第二十一話「三人目の仲間」
「お疲れ様」
「乾杯」
「ワウ!!」
ギルドから宿に戻り、食事を取るスレッドとミズハ。机の上には今までで一番豪勢な食事が並んでいた。今回はリーネの好意で、いつもの料金でいつも以上の料理が提供された。
並々注がれたお酒で乾杯を交わす。
ライアにも大量の肉と少量の酒が与えられている。スレッドとミズハが乾杯した後、勢いよく食べ始めた。
氣獣であるライアは、普通に食事でエネルギーを得る。加工された食事からは氣を補充できないが、生きている魔物を生で食べることで氣を補充する。
目の前の食事では氣の補充は出来ないが、気分的な問題で食事をしている。食費が掛かるとスレッドは少しだけ嘆いていたが。
食堂には二人以外の冒険者達が騒いでいる。
無事に街を守ることが出来て、更に多くは無いが、報奨金も手に入れた。彼らも飲まずにはいられなかったのだ。
あちらこちらで乾杯の声が上がっていた。
「それにしても、スレッドの育ての親がそんな凄い人物だったとは驚きだよ」
「俺にしても、爺さんがそこまでの有名人だとは思ってもみなかったさ」
宿に戻ってから、食事が来るまでの時間を利用し、スレッドはミズハにフォルスの事や合体紋章に関して説明した。
リカルドから聞いた事実なども含めて、拾われてからこれまでのことを語った。
さすがに驚いていたが、合体紋章のことを考えると迂闊に誰かに話すのも問題であることを理解し、ミズハは黙っていたことについては追及しなかった。
「ランクBか……」
「本当ならもう少しじっくり冒険者としての経験を積むべきだろうが、仕方ないさ。スレッドの実力ならやっていけるよ」
実感のないままランクBになってしまった。
クエスト達成数回。それなのにランクがBでいいのだろうかという思いがあると同時に、手っ取り早くランクが上がったことは純粋に嬉しくもある。
通常FからBに昇格する場合、人によっては数年かかることもざらである。
だが、ミズハとしては共に同じランクとなり、対等にやっていけるのは嬉しい。それにスレッドにはそれだけの実力があることも分かっている。
「冒険者の仕事はこれからでも学んでいける。分からなければ私に聞けばいい」
「……そうだな」
ミズハの言葉に笑顔で応える。いまいち納得いかないものが自分の中にあったが、まあいいか、と自分の中で完結させた。
二人は話を中断して、食事を進めることにした。
机の上にある料理がどんどん消えていく。更に注文をしているところに、一人の女性が近づいてきた。
「見つけた」
「ブレア?」
話しかけてきたのは、先日共に戦ったブレアだった。先日と同じような無表情で挨拶を交わす。
スレッドも気付いていたが、食事に夢中で言葉を発する余裕がなかった。
「久しぶり」
そんなスレッドに様子を気にすることなく、片手を上げて挨拶する。おちゃらけた様な行動が無表情とのギャップを感じさせる。
ミズハはそんなブレアに苦笑しながら席を進める。ブレアは礼を言いつつ、席に座る。
注文を取りに来たリーネにスレッドと同じものを注文する。スレッドと同じ量は無理じゃないかと尋ねるが、大丈夫だとブレアは胸を張る。
その仕草に苦笑しながら、リーネは厨房に消えていった。
「ブレア・フェンテス。よろしく」
「スレッド・T・フェスルターだ」
「ミズハ・カグラ。よろしくな」
自己紹介して、握手を交わす。
戦場では名前だけで、ゆっくり話をしている暇などなかった。ここでようやく互いの名前を知った。
「ガウ!!」
自分を紹介しろとでも言うように、スレッドに向かってライアが吠えた。
「悪い、悪い。ブレア、前に紹介したが、ライアだ」
「よろしくガウ」
微かに笑みを浮かべたブレアが、語尾をアレンジしながらライアに挨拶する。ブレアは嬉しそうにライアの毛を撫でている。
