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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第二章「バルゼンド帝国」編
24/202

第二十ニ話「バルゼンド帝国」


「ここがバルゼンド帝国か……」


 目の前に見える街並みを眺めながら呟く。

 辺りをキョロキョロしながら感動しているスレッド、露店の古本に吸い寄せられていくブレアを見ながら、ミズハは笑みを浮かべる。なんとなく二人のお母さんになったような気分だ。

 スレッドの横ではライアが露店の食べ物に鼻息を荒くしていた。




 バルゼンド帝国。アーセル王国の北方に位置する大国。他国に比べて土壌が悪く、土地の生産力が低かった。その為、他国の土地を侵略していった歴史がある。現在では他国との停戦協定を結んでいるが、一部の権力者は今でも他国への侵略を考えている。




 そんなバルゼンド帝国になぜスレッド達がやってきているのか。


 事の起こりは二週間前に遡る。






 魔物の襲撃から数日後、新たな仲間を加えたスレッドとミズハは新たなクエストを受注するためギルドを訪れていた。


「さて、どうするか?」


 眺めている掲示板には多くのクエストが張り出されている。


「スレッドはまだまだ経験不足。もっと基本を学ぶべき」


「そうだな。もう少し下位のクエストをこなしてからランクBのクエストを受注するのが良いだろう」


 二人に忠告され、頷きながら隣の掲示板に移動していく。


 そこに張ってあるクエストの一つに目を向けた。そこにはバルゼンド帝国までの荷物運びのクエストが貼ってあった。






「確かに受け取りました。こちらが報酬になります」


「ありがとう」


 ギルドの受付で預かっていた木箱を渡し、報酬を受け取った。


 道中は乗り合いの馬車を使い、現れる魔物を退治する代わりに割安にしてもらった。しかし、クエストとしても比較的難易度が低く、馬車の分を差し引くと僅かばかりの黒字にしかならなかった。


