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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第一章「アーセル王国」編
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第十八話「キングラードル」

 それは、悠然とそこにあった。


「キング、ラードル……」


 魔物としては大型であるレッドラードルよりも巨大で、全身を覆う金毛は見る人を惹きつける。



 キングラードル――――レッドラードルの主や亜種であると考えられているが、はっきりしたことは分かっていない。その理由として個体数が絶対的に少ないことが挙げられる。凄まじい攻撃力に堅い防御力。ギルドランクSSの冒険者であっても勝てるかどうか分からないと言われている。


 まさに『歩く災厄』と呼ばれる相応しい風貌である。



「っ!?」


 見惚れて動けないところにキングラードルの腕が振り落とされた。どうやらいつの間にか近づいてきていたようだ。腕はスレッドに直撃し、後方へと吹き飛ばされた。


「スレッド!!」


 スレッドは外壁に激突し、呻き声を上げる。

 腕を交差させ、多少はダメージが軽減されたが、それでも多大なダメージがスレッドを襲った。受け身を取ることも出来ず、直ぐには動けないような状態である。


「ガウ!!」


 主人が攻撃を受け、ライアがキングラードルに攻撃を行なう。背後から飛びかかり、牙を立てる。そしてそのまま紋章術を零距離で発動させる。


「――――!?」


 背中の衝撃に一瞬動きを止めるものの、ダメージは殆ど与えられない。


 キングラードルは巨体を捻り、ライアを振りほどく。小柄なライアは勢いのまま地面に叩きつけられた。


「――――!!」


「ミズハ!!」


「ちっ!!」


 次はミズハに向けて腕が振り落とされた。重力に従って降りてくる腕のスピードは、レッドラードルの比ではなかった。

 すぐさまブレアを抱えて横へと回避する。動きが鈍いライアも気力を振り絞ってその場から飛び退く。


 ズドン!!


 岩の様な腕が地面を抉る。そこにはクレーターの様な大きな穴が出来ていた。


「凄まじい威力だな」


 先ほどまで二人がいた場所が破壊され、冷や汗を流す。あのままその場にいれば、全員地面に潰されていただろう。


「……ブレアは避難してくれ」


 立ちあがり、ふらつきながらも刀を構える。その切っ先は微かに震えていた。


「ミズハは……?」


「私は残って時間稼ぎだ。スレッドを、仲間を置いてはいけないからな」


 ちらりと後ろを見る。そこは埃が舞って見えないが、立ち上がろうとしているスレッドがいることを確信している。

 ミズハの横では、ライアがボロボロながらもキングラードルに立ち向かおうとしている。


 このまま戦ったところで勝てるはずがない。スレッドの様な力も、ライアの様なスピードも、ブレアの様な紋章術も持っていない。

 可能性のある奥の手はある。あるにはあるが、奥の手を使用するにも今の身体の状態と隙のない状況では発揮するのが難しい。


 それでも仲間を置いて逃げることなど出来る筈がない。


「…………」


 そんなミズハの姿を見て、ブレアも覚悟を決めた。

 空中に紋章を展開させ、待機状態でキングラードルを見つめている。


「一人じゃ危険…………だから、助ける」


「ブレア……」


「冒険者としては当たり前」


 頷き合い、最悪の戦いに臨もうとしていた。二人ともに意識を集中し、奥の手を披露しようとした瞬間だった。




「まったく。勇気と無謀を履き違えてるぞ」




 聞こえてきた声のする方を向くと、そこには呆れた様な表情で二人に近づくスレッドの姿があった。


「スレッド!! 大丈夫か?」


「所々痛いが、一人休むわけにはいかないからな」


「よかった」


 腕を回し、ダメージのチェックをするスレッドを見て二人は安心するとともに呆れてしまう。

 クレーターをつくるほどの攻撃。死んではいないと思っていたが、直後に動けるとは思っていなかった。


「戦線復帰したばかりで悪いが、どうする?」


 本当ならば、ダメージを負ったスレッドを休ませてやりたい。

 だが、そんな余裕はここには無い。全員で戦ったところで倒せる可能性は少ない。


 だからこそ、一番の戦力であるスレッドの意見を聞く。


「…………仕方がないか」


 どうするべきか。それを考えた時、答えは一つしかなかった。諦めたように頷き、一歩前に出る。


「悪いが、これから行なうことは内緒にしておいてもらえるか?」


 キングラードルを警戒しながら、二人の目を見て頼みごとをする。

 その真剣な表情に最初は戸惑うが、二人はそれを受け入れた。


「ああ。何をするか知らないが、スレッドに任せるよ」


「ん、分かった」


「ライア、二人の護りを任せた」


「ガウ!!」


 ミズハとブレアを下がらせて、更に一歩前に出る。ライアに二人の護りを任せ、ライアも期待にこたえる様に周りのレッドラードルを警戒する。


 両の手の平に手甲に刻まれた紋章を展開させる。右に雷、左の身体強化の紋章を持ち、胸の前で紋章を重ねる。


 バチ、バチ!!


 紋章は反発し、弾く様な音が辺りに響く。重ねられた紋章の反発を抑えつけながら、合掌する。


 パン!!




 次の瞬間、スレッドの身体は雷を纏っていた。




 身体の周りをエネルギーが包み、スレッドからの威圧感が増した。その周りを雷が飛び交い、雷がスレッドの髪の毛を逆立たせる。


合体紋章ユニオンスペル……」


 その姿を見ていたブレアは今までの涼しげな表情が一転し、これでもかというぐらい驚いていた。まるで幽霊でも見ているかのようだ。


「合体紋章? それは一体何なんだ?」


「……昔、一人の紋章術師が提唱した技法。異なる紋章を重ね合わせて、一つの紋章で二つの属性を兼ね備えた紋章をつくり出す。たったそれだけで威力が増大する」


「そんな便利な紋章があるのか? ブレアは使えないのか?」


 それだけ便利な紋章術ならば使わない手は無い。重ね合わせるだけで強力になるのだから。


 ブレアは首を横に振った。


「使えない。提唱した術者さえ扱えない欠陥技術って言われてる」


 合体紋章が提唱された頃、誰もが挑戦して、失敗した。時には失敗によって暴発し、死亡した者さえいるほどだ。それ故、誰にも使えない欠陥技術と揶揄されている。

 しかし、理論上は出来るはずなのだ。それ故、研究だけは各国で続けられている。


 準備の整ったスレッドは、不敵な笑みを浮かべながらキングラードルに向かって構えた。


「さあ、始めようか」


「――――――――!!」


 災厄と幻の戦いが今始まろうとしていた。



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