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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第四章「武術大会」編
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第五十六話「冒険者たち」

「ビールくれ!!」


「はい!!」


「こっちにもだ!!」


「はーい、直ぐ持っていきます!!」


 酒場の中は人で溢れかえっていた。


 あちらこちらで注文する声が飛び交い、数人のウェイトレスがテーブルの間を走り回っている。その手には多くの料理とアルコールが乗っていた。

 いつも以上に繁盛している。


「……凄いな」


「数日後に武術大会が控えているからな。各国の騎士や冒険者が集まっているんだ」


「熱い……」


 そんな人の溢れかえる酒場の一角で、スレッド達は食事が運ばれてくるのを待っていた。


 リディア共和国に到着したスレッド達は、武術大会が行なわれるガルディアで宿を取り、ゆっくりと観光をしていた。

 そして観光を終えたスレッド達は、宿屋近くの酒場でゆっくり食事を取る……つもりだった。


「やはり時間をずらすべきだったか」


「……お腹すいた」


「クゥゥン……」


「そりゃ無理だ。こいつらの腹はもう限界だ。ついでに俺も」


 周りのいい匂いを嗅ぎ、ブレアとライアはへばっていた。ブレアはテーブルに突っ伏し、ライアは床で弱弱しい鳴き声を上げている。

 スレッドはブレアとライアを見ながら苦笑していたが、そんなスレッドもお腹がすいていつもの元気が無い。


 そんな元気のないテーブルに、大量の料理を持ったウェイトレスがやってきた。


「お待たせしましたー!!」


 次々と料理がテーブルに並んでいく。肉料理に魚料理、スープ、サラダ、アルコール。明らかに三人前以上の量が置かれていく。

 テーブルに並び終えたウェイトレスは、床に肉の盛られた皿を置いた。その肉にライアが眼を輝かせる。


「早く、早く」


「ワウ♪ ワウ♪」


「よし、食べるか!!」


「頂きます」


 ガツガツガツ!!


 ゴクゴクゴク!!


 大量の料理が次々と消えていく。両手を使って食べるスレッドに無表情で次々と食べていくブレア。その横でミズハが酒を飲みながらゆっくりと箸を進める。

 そしてライアは、既に肉を食べ終えていた。


「すみません。追加で」


「はーい、かしこまりましたー!!」


 テーブルの上も殆ど平らげられていた。この調子では直ぐに無くなると考えたミズハは、テーブルの間を歩いているウェイトレスに追加を頼む。


 食事はまだまだ終わりそうになかった。






「なんだと、こらぁ!!」


「やるか、ああ!!」


 酒場の中に男の大声が響き渡る。

 声のする方に視線を向けると、酔っぱらった男二人が険悪なムードで向かい合っている。二人とも冒険者の様で、腰に剣を差し、鎧を身につけている。

 どうやら喧嘩が始まったようだ。


「てめえがぶつかってきたんだろうが!!」


「俺じゃねえって言ってんだろ!!」


 喧嘩は徐々にヒートアップしていく。お互いの胸倉を掴みあい、声を張り上げる。

 だが、二人とも酔っぱらっているのか、掴みあいながら身体がふらついている。顔も真っ赤にして相手を睨みつけている。


「……うるさいな」


 男達が上げる大声にスレッドは不快な気分になる。せっかく美味しい料理を食べているのに、これでは落ち着いて食事が出来ない。

 周りの客も男達を睨んでいる。


「どうする?」


「……誰かが止めるだろう。ほっとこう」


「賛成。今は食事が大事」


「ガウ!!」


 ミズハの問いにスレッド達は食事が大事と関心を無くしていく。そしてちょうどいいタイミングで料理が運ばれてきた。


「お待たせしましたー」


「ありがとう……いいのか、あれを止めなくて?」


 笑顔で料理を運んできたウェイトレスに男達を止めなくてもいいのか尋ねる。

 店の中で冒険者が暴れているのだ。ウェイトレスは無理でも、店主などが止めに入るのが普通だろう。


 だが、店の人間は慌ててもいないし、止めにも入らない。


「大丈夫ですよー。いつものことですからー」


 のんびりした話し方をするウェイトレスはちらっと男達を見て、直ぐに視線を戻した。その顔には不安も焦りも無い。


 この店は冒険者の集まる酒場では、喧嘩など日常茶飯事だ。数日に一回は必ず喧嘩が起り、その度に放っておく。そして喧嘩で破壊した分はギルドを通して請求する。

 冒険者もギルドの命令には逆らえない。大人しく弁償する。


 その為、今回も店側は介入しない。


「やってやるぜ!!」


「おら、こいや!!」


 男達は熱くなり、お互いに武器を抜いた。剣を構え、相手を斬り殺そうとしている。

 この段階になり、周りの奴らも危機感をあらわにした。これまでは掴みあうだけだったので眺めていたが、武器を出したら話は別だ。


 間違って自分達に被害があっては敵わない。


 ガキィン!!


 鍔迫り合いが始まった。金属がぶつかる音が店内に響き、誰もが自身の武器に手を添えた。


 だが、次の瞬間に喧嘩は終了する。


 ヒュン!!


『ッ!?』


 突然男が現れた。一瞬にして男達の中間に移動し、手に持った剣を一直線に振り下ろした。


 カラン、カラン。


 男達の間にあった剣は切り結んでいた個所からスッパリと斬り落とされた。

 いきなりのことに男達は先ほどまでの怒りを忘れ、呆然と切り落とされた剣を見つめていた。


「ここは食事をする場だ。喧嘩をするなら外でやりたまえ」


 男は剣を鞘に納めながら喧嘩していた男達を睨みつけた。

 鎧を付けない軽装備にマント、頭にはハットを被っている。チョビ髭を生やし、甘いマスクに周りのウェイトレスがうっとりしている。


「て、てめぇ!!」


「お、おい、やめろ。こいつはあのアーノルドだ」


「なっ!?」


 邪魔されたことと武器を破壊されたことに再び怒りを覚え、男に食って掛かった。

 だが、その後ろにいた男の仲間が諌める。目の前の男の正体に気付き、注意を促した。


「あの男、そんなに有名な奴なのか?」


「かなり有名。ランクSの冒険者」


 男の名前はアーノルド・ガンヴォルグ。Sランクの冒険者であり、片手剣の達人である。常に優雅で、一度として慌てたことが無いと噂されているほどだ。

 片手剣だけでドラゴンを倒したとも言われている。


 喧嘩していた男達はアーノルドという名前にビビり、すごすごと引き下がっていった。


「ここにいるのは彼だけじゃない。他にも一流の冒険者が周りにいるよ」


 ミズハに言われて周りを見渡してみると、雰囲気の違う冒険者が数人いることに気がつく。明らかにその辺の冒険者とは格が違う。

 その中の数人はスレッドの実力に気付いているのか、こちらを窺っている者もいる。


「武術大会に参加するために集まったのだろう」


 リディア共和国の武術大会は大陸中の冒険者が多く参加し、その規模はかなり大きい。賞品や賞金だけではなく、大陸一という名誉が彼らを大会に参加させる。


「……面白くなりそうだ」


「ガウ!!」


 気軽な観光のつもりだったが、なかなか楽しめそうだ。

 スレッドは緊張感のある店内を楽しそうに眺めていた。



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