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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第四章「武術大会」編
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第五十七話「リディア共和国」

 リディア共和国。アーセル王国とバルゼンド帝国の西方に位置し、二大国と接している。その広さは二大国に次ぐ第三位である。

 大地はさほど恵まれていないが、その地下には大量の鉱石などの資源があると言われている。あちこちに採掘場が存在し、リディア共和国は資源を主な資金源としている。


 リディア共和国の歴史は、紛争の歴史である。リディア共和国は数多くの部族によって形作られている。最盛期に百を超える部族が存在し、限りある大地を埋め尽くしていた。

 だが、それだけの数の部族が存在すれば、その分だけの思想が存在する。そして思想がぶつかりあい、部族同士が紛争を起こす。


 最盛期は百以上あった部族は、現在では五十にも満たない数にまで減少してしまった。


 このままでは国が潰れてしまうことを恐れた大部族の族長たちは、しっかりとした領地の線引きを行ない、不可侵条約を全部族で締結した。そして大部族から各代表を選出し、その者達が長老となり、リディアの政治を行なっていくことになった。

 これにより、リディア共和国は平穏な大地を手に入れた。


 しかし、長年他部族と紛争を行なってきたのだ。そう簡単にわだかまりが納まるものではない。


 そこで考えられたのだが、一年に一度リディア共和国の首都で武術大会を行なうことで彼らのわだかまりを発散させることだった。

 最初は部族の代表者を選出し、十数人で行なわれてきた。優勝者には賞金とリディアで取れる宝玉が贈られてきた。


 十年前から部族以外の参加が許可され、それ以降徐々に参加者が増えていき、今では大陸中の騎士や冒険者が集まってくる。


 外部からの参加が始まってから十回目。過去最大の参加者が集まった武術大会は、大変な盛り上がりを迎えていた。






 食事を終え、宿に戻ってきたスレッド達は部屋で各々の作業を行なっていた。


 スレッドはバルゼンド帝国皇子、ジョアンから報酬で貰った宝石の鑑定を行なっていた。バルゼンド帝国に保管されていた宝石だから偽物は混ざっていないだろうが、それでも鑑定は必要だ。

 中に刻まれている紋章も確認し、次の宝石に移る。


 ミズハとブレアもジョアンから貰った報酬を確認していた。

 ミズハは貰った刀を整備していた。拭い紙で油や汚れをふき取り、打粉をかける。全体にかけ終わったら、再び刀身をふき取る。

 ブレアはジョアンにいくつかの魔道書を貰い、椅子に座って読んでいた。ゆったりとお茶を飲み、静かにページをめくっていく。


 ライアは食事後の睡眠を貪っていた。床に身体を丸めながら静かに寝息を立てている。


 コンコン。


 静かな部屋に扉をノックする音が聞こえた。

 三人は扉に視線を向け、誰かが来たことを確認する。ノックの後に宿屋の従業員と名乗り、手紙が届いたと伝えた。


 扉の一番近くにいたスレッドが扉を開け、従業員から手紙を受け取った。


「……カグラ家からか」


「? 家から?」


 手紙を渡し終えた従業員は、礼をしながら部屋を後にした。

 扉を閉めながら手紙の差し出し人を確認すると、そこにはカグラ家の名前が書かれていた。


「今度は一体何が……」


 不安になりながら、スレッドから手紙を受け取ったミズハは封を切った。




『ミズハちゃーん!! 元気かい!?


 僕は君に会えない寂しさに、毎日枕を濡らしているよ。


 仕事をさぼって会いに行きたいけど、リアナが許してくれないよ。


 だから、いつでも帰ってきてくれていいからね。


 それから――――』




「…………」


 延々と父である二クラスの面倒臭い文章が続いている。それを読んで、ついつい破り捨てたくなってしまう。

 それでも頑張って読み進める。




『――――そこで、スレッド殿には武術大会に参加してもらう。


 ミズハのパートナーとして、それなりの実力を世間に示して貰わねば。


 最低でも第三位まで。


 もし、予選などで失格するようなら…………。


 既に推薦状を送ってある。私の名前を出してもらえれば、参加できるようになっている。


 それでは、頑張ってくれたまえ』




「どうした? 変な顔をして」


「百面相でなかなか面白い」


 あまりの内容に頭が痛くなる。まさか家の力を使って、スレッドを武術大会に参加させるなんて思ってもみなかった。

 どう切り出したものか。ミズハはかなり悩んでいた。






「親父さんは何を考えてるんだ……」


「本当にすまない」


 手紙を渡されたスレッドは、その内容にミズハ同様疲れ果てていた。いきなりの参加要求。驚かないわけがない。

 しかもカグラ家の名前を使用していることから、不参加は許されないような状況だ。


 手紙をミズハに返し、ベッドに座る。


「それで、どうする? もし参加したくないなら、私から話をつけるが……」


 今回のことは二クラスの独断だ。ミズハがカグラ家の名前を出して、大会側に交渉すれば参加を取りやめられるだろう。ついでにリアナも後押ししてくれるはずだ…………多分。


 だが、ミズハの提案にスレッドは笑顔で断った。


「いや、いい。せっかくだ。参加させてもらおう」


「いいのか?」


「あれだけの実力者たちと戦えるんだ。楽しみだよ」


 スレッドの顔には好戦的な笑みが浮かんでいる。

 酒場で見かけた一流の冒険者たち。おそらく彼ら全員が大会に参加するだろう。そして本戦に出てくることが予想できる。


 そんな彼らと本気で戦える。切り札である合体紋章を使用することは出来ないだろうが、それでも全力で戦うことが出来る。


 わくわくせずにはいられない。


「結構意外」


 好戦的なスレッドにブレアは意外そうな顔をする。

 これまでの戦いは、仕方なく戦うことが多かった。キングラードル、魔族、アースドラゴン。死の危険を感じる様な戦いばかりだった、


 だからこそ、戦いたがっているスレッドが珍しかった。


「山の生活では毎日が魔物との戦いだったからな。最近の稽古は少々物足りなかったよ」


「……そうだったな。スレッドが暮らしていた山は立ち入り禁止の危険区域だった」


 スレッドが暮らしていた山がボルボ山であったことを思い出し、苦笑いが出てくる。第一級危険区域に暮らしていたことを考えれば、ミズハやブレア、ライアとの稽古では物足りなかったのだ。


「なら、優勝を目指してくれ」


「応援してる」


「ガウ!!」


「おう!!」


 皆の応援を受け、スレッドは拳を突き出して気合いを入れる。


 こうして、スレッドの武術大会出場が決定した。



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