


「それにしても……やっぱ、お前は良い女だな」


「ッ!?」


 男は一歩近づいて、舐める様にブレアの身体を眺める。その視線には厭らしさが含まれていた。


 ブレアは美女と呼ばれるに相応しい容姿で、冒険者である為身体も引き締まっている。バランスの取れたスタイルは男を引き寄せる。

 これまでもブレアの身体を目当てに言い寄ってきた男達は数多くいた。目の前の男もその一人で、ブレアの眼を知った後には無理矢理彼女を犯そうと襲いかかったほどだ。だが、ブレアは抵抗し、紋章術で男を吹き飛ばして逃げ去った。


 もう会わないはずだったのに……。


 男はブレアの肩を掴もうと手を伸ばした。その手にブレアは一瞬身体を震わせたが、身体が硬直して裂けることが出来ない。

 何の拍子で男がブレアの眼を口にしないとも限らない。


「ばらされたくなきゃあ、俺と宿に――――」


 ガシ!!


「俺の仲間に何の用だ?」


『ッ!?』


 伸ばされた手が横から別の手に掴まれる。突然のことにブレアも男も驚く。慌てて横を振り向くと、そこには男を睨みつけながら腕を掴んでいるスレッドの姿があった。




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