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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第三章「結婚騒動」編
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第四十一話「結婚」

「なっ!?」


 突然の父の発言に言葉を無くしてしまう。


「ちょ、ちょっと待ってください!! 私はまだ結婚する気はありません!!」


「お前の意見は関係ない」


「!?」


 先ほどとは打って変わって、厳しい視線と口調で反論を許さないニクラス。そこには国を動かす者としての威厳があった。


 ミズハはこれまで冒険者として権力者に会う機会があった。どんな時であってもミズハは臆することなく、相対してきた。嫌な奴に会ったとしても、軽くあしらう為の術も身につけてきた。


 だが、ニクラスに対しては何も言えない。幼い頃から厳しく躾けられ、その頃の恐怖が蘇ってしまうのだ。


「あなた、そんな言い方は感心できませんね」


 憮然と言い放つニクラスを窘めるリアナ。リアナの冷たい視線を受け、ニクラスは背中に大量の汗が流れる。

 これだけで二人の力関係がはっきりと見て取れる。


 二クラスを黙らせた後、リアナはミズハに向き合った。


「ですが、先ほども言ったように貴女はカグラの人間なのです。それに貴女ももう17歳。そろそろ落ち着かなければなりません」


「…………」


「それに、貴女はカグラの力を受け継ぐ者。それを次代に受け継がなければなりません」


 ニクラスとは違う威圧感に再び黙ってしまう。リアナの言葉はミズハの胸に突き刺さった。


 古よりカグラ家に受け継がれし力、『血のブラッド・オブ・ブラッド』。

 カグラ家は代々血の交わりによって力を受け継がせてきた。その力は女性のみ現れ、綺麗な黒の髪が力の証である。


 リアナも力を継承しており、今でも夫婦喧嘩の最中についつい炎を出してしまう。二クラスもそれなりの実力だが、リアナには敵わない。

 それゆえのニクラスとリアナの力関係である。


「とにかくお前には私が選んだ者に会ってもらう」


「そんな!?」


「拒否は認めん!!」


「横暴です!!」


 その後、二人の言い合いがヒートアップしていき、それを眺めながらリアナは溜息をついていた。






 ミズハとニクラスが喧嘩しているその頃。


 部屋で休んでいたスレッドは、メイドに許可を貰い、ライアを連れて館内を探索していた。


 色んな場所を見て回り、敷地内にある庭に辿り着く。

 広い庭には噴水があり、木々が綺麗に並んでいる。その他にも綺麗な花が咲き、所々に小動物が動いている。とても丁寧に整備されており、見るものの心を落ち着かせるような雰囲気が溢れている。


「…………」


 庭を眺めながら、スレッドは周りに意識を向けていた。ライアもスレッド同様意識を外に向けて、軽く警戒していた。


「何か用か?」


「…………ガウ?」


「……お気付きでしたか」


 誰もいない庭に向かって声を掛ける。一見すると独り言のように聞こえる。


 その声に反応して、木の陰から一人の老執事が現れた。その人物は入口の門で出会った老執事だった。


「で、誰だ?」


「申し遅れました。私、カグラ家の執事、セバスと申します」


 無表情で現れた老執事セバスは、丁寧に頭を下げた。


 スレッドはセバスを観察した。

 何処にでも居そうな執事。身なりに乱れは無く、姿勢よく佇んでいる。本当に普通の執事だ。


(ふーん……)


 しかし、スレッドは普通とは見えなかった。


 格闘術を使用している者としてみれば、その立ち姿に隙が全く感じられなかった。たとえ今この場に賊が入り込んでも、一瞬にして叩き伏せられるだろう。


 バトルジャンキーというわけではないが、それでも強者に出会うと戦ってみたい気持ちもある。武者ぶるいがする。


 自身の紹介を行ない、何用かを尋ねる。


「もしよろしければ、お手合わせ願えませんでしょうか?」


「……ああ、いいよ」


「ありがとうございます」


 一応ここでは客であることを考え、下手なことはしない方がいいのではと瞬間的に考える。

 だが、この家の執事が願い、おそらく主の許可を貰っているのだろう。周りの見えない所に二人のやり取りを観察している者がいる。ライアも気付いて警戒している。


 さすがにこの場所で戦うわけにはいかない。二人は模擬戦が行える場所へと移動していった。






 ミズハとニクラスが喧嘩をし、スレッドとセバスが移動しているその頃。


 部屋でゆっくりとコーヒーを飲んでいるブレア。入口付近ではメイドが目を閉じて、じっと立っている。

 二人の間には会話は無く、どちらも気まずそうな雰囲気はない。ただただ静かな空間だけが広がっていた。


 そんな静かな空間を打ち破ったのは、ブレアだった。


「……メイドさん、ちょっといい?」


「なんでございましょうか?」


 手に持っていたカップをテーブルに置き、メイドに視線を向ける。


「当主の病気は大丈夫?」


「…………ご心配いただきありがとうございます。ですが、詳しいことは私では分かりませんし、関係者以外に何かしらの情報を伝えることは禁止されております。ご了承ください」


「そう…………分かった」


 メイドの答えを聞き、ブレアは眼を閉じて自分の考えにふけった。


(カグラ家の当主が不測の事態と言う情報は無し。不自然)


 ブレアには冒険者としての情報網がある。幾つもの多角的な情報を仕入れて、その中から正しい情報を読み取っていく。


 それによれば、今回の危篤という情報には不自然な点が多い。

 これまで集めてきた情報では、ニクラスが病気なったとか、事故を起こしたという情報は一切入ってこなかった。噂ですら聞こえてこない。


 カグラ家が情報を制限している可能性もあるが、それでも一切情報が入ってこないのは不思議だ。


 ブレアの考えや手に入れた情報が全て正しいとは言い切れないが、怪しむには十分な量だ。


(……時間が掛かるかもしれない)


 危篤であろうとなかろうと、今回の訪問が長引きそうなことに、ブレアは心の中で肩を落とした。




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