第百九十六話
やっと、書けました。
ブレアの周辺から放たれた空気の弾丸は全て人形へと向かっていく。
「……………………」
逃げ場のない弾丸の嵐が迫る中、人形は慌てることなく魔女の眼で対処をしようと試みる。たとえどれだけの数が迫ろうとも、直撃する可能性のある弾丸だけを消してしまえばいい。
感情が無いが故に効率的に対処しようとしていた。しかし、それは不正解だった。
「!?」
直撃することない弾丸同士が空中で衝突し、空間を歪め、衝撃波を発生させる。計算された様に生み出された衝撃波は人形を襲う。
「無駄。そこからは逃げられない」
衝撃波が人形の身体を破壊していくのをどうにか回避しようと人形は移動しようとする。魔女の眼によって衝撃波の位置は理解できているのだ。回避できないわけがない。
しかし、衝撃波から逃れることはできなかった。
綿密に計算されたブレアの攻撃は、たとえ場所を移動しようと人形のある一点を攻撃し続けた。そして、それは姿を現した。
「ライア!!」
「ガウ!!」
衝撃波によって人形の体内から黒い塊が露出した。それこそがブレアが衝撃波によって露わにさせた人形にとっての心臓、人形を動かしている核である。
その核が見えた瞬間、ブレアは隣で構えていたライアに合図を送り、合図と共にライアは瞬時に人形へと間合いを詰めた。
そして、ライアは人形の核をいとも簡単に牙で掴み、人形の背後へと降り立った。
「……………………」
核を奪われた人形は何も語らず、しかし、行動で自身の感情を物語った。
自身の胸にぽっかりと空いた穴を確認し、ライアの牙に自分の核が挟まれていることを確認する。そして、まるで取り戻そうとするかの如く右手をライアの方へと伸ばした。
パキィン!!
返せと言わんばかりの行動に目もくれず、ライアは一瞬で人形の核を噛み砕いた。核は乾いた音と共に簡単に破壊され、粉々になって床に散らばった。
「……………………」
核を破壊され、人形の身体は徐々に崩れ落ちていく。先ほどまでの再生力は完全に失い、形を留めておくことさえできない。
「グッジョブ、ライア」
「ガウ♪」
無事に勝利したことをライアの頭を撫でて喜ぶ。だが、いつまでも喜んでいるわけにはいかない。
もう一体の人形と戦っているミズハの方へ視線を向けると、間もなく勝敗が決しようとしていた。
「はあっ!!」
「……………………」
ミズハは人形が振るう大剣を回避し、人形が生み出す炎を打ち消しながら刀を振るう。
人形の攻撃はミズハに当たることはない。たとえ疲れを知らずに攻撃を繰り返すことができるとはいえ、剣の扱いは素人だ。
幼い頃から剣術を学んでいるミズハにとって回避する事など容易い。
《じゃが、このままではジリ貧じゃな》
「ああ、分かってる」
人形の攻撃を回避しながら、ミズハと白夜は現状を確認する。
このままではジリ貧だ。負けることはないにしても、勝つことも難しい。無限と思えるほどの再生能力を攻略しなければならない。
「やはり、核をどうにかしないと…………」
回避と同時に刀を振るう。人形の身体を傷つけることは可能だが、すぐに傷は塞がってしまう。
こうなってしまっては、人形の核を破壊するしかない。その為には今の攻撃力では核を破壊するなど不可能だ。
(なら、アレを成功させるしかない)
「…………白夜、アレを行なう」
《!? しかし、アレはまだ一度も成功しておらんぞ!!》
「切り札を切る前に勝てなければ意味がない」
《……………………仕方ない。主がそう決めたなら、妾は従うのみじゃ》
ミズハの決意を感じ取った白夜は、微笑を浮かべながら同意する。
すぐさまミズハは行動を開始した。人形の攻撃を回避しながら左手に劉炎宝刀を創り出した。
「……………………」
常に動きながらも、ミズハは心を静かに落ち着かせ、ゆっくりと炎の力を身体の中で練成させていく。
キィン!! キィン!!