食事を終え、ランクやパーティを組んだ過程など話し、これからの事に話が移っていった。
ちなみにスレッドの合体紋章に関しては、内密にというスレッドの希望を汲み取った。
「これから? そうだな……とりあえず、もう少し幾つかクエストをこなしてみたいな」
「そうだった。ランクがDだった」
ランクがDだったことを思い出し、ブレアはポンっと手を叩き、信じられないものを見るかのようにスレッドを観察していた。
その後、冒険者として登録したのが最近だと言うことを聞き、状況を理解して納得した。
「リーダーはスレッドだからな。私はスレッドに従うよ」
「いつの間に俺がリーダーになってたんだ?」
楽しそうに話す二人に、ブレアは決意を持ってある願いを口にする。
「私もパーティに入れてほしい」
ブレアの申し出に顔を見合わせる。突然のことに驚きが隠せない。
「……理由を聞かせてくれ」
ミズハがパーティを組もうと言ったときに聞いた質問をする。
別に拒むつもりはない。だが、ミズハと同じように知り合って間もない。それなのにパーティに入れてほしい理由が分からない。
「……スレッドに興味が生まれた」
「俺?」
「紋章術としての最終到着点、合体紋章は興味深い。それが使えるスレッドは大変魅力的」
紋章術師は誰もが合体紋章を目指している。
合体紋章の理論が提唱されて十数年。未だに研究が進められているが、誰一人成功していない。
そんな最終到達点に辿り着いたスレッドは、ブレアにしたら大変魅力的だ。出来ることなら、
「ぜひ解剖してみたい」
「…………そいつはご免こうむる」
理由としては少々個性的だが、ブレアは真面目に自分の思いを答えた。そこに嘘偽りは全くなかった。
「私は構わないよ、スレッド。君が決めてくれ」
決定権をスレッドに任せる。
実はミズハとブレアは戦いの後、少しだけ話をしていた。その時ブレアの人柄を知り、彼女が悪い人物ではないことを知っていた。少々変わっているとは思ったが。
「ワウ、ワウ!!」
静かに話を聞いていたライアも、賛成を表すように嬉しそうに吠える。旅の仲間が増えるのが嬉しい様だ。
「分かった。よろしくお願いするよ」
右手を差し出し、もう一度握手を求める。
ブレアは無表情でじっとスレッドの眼を見つめていたが、スレッドの言葉に良く見ないと分からないほどの喜びを浮かべていた。
それに気付いたスレッドとミズハは、微笑ましくブレアを見つめていた。
「はい、これは奢りだよ」
二人が握手しているところにお酒が三つ届けられる。
ミズハが注文し、新しい仲間が出来たことを知ったリーネが奢りでお酒を用意してくれたのだ。
リーネに礼を述べ、各々の手にコップが掲げられた。
「それじゃあ、新しい仲間を祝って……」
『乾杯!!』
「何だ、こりゃあ?」
「おい、手を止めんなよ」
スレッド達が酒場で乾杯している頃。
ギルドから派遣された職員と冒険者がスレッド達が倒した盗賊達のアジトを捜索していた。
スレッド達が退治した盗賊は賞金首であり、様々な村を襲ってきた。襲った村から金貨や食料を奪い、楽しんでいた。
盗賊のアジトには奪った金貨や食料が保管されており、スレッド達から連絡を受けたギルドはそれを押収する為に職員を派遣していた。
だが、森の奥にアジトがある為、冒険者を護衛として付き添わせていた。
アジトについた職員と冒険者はそこにあるものを全て一旦ギルドに運び出し、そこで検品することにした。
そして、そこで彼らが見た物は、粉々に破壊された石像の姿だった。
「どうするです、これ?」
「破壊されてしまったものはしょうがありません。放っておいて結構です」
「了解」
そう言って、手を止めていた冒険者は運搬作業に取り掛かった。全てが運び出され、洞窟内に残ったのは、破壊された石像の跡だけだった。
……第二章へ続く