第百八十六話
前回もしかしたら前の話に付け足すかもと言いましたが、
やめることにしました。ですので、この話からお読みください。
「ヴィンセンテ!!」
ラファエーレが倒れていくと同時に、ヴィンセンテも後ろ向きに倒れていった。力を使い果たし、最早立っていることすらできないようだ。
ナディーネはどうにか這う様にしてヴィンセンテの元へ近づいていく。辺りには瓦礫が転がり移動するのも一苦労だが、気にしている暇は無かった。
ヴィンセンテの元に辿り着き、即座に診察を開始する。
(…………身体のあちこちの組織が破壊してる。それに、氣の流れが滅茶苦茶。このままじゃマズイ!!)
慌ててナディーネは道具袋から目的の物を探し始めた。しかし、慌てているのか、なかなか見つからない。
「あった!!」
道具袋の奥の方に栄養剤と似たような小瓶を発見する。小瓶には液体が入っており、その色は青紫色をしている。どう見ても、飲めるとは思えない色だ。
しかし、これはれっきとした治療用の薬だ。ナディーネはこの様な自体も想定して、魔王領侵攻前にブレアと共に開発した。
「これは?」
「私が調合した栄養剤…………なんだけど、ちょっと問題が、ね」
魔王領侵攻の準備を行なう中、ナディーネは自身が調合した栄養剤について悩んでいた。
魔族との戦いに向け、ヴィンセンテは力不足を感じていた。以前下級の魔族と戦ったが、全く歯が立たなかった。
以前よりは力をつけたつもりだが、それでも不安が残る。
そんなヴィンセンテの不安を知り、ナディーネは一時的にでも魔族に対抗する力を得られないかと考え、栄養剤を調合した。
調合した栄養剤は服用した者の力を引き出すことに成功した。だが、その代わりに身体へのダメージも大きい。
このままでは使用するのは危険だ。
そこで、ナディーネは調合した栄養剤と調合表を持って、ブレアに相談へ来ていた。
「今度の戦いには絶対に必要になると思う。だけど、私の力だけじゃ難しい」
「……………………」
「だから、ブレアの知識を貸してほしいの」
渡された調合表を確認するブレアに協力を要請する。ブレアは調合表を隅から隅まで確認し、顔を上げた。
「確かにこれじゃあ、使用するには危険。クレステを使い過ぎ」
「でも、グレステが無いと効果が期待できないの」
「なら、ブレモの実を混ぜてみるのは?」
調合表の成分を指さしながら、ブレアとナディーネは調合を変えていく。その内部屋に材料を持ち寄り、その場で調合しながら実験する。
しかし、なかなか上手くいかない。副作用を抑えること、力を引き出すこと、両方を兼ね備えるのは今ある材料では不可能に近い。
「…………発想の転換」
そう言ってブレアは机の上の材料を確認し、ペンを持って髪に調合表を作成し始めた。ナディーネはそんなブレアを邪魔しないよう静かに待っていた。
調合表が完成したブレアは必要な材料を手に取り、調合を開始する。次々と分量を量りながら混ぜていき、混ぜ合わせた材料に向けて手をかざす。
「…………出来た」
手をかざした材料の上で紋章が展開され、材料が反応していく。紋章の光が納まると、中には青紫の液体が出来上がった。
出来上がった液体を少しだけ舐め、ブレアは舌に感じる味に顔をしかめる。
「どんな感じ?」
ちょっと躊躇しながらも、ナディーネも液体を舐め、顔をしかめる。
「副作用は抑えられない。なら、使用後に回復させるしかない」
ブレアが言うには、これ以上は副作用を抑えられない。材料の質を落としては、薬として意味が無い。
それならば、使用した者を回復させるための薬を作成し、もしもに備えるべきだ。
青紫の薬は活性化させた身体を鎮静化させ、辺りに散らばる魔素を吸収する。吸収した魔力を体内でエネルギーに変換し、自然治癒力だけを極限まで高める。その代わりに、服用後数日間はまともな戦闘は出来ないだろう。
「絶対助かるとは言えない。それでも――――試してみる価値はある」
こうして作成された薬は、試験することが出来ないままナディーネの道具袋に眠っていた。
「…………」
ヴィンセンテの容態を確認しながら、ナディーネはどうするべきか決めかねていた。
薬の調合は完璧だ。ギルドに依頼して最高級の材料を用意させ、ナディーネとブレアが時間を掛けて調合したのだ。効能には自信がある。
だが、栄養剤を飲んだ者に飲ませたことは無い。現在のヴィンセンテに飲ませて本当に大丈夫なのか分からない。
「ええい、迷っててもしょうがない!!」
このままでもヴィンセンテは危険だ。なら、何もしないよりもマシだ。
ナディーネは小瓶をヴィンセンテの口元に持っていくが、ヴィンセンテに意識は無い。このままでは飲めない。
若干戸惑うナディーネだったが、勢いを付けて自身で小瓶の中身を含んだ。そして、そのままヴィンセンテの唇に自分の唇を重ねた。
「……………………」
口に含んだ薬をヴィンセンテへ飲ませる。全てを流し込み、唇を離す。ナディーネは辺りを見渡して、誰も見ていないことを確認する。その時のナディーネの顔はほんのりと赤くなっていた。
一瞬ボーっとするが、すぐに顔を横に振って我を取り戻す。
ヴィンセンテの容態を確認すると、すぐさま薬が効いていた。全身が輝き出し、辺りの魔素を吸収し、自然治癒力が極限まで高まる。傷が塞がっていき、氣の流れが正常に整っていく。
どうにか危険な状態は脱したようだ。
「…………まさか、人間に負けるとはな。皮肉な、ものだ」
「へえ、アレを受けてまだ生きてるのね」
弱々しくもしっかりとした声で呟くラファエーレ。ヴィンセンテの無事を確認したナディーネは身体に力を入れて、ラファエーレの傍に立つ。しっかりと右手には銃が握られており、銃口はラファエーレの心臓に向けられている。
「最後の言葉位聞いてあげるわ」
「ふん、敗者が語ることなどない」
「そう。それじゃあさっさと逝きなさい」
ドン!!
1発の銃弾が心臓を貫き、銃弾に刻まれた紋章がラファエーレの魔を浄化していく。身体が崩壊していき、後に残ったのはラファエーレの骨だけだった。
…………まさかラファエーレとの戦いで
こんなに掛かるとは思ってもみませんでした(-_-;)
ヴィンセンテの回復は少しで終わらせるつもりが、
意外と掛かってしまいましたので、
この話でしっかりと終わらせることにしました。
今回話の中でちょっと迷ったところがありますので、
もしかしたら、付け足すかもしれませんが、
その際はどこかで告知します。