ミズハの集中をサポートするために、白夜は尻尾を振って人形の攻撃を弾く。
尻尾の一撃一撃は軽い。しかし、大剣の一振りに対して何度も尻尾を振れば大剣の軌道を変化させることは容易い。
更に力の練成を補助し、力の僅かな乱れを整えていく。
「はっ!!」
力の流れが整ったことを確認し、ミズハは右手の刀と左手の劉炎宝刀を重ね合わせた。その瞬間、二つの力がミズハの両手の中で反発し合う。
「ぐっ!!」
それでもミズハはどうにか力を合成させようと集中する。少しでも力を抜けば、刀が吹き飛ぶどころか両腕を吹き飛ばしてしまうだろう。
(これからどうしたらいいんだ、スレッド!!)
力の流れを操作しながら、ミズハは以前スレッドから貰ったアドバイスについて思い出していた。
「合体紋章のコツ?」
「ああ、どうやって合成してるんだ?」
魔王領へと向かう数日前、各々が準備している頃ミズハはスレッドを尋ねた。目的は反発し合う力の合成方法を教えてもらう為だ。
これからの戦いにおいて切り札は幾つあっても足りない。白夜とも相談を行ない、一つの技を思いついた。
その技はスレッドの合体紋章に似た性質のもので、以前から挑戦しているが一度も成功していない。
「まずは紋章を用意し…………」
「うんうん」
「紋章を強引に重ね合わせる!!」
パン!!
瞬時に合体紋章が発動し、スレッドの全身に力が覆われる。
「…………すまない。コツは何かないのか?」
「うーん…………反発し合うところにグッと押しこみ、ギュッと纏める感じだ」
「……………………」
その後も幾つかのアドバイスを貰ったが、結局良く分からずに終わってしまった。
(反発したところで、グッと押しこむ!!)
二つの力が反発し合う瞬間に力を込め、腕に力でグッと抑え込む。
(抑え込んだ力を、ギュッと纏める!!)
力の流れを操作して、思いっきり強引に力を纏めてみる。すると、ミズハの中で何かがカチっと嵌まる様な感じがした。
ゴオォ!!
刀の刀身が紅く染まり、一気に噴き出した炎が静かに揺らいでいく。先ほどまでと見た目の変化は少ないが、周囲に伝わる熱量は違っていた。
「……………………」
そんなことは関係なく、人形は上段から大剣を振り下ろす。重量と引力によって大剣はスピードを増し、大剣は一気にミズハへと迫る。
ゴン!!
「……………………?」
しかし、大剣はミズハに直撃することなく、大剣の一部がミズハの後ろに落ちた。人形は大剣に変化を感じ、手に持った大剣を観察する。
すると、大剣は真ん中から真っ二つに折れ、切断された面は黒く焦げ付いていた。
「終わりだ」
ヒュン!!
ミズハが言葉を紡いだ瞬間、人形の目の前からミズハの姿が消えた。そして、次の瞬間には人形の背後にミズハが現れた。
「!?」
人形の身体に線が現れる。線は徐々に熱を帯び始め、人形の身体を焼いていく。
これまでなら身体が焼かれようが、切断されようが再生した。核が無事ならば人形が倒れることはなかった。
だが、今回はこれまでとは違った。傷口から炎が噴き出し、噴き出した炎が更に傷口に入り込み、身体の中を炎が駆け巡る。
「……………………」
炎は人形の中の核へと到達し、核と身体を丸ごと焼きつくした。人形は声もなく崩れ落ちていった。
大変お待たせしておりました。
どうにか書き上げることが出来ました。
一応次の話も頭の中にはありますので、
今回よりは多少早く更新できると思います。
とりあえず近況は活動報告でそのうち報告します。