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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第二章「バルゼンド帝国」編
30/202

第二十八話「地下牢」

 ガチャン!!


「大人しくしていろ!!」


 手錠をかけられた三人は牢屋へとぶち込まれた。三人が入ったことを確認した兵士は扉を閉め、鍵を掛けた。

 その瞬間、牢屋全体に紋章術が発動した。


 バルゼンド帝国の牢屋はかなり頑丈につくられている。大陸一戦争の多いバルゼンド帝国では昔から多くの捕虜を捕まえてきた。そんな捕虜の中には、己の肉体だけで壁を破壊したり、紋章術によって脱走したり、数多くの脱走者がいた。その度に修繕されてきた。

 その為よほどの力を加えなければ壊れないような造りと紋章術、更に紋章術で鍵をした手錠を掛けることによって、逃げられないようにしたのだ。


 現在では、大陸一の牢屋として有名である。


「……難しい」


 脱出不可能な檻を見て、ブレアは外すことのできない手錠の紋章を解析しようと試みていた。だが、複雑すぎる紋章を解析することは難しい。


 あーでもない、こーでもないと呟きながら紋章を一つ一つ解除していく。

 拘束に使われている紋章は幾つかの段階に分かれている。段階が増えるごとに紋章の円が大きくなっていく。逆に解除する際には円を徐々に減らしていき、最後にパスワードを打ち込んで解除される。


 ブレアが今行なっているのは、円を小さくする作業だ。まるでパズルの様に外していくが、小さくなるごとに解除は難しくなる。


 しばらくして、ブレアは解除を諦め、周りの壁に目を向けた。


「さて、これからどうする?」


「しばらくは動かない方がいい。まあ、ゆっくりするとしよう」


「…………ふう」


 スレッドも手首を動かしながら手錠の紋章を観察している。その表情に焦りは見えない。


 スレッドにとって、難関と言われる牢屋も単なる休憩部屋にしか思っていない。その姿にはミズハも呆れるしかないようだ。


 そんなスレッドを横目で見ながら、ミズハは先ほどのジョアンとブッシャルの会話を思い出していた。


 明らかにジョアンが不利な状況であったし、このままでは牢屋から出られない可能性がある。

 どうにかしなければならないはずである。


 だが、そんなミズハの心配をよそに、作業を止めたスレッドは壁にもたれかかって眼を閉じた。ブレアに至っては、周りの紋章を楽しそうに眺めていた。


「不安ばかり考えていても先には進めないさ。ジョアンを信じようぜ」






 スレッド達が牢屋に入れられた頃。


 兵士による護衛と称した監視の元、城に帰還したジョアンはブッシャルに食って掛かっていた。


「どうしてだ!! なぜ父上に会えない!!」


「ですから、フィカルド様は病で伏せっております。謁見することは出来ません」


 話は平行線をたどっていた。

 いいから会わせろと言うジョアンに対して、ブッシャルは皇帝の病を理由に会わせようとしない。


「少しの間でいい。重大な話があるんだ」


「まいりません。話ならば私が承りますよ」


「……もういい。無理にでも会わせてもらう」


 説得を諦め、部屋を出ようとする。


「そのようなことをされては困りますな」


 部屋を出ようとしたジョアンを控えていた兵士が押しとどめる。手に持った槍を交差し、ジョアンの歩きを止めた。


 兵士たちに向かって、ジョアンは不機嫌そうに命令する。


「そこをどけ」


「…………」


「私の命令が聞こえないのか!!」


 高圧的に命令するが、兵士達は無言で動こうとしない。


 本来上位者であるジョアンの命令に従う必要があるが、彼らは宰相派に属しており、ブッシャルが権力を握った際には昇進させることを約束していた。


 現在帝国内部は宰相派が圧倒的権力を持っている。皇子派である兵士は閑職に追いやられ、ジョアンの味方である兵士は少ない。


「ジョアン様はお疲れのようだ。自室にお連れしろ」


「は!!」


「な!? 放せ!!」


 ブッシャルの命令に従い、兵士達はジョアンを拘束し、部屋から連れ出していった。


 その後ろ姿をブッシャルは実に楽しそうに眺めていた。






 牢屋に入れられてから数時間。

 二時間ほど前に一度食事が運ばれた。食事は手錠をかけられたままでも食べられるものが与えられ、三人は毒が入っていないことを確認してから食べた。


「それにしても、これほど牢屋が満杯になることもあるのか?」


 ここに連れてこられる時に見た周りの牢屋は人で溢れかえっていた。牢屋とは一つの場所に最高でも十人入れば十分なのに、ここの牢屋には二十人以上入っているのが殆どだ。


 一般常識というものをあまり知らないスレッドはそれを疑問に感じていた。


「いや、戦時でもなければこれほどになることはないよ。おそらく後継者争いで宰相側が邪魔な人物を何かしらの理由で投獄したのだろう」


「それによって自身の地位を固める、か……」


「皇太子派は不利。私たちもかなり不利」


 三人共に溜息が洩れる。結局三人共にジョアンの助けを期待していないようだ。三人がそれぞれどうするべきかを考えていた。


 暫くして、廊下の奥から足音が聞こえてきた。足音は二つ聞こえる。


(見回りの兵士か……)


 足音はスレッド達の牢屋の前で止まった。そちらに目を向けると、二人の兵士がこちらを向いて立っている。


 一人は痩せがたの背の低い色白の男。もう一人は背の高い色黒の男。まるでデコボココンビだ。


「大丈夫ですか? 今開けますので」


 痩せがたの男が小声で話しかけてきた。どうやら周りに知られたくないようだ。


「あんたたちは?」


「我々はジョアン様から貴方がたを逃がすよう仰せつかった者です」


 一人が扉の鍵を開けている間、もう一人が辺りを警戒している。この行為が明らかに違法であることが分かる。


「…………」


 スレッドとミズハが何の疑問も無く兵士を眺めているのに対して、ブレアは兵士二人を無表情で見つめている。良く見ると、睨んでいるようにも見える。

 そんなブレアにどうしたのか気になるスレッドだったが、今は気にしていられない。


 鍵が回されると同時に紋章術が解除された。只の岩の壁になり、この程度ならスレッドの蹴りの一つで破壊できるだろう。


「こちらが荷物になります」


 次に手錠を外し、持ってきた荷物を渡していく。スレッドの手甲、ミズハの刀、ブレアの杖。袋に入れられたそれらを確認しながら取り出す。


 渡された武器を装備し、意識を戦闘モードにスイッチする。


 城の内部には多くの兵士が警備している。戦いを行なうつもりはないが、それでも用心するに越したことは無い。

 気配を探るが、今のところ他の兵士の気配はない。


「では、行きましょう」


「果たして鬼が出るか、蛇が出るか」


 三人は頷き合い、兵士二人の案内でついていった。



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