表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第三章「結婚騒動」編
54/202

第五十二話「賭け」

「はあぁぁーー!!」


 アースドラゴンとの戦闘開始から約15分。スレッドは限界を超えた戦いを見せていた。


 既に合体紋章の限界を迎え、身体のあちこちが悲鳴を上げている。強敵との戦いで精神的にも疲労が蓄積していく。一瞬でも気を抜けば、大の字で寝転がってしまうだろう。


「はっ、はっ」


 ライアの体力もかなり消耗していた。

 動き回り、隙を見て紋章術を放つ。魔力を消費し、後数発しか紋章術を放つことが出来ない。懸命に回避して、アースドラゴンの気を逸らしていく。


「――――――――!?」


 対するアースドラゴンは限界が無いかのように暴れ続けている。爪を振るい、その巨体で体当たり、更にはアースドラゴンが得意とする土と重力の紋章術を披露してくる。


 咆哮と共に紋章が展開し、すぐさま発動する。その展開速度は人間の比ではない。


「ぐっ!!」


「ガウ!!」


 瞬間に身体に掛かる重力が増していく。それまでのスピードは殺され、スレッドとライアは動きを止めてしまう。


 そこにアースドラゴンの鋭い爪が襲いかかる。


「ッ!? マズ!!」


 このままでは攻撃を受ける。どれだけ多く見積もっても、生存率は限りなくゼロに近いだろう。たった一発で命は無い。

 ライアも同様に動けない。直ぐに助けに来ることは出来ないだろう。


 スレッドは命がけで自分自身に重力の紋章術を発動させ、アースドラゴンの紋章術を相殺させるが、さすがに完全には相殺できなかった。


「ライア!!」


「…………ガウ!!」


 ライアに指示を出し、風の紋章術を発動させる。圧縮した風がスレッドに向かい、スレッドの身体を吹き飛ばした。


 ドン!!


 空振りしたアースドラゴンの爪は地面に激突し、重力の紋章術で速度を増した腕は地面にクレーターを造りだした。


「がっ!!」


 合体紋章を発動中で紋章術を展開した。更に風をスレッド自身に向けたことで凄まじい衝撃がスレッドを襲った。


 身体全体に合体紋章によるエネルギーの防御によって、スレッドへの攻撃は軽減される。回復速度も速くなる。


 だが、今の衝撃は限界の身体にはキツイものがあった。


(このままじゃ……ヤバい!!)


 色々な意味で限界だったスレッドは、覚悟を決めた。


「ライア、少しの間頼む!!」


「ガウ!!」


 ライアは軽く頷き、限界の身体に鞭を入れた。再び雷を纏い、アースドラゴンの攻撃を回避していく。


 アースドラゴンの相手をライアに任せ、スレッドは準備に入る。軽く息を吐き、身体の力を全て抜いた。瞬間倒れそうになるが、気合いで持ち直す。そして意識を集中させ、身体のエネルギーを両手両足に集中させる。


「…………」


 残しておいた余分の力も注ぎ込み、重心を下げる。少しだけ前かがみになり、真っ直ぐ狙い所を見据える。


(狙うは…………頭部)


 先ほどと同じよう頭部に衝撃を与え、アースドラゴンを興奮状態から解除する。それがスレッドの狙いである。


 本来アースドラゴンは比較的大人しい魔物と言われている。滅多なことでは怒りを見せず、人を襲うことは無いとされている。

 ならば今の状態をどうにかすればいい。そうすれば止まる……はずだ。


(…………やっぱり、賭けだよな)


 可能性としては確かにある。知能が高く、人語まで介すると言われているアースドラゴン。人間と同じように脳に衝撃を与えれば、何かしらのアクションがあるだろう。意志疎通が出来る状態まで戻るかもしれない。


 しかし、その逆もまたあり得る。衝撃を与えたことにより、更に怒りを増して襲ってくる可能性も無くは無いのだ。


 それでも――――


「このまま助けを待っても、タイムオーバーなのは目に見えている。なら、最後の可能性に賭けるしかないか」


 時間的に考えて、応援がやってくるまでまだ時間が掛かる。目の前のライアの動きも大分落ちていた。


 そして、このままではスレッド達の終わりが直ぐにやってくるだろう。アースドラゴンの胃袋に収まるのがありありと想像できてしまう。


 だからこそ、スレッドは賭けに出た。


「攻撃に合わせろ!!」


「ガウ!!」


 ライアの返事を聞き、スレッドは真っ直ぐアースドラゴンの頭部目掛けて移動する。


 いつもならフェイントを入れながら移動し、相手がその姿を見失ったところで攻撃に移る。

 だが、今のスレッドにはフェイント入れられるほどの体力が残っていなかった。精々いつものスピードに上乗せして、最短距離を移動するだけだった。


 それに合わせて、ライアがアースドラゴンの死角へと移動する。


「――――――――!?」


 最短距離で移動したのだが良かったのか、適当に力の抜けた動きはアースドラゴンの反応を遅らせた。


 スレッドは渾身の二撃をアースドラゴンに見舞った。


「おらっ!!」


 まず右の拳で頭部の上を叩きつけ、その後に右足を顎の下から蹴り上げる。上下から脳を揺らすことによって、先ほど以上の振動を与える。


「っ!?」


 攻撃後にアースドラゴンを観察すると、頭がふらついていた。どうやらアースドラゴンの脳が揺らされ、動きを止めたようだ。


「ガウ!!」


 ふらついた頭にライアが体当たりをする。スピードを乗せた体当たりはアースドラゴンの脳に更なる衝撃を与えた。


 攻撃が成功したことで、スレッドとライアは気を抜いてしまった。身体の力が抜けたスレッドの身体は重力に従って地面へと落ちていく。空中で体勢を立て直そうと試みるも、身体が上手く動かなかった。

 体当たりにより意識を失ったライアも地面へとぶつかった。


 しかし、幸運にも地面は草で覆われており、戦闘の影響で若干柔らかくなっていた。多少身体を打ちつけたものの、大した怪我はしなかった。


 ドオォン!!


 アースドラゴンは砂埃を巻き上げながら、頭部を地面に叩きつけた。どうやら今の攻撃で意識を失ったようだ。


「…………よっしゃ!!」


「…………」


 第二段階が成功したことを確認したスレッドは、地面に大の字になりながら空に向かって拳を突き出し、歓声を上げた。

 意識を失ったライア。ダメージを回復させるためにそのまま意識を取り戻さず、最低限の生命維持だけ作用させ、身体の動きを止めた。


 どうにか時間稼ぎが出来た事を確信したスレッドも、恐ろしいまでの疲労からそのまま意識を手放してしまった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