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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第三章「結婚騒動」編
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第四十七話「探索」

 スレッド達参加者が飛び立った頃。


 リアナは夫であるニクラスを置いて、ミズハとブレアを招待して館の庭で紅茶を飲んでいた。


 参加者がグランドビルドを倒し、目的の宝玉を持ってくるにはどんなに早くても半日は掛かるだろう。選考は数日間を予定しており、誰かが宝玉を持ってくるか、誰も手に入れられず全員戻ってきた場合に終了となる。

 それまでまだまだ時間に余裕があり、このような展開になった。


 テーブルの上にカップが置かれ、そこにメイドが紅茶を注いでいく。更に他のメイドがテーブルの中央に焼き立てのお菓子を置いた。


「今朝私が焼いたの。良かったら一杯食べてね」


「ありがとうございます」


 ニコニコしながらリアナは自分の娘とその仲間を眺めている。


 テーブルの上のお菓子。これはリアナが早起きして、作っていたものである。

 見た目は高級そうで、微かに良い匂いがする。種類も豊富で、貴族の婦人が作ったとは思えないほどの出来栄えだ。


「…………美味しい」


「良かった。喜んでもらえたみたいね」


 実際に食べてみれば、とても美味しい。店で売っているようなお菓子ではなく、何処か懐かしさを感じさせるような、そんな味がした。


 それからしばらくゆったりと紅茶とお菓子を楽しんだ。


「ブレアちゃん、お話聞かせてもらっていいかしら?」


「話……?」


「ミズハちゃんの冒険者としての話が聞きたいの」


「ちょっ!! 母上!!」


 慌てるミズハをよそに、リアナはミズハの話を要求する。そこには一切の悪気がない。邪気のない笑顔を浮かべて、とても楽しそうだった。


 二人の反応から、どうするべきか悩むブレア。本当ならば仲間を優先するべきなのだろうが、ここは面白さを優先してしまった。

 無表情の中に微かな楽しさを滲ませて、ブレアは意外と饒舌に語った。


「まず……」


「ブレア!?」


「ふむふむ…………」


 その後、数時間に及んだ暴露大会が行なわれ、自身の失敗談に肩を落としたミズハの姿があった。






「…………見付からない」


「…………ワウゥ」


 森に着いてから数時間。己の勘とライアの感覚を頼りに探索していたが、グランドビルドを発見することは出来なかった。


 スレッド自身もそう簡単に見付かるものとは思っていなかったし、おそらく他の参加者が見つけたところに向かえばいいかとも考えていた。誰かが悲鳴を上げれば、必ずライアがその声を聞きつける。

 それから向かっても遅くはないだろう。


 そんなことを考えていたのに、魔物どころか参加者の一人ともかち合わない。これでは手掛かりが一向に手に入らない。


「少し休むか…………」


「ガウ」


 疲れは全くなかったが、気分を一新させるために休憩することにした。


 今回の討伐には、カグラ家から少量の携帯食料と水が支給されている。それ以外は現地調達が基本となる。

 貴族の坊っちゃんには厳しい条件だ。実際文句を言う者が続出したが、ニクラスが「条件を飲めないなら、参加資格をはく奪する」とはっきり告げたことであっさりと諦めた。


 辺りを見渡したスレッドは、手ごろな樹木を見繕う。乾燥していて、焚火に使えそうな木の前に立つ。


「――――ふっ!!」


 ベキッ!! ズドン!!


 力一杯ローキックを入れる。木は根元辺りで折れ、砂埃を上げながら地面へと倒れた。


 折った木をライアが細かくし、焚き木を作り上げていく。その時間はたった数分で終わってしまった。彼らにしたら、この程度朝飯前だ。


 焚き木を重ね、ライアが紋章術で火をつける。そこに軽く風の紋章術を放ち、風を送り込む。火はすぐさま大きくなり、食材を焼く準備が整った。スレッドはここに来るまでに狩った猪の肉を取り出し、串に刺して焼いていく。


『…………じゅる』


 美味しそうな匂いに涎が溢れてくる。たまらずフライングでつまみ食いしたくなるが、しっかり焼いた方がおいしいので我慢する。

 ライアも一瞬飛び出したが、スレッドがしっかりと抑え込んだ。恨めしそうな鳴き声を出したが、スレッドは我慢させた。


 焼けたことを確認し、スレッドとライアは肉に齧り付いた。


「ガツガツ……」


「ガウ、ガウ……」


 次々に平らげていく。途中肉が焼ける匂いに釣られた魔物や獣を交代で撃退し、食べられる獲物の肉を捌いて再び焼いていく。


 気がつけば、骨の山がスレッド達の横に高く積まれていた。


「さて…………悲鳴が聞こえた場所に向かうか」


「ガウ!!」


 水の紋章術で火を完全に消火し、山火事にならないように確認する。こんなところで火を放置すれば、たちまちこの森が無くなり、魔物が街を襲うだろう。

 焚火は燃えカスと煙だけが立ち上っていた。


 そして、食事の途中から聞こえていた悲鳴がする方向へと視線を向けた。


 実は、猪の肉を食べている頃から、森の奥から男の悲鳴が聞こえていた。ライアも気付いて知らせてきていたものの、スレッドはしばらくなら大丈夫だろうと食事に夢中になっていた。肉の魅力に負けたライアも人の命よりも眼の前の肉だった。


 食事も終わり、そろそろ悲鳴に必死さが伝わってきたことを察し、さすがに助けに行くかと準備を整えた。


「ライア、先行して偵察してきてくれ」


「ガウ!!」


 食事を終えて大満足のライアは、スレッドの指示に力一杯返事をして、鷹の姿で空を飛んでいった


(それにしても、グランドビルドの鳴き声が聞こえないのが不思議だ)


 グランドビルドは人を襲う際、甲高い鳴き声を上げる。その甲高い鳴き声が特殊な音波を発生させ、他の魔物はその音波に一瞬身体を硬直させ、その隙に獲物を狩る。


 一流の冒険者ならば音波に隙を作らされることもないが、貴族の坊っちゃんが大丈夫なわけがない。

 他の魔物と同じように動きを止めて、グランドビルドの餌食になること間違いなしだ。


 だが、グランドビルドの鳴き声は一切聞こえなかった。滅多に鳴かない種族でもないし、スレッドとライアが聴いてなかったわけでもない。疑問に思うのも仕方ない。


「まあ、行ってみれば分かるか」


 もしかしたら違う魔物に襲われている可能性もある。グランドビルド以外の魔物もそれなりの実力を備えている。


 軽く腹ごなしをするためにも、ライアの後を追ってスレッドは全力で森の奥へと走っていった。



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