 それでもクエストを達成した満足感を得ながらギルドを後にする。


「これからどうする?」


 クエストも終わり、この後の予定もない。モルゼンの宿屋には仕事で帝国に行くことは伝えており、直ぐに戻らければならない理由もない。


「……さっき通った市場、少し見ていってもいいか?」


「……露店希望」


 頭を掻き、少々照れながらスレッドが提案し、ブレアが無表情で露店に寄ることを提案する。


「ああ、構わないよ」


 そんな対照的な二人に苦笑しながらミズハは首を縦に振った。


「ワウ、ワウ!!」


「勿論、ライアの食事もな」


 俺も俺もとミズハに懇願するライアを撫でながら、スレッド達は市場へと向かっていった。






「おおー!! ここが市場か!!」


 人々で賑わう大通り。両脇には多くの露店が立ち並び、様々な声が飛び交っている。客を呼び込む者、その呼び込みに誘われて商品を眺める者。様々な人間が溢れていた。


 並んでいる商品を次々と眺め、店主に商品についての説明を聞いているスレッド。その後ろを二人がついていく。

 ライアはというと、市場に着いた途端にスレッドに肉を要求する。スレッドは苦笑しながらも肉を与え、ライアは齧りながら大人しくついてきていた。


「子供みたい」


「人里離れた山の上で生活していたらしいからな。市場自体が珍しいんだろう」


「……あの伝説の孫には見えない」


 子どものように眼をキラキラさせながら商品を見ているスレッドに、露店で購入した古本を見ながらブレアは信じられないものを見るかのようだった。


 道中仲間である二人に、スレッドは自分の秘密を打ち明けた。フォルス・T・バーストバインドが育ての親であること。合体紋章のこと。


 話を聞いた二人は驚いていたが、口外はせず秘密にしてくれることになった。


 ちなみにブレアは話が終わってから数時間、合体紋章に関する質問をしていたが、


「どうやったら出来るの?」


「うーん……こうして、こう?」


 感覚で会得したスレッドの答えに、ブレアは納得のいかないものを感じていた。それでもなんとか理解しようと今でもスレッドから解説を受けている。


「ブレアはフォルスという冒険者を知っていたんだな」


「紋章術師の間では有名人」


 ミズハ自身、フォルスの名を知らなかった。過去の有名な冒険者に関しては幾人も知ってはいるが、スレッドの育ての親であるフォルスの名前は聞いたこともなかった。


 対してブレアはフォルスの名前を聞いて、非常に驚いていた。

 紋章術師にとって、合体紋章は最終目標だ。合体紋章を提唱したフォルスの名前についても当然知っている。また、紋章術師は研究者としての側面を持っている者が多く、様々な分野の知識を有していたフォルスを尊敬している者は多い。


 そんな会話が行なわれているなど全く気付いていないスレッドは、露店の机の上に視線を向けた。


「おっさん、これは何だ?」


「おう、こいつはブレシアドードルって果実だ。標高の高い所でしか自生しなくて、珍しい果物だぜ」


 真っ赤な棘のついた丸い果実が机の上に並んでいる。見た目はかなり固そうだ。一つ手に取り、しげしげと眺めてみる。


 ブレシアドードルは標高千メートル以上の場所にしか自生しない果物である。その為入手が難しく、入荷数もそれほど多くない。

 だが、その分味は絶品で貴族なども好んで食べる者がいるほどだ。


「美味いのか?」


「勿論さ!! 買ってくかい?」


「そうだな。四つ貰えるか?」


「あいよ!!」


 小太りの店主は水に漬していたブレシアドードルを四つ取り出し、外側の棘を包丁で取り除いていく。

 ブレシアドードルは外側の棘が非常に硬く、そのままでは刃物が通らない。その為塩水に一晩漬け、外側を柔らかくしなければ食べられない。更に塩水に付けることで中の果実が甘くなる効果もある。


「四つで銅貨10枚だ」


 腰の袋から銅貨10枚を払い、四つのうちの二つをミズハとブレアに放り投げる。二人が受け取ったのを確認してからブレシアドードルに齧り付く。残りの一つはライアが肉を食べ終わるまで待つことにした。


「どうだ? 美味いだろう!!」


「ああ、甘くて美味いよ」


 豪快に笑う店主に礼を言い、立ち去ろうとした瞬間、




「泥棒だ!! 誰か捕まえてくれーー!!」




 聞こえてきた方向を振り向いてみると、怒り顔で助けを求める店主と盗んだ商品を両手一杯に抱えた薄汚れた男が追いかけっこをしていた。


「どけどけーー!!」


 必死で逃げてくる男に道を歩いている人々は避けていく。

 誰も止めようとしない。いや、止められない。それほどに男の必死な表情に慄いていた。更に男は腰にナイフを差しており、下手に取り押さえようとすれば自分が怪我をしてしまう。


 誰も自分を犠牲にして犯罪者に立ち向かおうとしない。


「…………」


 それを見ていたスレッドは、果実を齧りながら右の拳を握りしめる。しっかりと男の動きを確認する。


 男がスレッドの横を通り過ぎていく。


 ヒュン!!


「どけど……!!」


 通り過ぎようとした瞬間、突然男は倒れ込んだ。


 いきなり男が倒れたことに誰もが戸惑うが、すぐさま男が抑えられた。危険が無くなったことで周りの男達が泥棒にのしかかる。そして身動きのできない泥棒を縛り上げていく。


 泥棒が捕まったことを確認して、スレッドはその場を離れようとする。ミズハ達もそれに気付いて慌てて追いかける。


「いいのか、名乗り出なくて?」


「目立ちたくないからね。別に構わないさ」


 騒ぎの中心から立ち去っていく。


 男が通り過ぎる瞬間、スレッドは誰にも気付かれないように拳圧を飛ばした。拳圧は男の顎に当たり、脳を揺らされて気絶した。

 だが、拳圧はただの空気だったため誰も見ることができなかったのだ。


 この騒ぎではゆっくり市場を見て回ることはできない。スレッド達は通りを離れていった。


 その後姿を影から見ている一人の男もスレッド達の後をつけていった。



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