第二十三話「依頼」
ついにPVが5万、ユニーク数が1万を突破しました。
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これからも頑張ります。
「……雑だな」
「全くだ」
「明らかに素人」
スレッド達は市場を離れ、徐々に人気のない場所に向かっていた。
市場から見張られ、尾行されていることは三人共気付いていた。それを知って人気のない場所を目指す。
明らかに誘い込まれているのは、尾行している男の方だった。
「どうする?」
「いつまでもついてこられたら面倒だ。次の角で挟み撃ちにするか」
あまりにも見え透いている尾行に呆れているミズハ。それに応えるスレッドは相手を挟みこもうと企んでいた。
ここに来るまでにライアを先行させている。鷹になって上空に飛び上がり、スレッド達と尾行している男が通った後を更に後ろで尾行させている。
スレッドは念話でライアに自分の作戦を伝えていた。
暫くして三人が角を曲がった。
「ッ!?」
三人が消えて、見失わないように慌てて男は角を曲がった。
「あ!?」
すると、そこにはミズハとブレアが武器を抜いて待ち構えていた。
「どうして俺達の後をつけてきたのか、話してもらおうか」
「ガウ!!」
男の後ろに突然スレッドとライアが現れ、男を挟み撃ちにした。拳を握りしめ、いつでも攻撃できるように構える。ライアは牙をむき、直ぐに飛びかかろうとしていた。
なぜスレッドが後ろにいるのか? それはスレッドが紋章術で空に飛び上がり、男に気付かれることなく後ろに降り立ったのだ。男は正面ばかり気にしていたので、上に注意を向けていなかった。
そこで狼に戻ったライアと合流し、男を追い詰めた。
「ま、待ってください!? 貴方達にお願いがあるんです!!」
『??』
尾行していたにも関わらず、見付かった途端にお願い事をしてきたのだ。三人共困惑した表情を浮かべていた。
男は一生懸命に頭を下げてきた。
男の話を聞くこととなり、食堂へと足を運んだ。
席に着くと、店員が注文を聞きに来て、スレッドは大量の注文をする。その量に店員と男が顔を引き攣らせる。
食事の払いは男がする事になっていた。それでも下町の食堂程度なら今持っているお金で十分賄えると考えていたが、スレッドの注文の量は予想外だった。
払えないことは無いが、これからのことを考えるとあまり豪勢にも出来ない。ついつい懐の財布の中身を確認してしまった。
「…………注文し直そうか?」
「い、いや。大丈夫だ!!」
財布の中身を確認する姿に申し訳なくなり、スレッドは注文をし直そうかと提案する。さすがに心配になってきた。
だが、男は自分の胸を右手で叩き、大丈夫だとアピールする。
「まずは自己紹介をするとしよう。私はジョアン」
目の前の男、ジョアンは笑顔で自己紹介を始めた。灰色の髪に碧眼、身なりのいい服を着て、振る舞いから何処かの貴族のように見える。
「スレッドだ。こいつはライア」
「ガウ!!」
「ミズハだ。よろしく」
「ブレア」
自己紹介が終わると同時に料理が運ばれてきた。その量は一人では持ち切れず、ウェイトレス二人で運んでいる。
話は食事が終わってからとなり、四人と一匹は食事を開始した。
「それで、お願い事とは?」
大量の料理を腹に納め、それでも腹八分目なスレッドが話を進める。まだまだ食べられるが、さすがにこれ以上は苦しいというジョアンがストップを掛けた。
ジョアンは歩いている店員に飲み物を注文してから前を向いた。
「……ある遺跡からお宝を取ってくる手伝いをして欲しいんだ」
「どんなお宝?」
「それは……すまないが言えない」
目的の物が何か言えないというジョアン。申し訳なさそうな顔をしているが、それだけで信用できるわけがない。
仮にそのお宝が国宝などであった場合、スレッド達は犯罪者として追われることになる。
