表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第二章「バルゼンド帝国」編
29/202

第二十七話「宰相」

 『皇帝の証』を手に入れたスレッド達は街に戻ってきた。


 既に罠は解除していた為、行きの時間の半分ほどの時間でレンデン遺跡から地上へと戻ることができた。


 遺跡を出てからも特に宰相派などからの襲撃なども無く、慎重に街まで移動した。

 現在は人通りの少ない路地で話しあっている。


「これで依頼は終了か?」


「ああ、城まで戻れば大丈夫。父上に会って、皇位を継承すれば宰相も簡単に手を出せない」


 バルゼンド帝国の皇帝になるには、皇族が『皇帝の証』を所持しているだけでは駄目だ。後継者となる皇族が遺跡から証を手に入れ、現皇帝に承認されなければならない。

 逆にいえば、現皇帝に承認されない限り次期皇帝は決定されない。


「それで……すまないが、報酬はもう少し待ってもらえないか?」


 ジョアンは三人に向かって丁寧に頭を下げた。


「どの位待てばいいんだ?」


「そうだな……父上からの承認が得られて、次期皇帝として確定すれば多少の無理は出来る。早ければ数日中には払うことが出来るだろう」


 これからの予定を考えながら答える。


 宰相派に見付かることなく城に向かい、これから迎えに来る仲間の兵士と共に皇帝の部屋に辿り着く。宰相派との衝突が予想されるが、それさえ成功させれば誰にも文句を言わせない。皇帝の部屋には、例外を除いて皇族しか入ることが許されないのだ。


 現在皇帝は病に伏せっている。その為息子であるジョアンでさえ拝見していない。宰相が医者を用意し、身体に障ると言って誰にも会わせない。

 真正面からも行っても、会見することは出来ない。ならば強行しかない。


 以上のことから考えて、スレッド達に報酬を支払えるのは早くても数日は必要になるだろう。


「ならば私達は宿屋で待つとしようか」


「賛成。ゆっくり休みたい」


「ならこれを。少ないが宿代だ」


 そう言ってジョアンは腰の袋に入れていた金貨を数枚渡した。これだけあれば数日は余裕で滞在できるだろう。


「それじゃあ、行って――――」




「待って貰いましょうか?」




『!?』


 突然話しかけられた声に驚き、声のする方へ視線を向ける。

 視線の先、建物の陰から豪華な服を着た小太りの男とそれに付き従う屈強な兵士が数人現れた。


(ライア!!)


(ガウ!!)


 男達が現れた瞬間、スレッドは念話でライアに指示を出す。

 指示を受けたライアは、眼で追い掛けることが出来ないほどのスピードでその場を離れた。その際ライアの口には、煌めく何かが銜えられていた。


 彼らはスレッド達を囲むように、徐々に移動していく。


「ブッシャル!?」


「勝手をされては困りますな、ジョアン様」


 ニヤニヤ笑いながら話しかけてくる男、この国の宰相であるブッシャルが近づいてくる。


 スレッド達は二人の会話を聞きながらも、周りに警戒を向ける。武器に手を当て、いつでも戦闘が出来る様に備えていた。


「皇族である貴方様がこのような下賤な場所に来られてはいけません。今すぐお城にお戻りください」


「……分かっている」


 本来ならば、ここにはジョアンの信頼する兵士が迎えに来る手筈である。だが、いつまで経ってもやってこない。それどころか、敵対しているブッシャルがジョアンを迎えに来た。

 おそらくジョアンの仲間に何かがあったのだろう。


 このままブッシャルと共に城に戻るのは危険だが、ここで逆らうわけにはいかない。一先ず従うしかない。


(私はこのまま城に戻る。私が戻るまで待っていてくれ)


(了解。宿屋で待っている)


 小声で話しあい、ジョアンが宰相達を連れて城に帰ろうとした。


「連行しろ」


「っ!? 待て、彼らをどうするつもりだ!!」


 後ろで控えていた兵士達がスレッド達を取り囲んだ。全員無表情だが、明らかに敵意を感じられる。


 対する三人も咄嗟に構え、今にも戦闘が始まりそうな雰囲気が路地に流れていた。


 何かのきっかけで戦闘が開始する。そんな緊迫感があった。


「彼らには帝国直轄の遺跡に無断で侵入した容疑が掛けられております。武装を解除させ、城に連行いたします」


「彼らは私が雇った冒険者だ。皇族である私が認めて入ったのだから問題ない!!」


「そういうわけにはまいりません。遺跡に入るためには“現皇帝”の許可が必要なのです。たとえジョアン様がお認めになっても、それは有効ではありません」


 徐々に範囲を狭めていく兵士達を見ながら、ブッシャルは笑みを崩さないまま反論する。


 直轄地の中でもレンデン遺跡は特別な場所である。『皇帝の証』が納められていることを知る者は少ないが、代々皇帝がその場所を重要視してきた。

 その為レンデン遺跡に関してだけは、現皇帝の認可が必要となっていた。

 そして、現皇帝は病気で会うことが出来ない。実質誰も遺跡に入ることは許されないのだ。


 ジョアンもそれは知っていが、自身が次期皇帝に選ばれれば問題ないだろうと高を括っていた。

 見積もりが甘かった。それを心の中で実感した。


「出来れば手荒なまねはしたくありません。ジョアン様から彼らに大人しく連行されるように言っていただければ話しは早いのですが……」


「…………」


 何も言えないジョアンに、スレッドは軽く頷き、ミズハとブレアも同様に頷いた。そして武器を兵士に預け、手錠をかけられた。


 この場所で戦って、逃げ切ることは出来るだろう。屈強な兵士たちだが、スレッド達を止めるのは難しい。

 だが、ここで逃げれば、必ず指名手配を受け、犯罪者の仲間入りだ。どう考えても。不利益しか被らない。


 ならば、こちらから従って、隙を探すしかない。


「ご理解いただけたようで助かります」


「来い!!」


 兵士達は乱暴にスレッド達を連れていく。武器を取り上げ、手を前で拘束する。


 ジョアンは済まなそうにその後ろ姿を見ていた。その全てをブッシャルは楽しそうに眺めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