お宝の詳細を知らせないなど、信用が出来ない。
「内容を把握できないようなクエストを受けることは出来ない。他を当たってくれ」
「待ってくれ!! …………分かった。全てを話すよ」
話は終わりだとばかりに席と立つスレッド。ジョアンは慌てて呼びとめた。
しばらく悩んだ末にジョアンは真実を語り出した。
「私はジョアン・ド・バルゼンド。この国の皇太子です」
ジョアンの身分に言葉を失う三人。それなりの地位にあるものだと思っていたが、まさか皇太子だとは思ってもみなかった。
確かに身なりを見れば、納得できない話ではない。
「……それを証明するものは?」
「うっ、その……私の顔じゃ駄目かい?」
「俺は皇子の顔など知らないな」
納得できない話ではないが、それで信用できるわけではない。証拠が無ければ皇子であるとは言えない。
突っ込みを入れるスレッドにジョアンは戸惑ってしまう。どうしたものかと考えている時、意外な人物が助け船を出してきた。
「スレッド、彼は本当にこの国の皇子だ」
「どうしてそう言えるんだ、ミズハ」
「……昔、顔を見たことがあってね。面影が確かにあるよ」
助け船を出したミズハは、少し言いよどんだものの、しっかりと彼がバルゼンド帝国の皇太子であることを確信していた。
どこか不思議に思いながらも、スレッドはミズハの言葉を信じ、話を聞くことにした。
「これから話すことは内密にお願いする」
声の音量を小さくしてジョアンは話し始めた。
「現在バルゼンド帝国では後継者争いが行なわれています。現皇帝の息子である私と私の異母弟を擁立している宰相で次の皇帝を争っています」
ジョアンが言うには、現在皇帝が病で倒れ、もう先が長くない。それなのに次期皇帝が決まっていない。そこで立ち上がったのが帝国のブッシャル宰相である。彼はジョアンの腹違いの弟を使い、権力を握ろうとした。そして彼は他国への侵略まで考えていた。
「宰相の好きにはさせない。本当は皇帝などなりたくない……でも、この国が好きなんだ。私はこの国を守りたい」
照れながら、それでいて真摯に語った。国を憂うその姿は好意に値する。
「その為にはどうしても『皇帝の証』が必要なんだ」
「『皇帝の証』?」
「帝国直轄の遺跡に安置されている、皇帝であることを示すものだ。それがさっき言ったお宝だ」
『皇帝の証』――――バルゼンド帝国の皇帝のみが所有することのできる証。だが、その姿形は皇帝以外知らない。なぜなら証が安置されている遺跡には数多くの罠が設置されており、皇帝しかその罠の場所を知らない。下手に入り込めば、罠にかかって死を逃れることが出来ない。
「父上が病で倒れ、罠の場所を聞くことが出来ない。だからこそ実力ある冒険者を探していたのです」
「どうして俺達を? 俺達は今日ここに着いたばかりだ。実力があるかどうか分からないが?」
スレッド達がバルゼンド帝国に到着したのは数時間前だ。ここでの仕事はしていないし、ギルドがスレッド達の情報を簡単に売るわけがない。相手の情報を簡単に渡すようではギルドの信用が落ちてしまう。
それほど危険な場所を探検するのなら、高ランクの冒険者を雇った方がいい。
「市場で泥棒を顎に攻撃を加え、気絶させた技。どう見ても実力ある冒険者にしか見えなかったよ」
「!? あれが見えたのか」
ジョアンはお世辞にも戦いに精通しているとは思えない体つきをしている。どちらかといえば芸術家が似合いそうだ。
そんな彼にスレッドの拳圧が見えたとは考えられなかったのだ。
「私の目は特別でね。まあ私の運動神経は人並み以下だけどね」
自分の眼を示しながら、愛想笑いを浮かべて自身の欠点を告げる。
「本来ならギルドを通すべきだろう。だが、ギルドを通せば宰相に私の動きがばれてしまう」
机に手を置き、頭を下げる。
「頼む。私を助けてくれないか?」