第百八十二話
大変お待たせしました!!
とりあえず完成したと言った感じですが
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
「…………魔族並みの魔力を持っているようだね」
目の前に現れた巨人を観察しながら、カロリーナはどのように攻略するかを考える。幾つもの策を瞬時に思い浮かべる。
巨人からは膨大な魔力を感じる。元々ある膂力に魔力による強化が加わり、下手な魔族よりも厄介な存在だ。
「上の奴の対策も取らなければならん」
対するカイザーは巨人が落ちてきた空間の亀裂を睨んでいる。そこには亀裂から巨人と共に現れたサイフェルの姿があった。
「久しぶりだな」
「まだ生きていたとは驚きだ、人間」
互いを睨みつけながら、久々の再開を果たしたカイザーとサイフェル。
その昔、二人は幾度となく戦っていた。冒険者として様々な遺跡を回っていたカイザーは、魔王復活の為に動いていたサイフェルと遭遇し、死闘を繰り広げた。
だが、最後まで決着はつかなかった。最後の戦いで大ダメージを負い、それ以降現在まで会うことは無かった。
「今回こそ貴様を殺す……………………と、言いたいところだが」
サイフェルは右手を振り、再び空間に亀裂が入る。その先には大量のゴーレムの姿が見える。
「貴様たちの相手は“アーノルド”だ」
『!?』
サイフェルが放った言葉に二人は一瞬動きを止める。その隙にサイフェルは亀裂の中に入っていった。
それに合わせて巨人が動き出す。
「人違いってことは…………」
「無いだろうな」
目の前の巨人・アーノルドを見つめる。二人の視線には憐みが含まれていた。
人間を裏切ったアーノルド。魔族に協力し、多くの人を殺してきた。この事実はギルドの一部の人間しか知らない。
アーノルドは魔族に味方して、支配された人間界の一部を手に入れようとしている。ギルドは幾つかの予測の中で一番可能性があると考えていた。
しかし、現実は甘くない。おそらくアーノルドは魔族に騙され、知能を無くした巨人に変えられてしまった。
裏切ったとはいえ、憐れに思えてくる。
「さっさと潰すわよ」
「即座に終わらせる」
だが、二人が憐れんだのは一瞬だ。すぐに戦闘準備に入る。
憐れみなど戦いでは不要な感情だ。確かにアーノルドは可哀想だが、そんなことで躊躇すれば、逆に二人とも全滅してしまう。
カロリーナは辺りに紋章を展開し、カイザーは一本の片手剣を構える。
周りは人間と魔物の戦いが激化している。さっさと終わらせて、周りの戦いに参加しなければならない。
全く気負うことなく、二人はアーノルドへ向かっていった。
空間の亀裂から現れたサイフェルを警戒する。目の前にはゴーレムやオークが迫り、先に進むのは難しそうだ。
「…………おい、スレッド」
「どうした?」
どうやってこれを切り抜けるかを考えているスレッドにブラッドが何かを考えてから話しかけた。
その間、二人とも目線をサイフェルから離すことは無い。
「ここは俺達が引き受けてやる。さっさと進んで、魔王を倒してこい」
「ッ!? …………分かった」
最初スレッドはブラッドの言葉に驚いたが、すぐさま了解した。
このまま全員で戦えば、魔王に辿り着くまでに体力が尽きてしまうかもしれない。そうなっては意味が無い。
また、亀裂の先に見えた光景から、サイフェルが何かを仕掛けたのは確かだ。時間を掛ければ掛けるほど危険な状況に陥る。
目の前の敵の量を相手するのは三人でも難しい。それでも魔王を倒すために、ブラッド達がここに残らなければならない。
「どうやって先に進む?」
「すり抜けるのは至難の業ですよ」
ミズハとミンティは上階への道を探すが、前方はゴーレムとオークによって道が塞がれている。強引に進もうにも、サイフェルがそう簡単に進ませるとは思えない。
「……………………」
どうするかを考えている中、ブレアはある一点を見つめていた。そこはゴーレムとオークが重なっていない個所、奥にある地面だ。
「どうした、ブレア?」
「…………スレッド、ミズハ。こっちに来て」
どうしたのかと思いながらも、真剣な表情で一点を見つめているブレアに何も言わずに近づいた。
「これからこの先に空間転移にする」
「…………そんなことが出来るのですか!?」
全員の驚きをシャンテが言葉にする。まさか空間転移なんて技が使えるとは思ってもみなかった。
ブレアがルーファから受け取った知識の中には空間転移についての知識もあった。だが、受け取った知識は不完全なものだった。
そのままでは使用できなかったが、ブレアは必ず必要になるだろうと考え、短い期間で短距離だが転移出来る様になった。
ブレアはシャンテの質問に応えることなく、杖を地面に突き立てた。杖が突き立てられた個所を中心に紋章が展開される。
次に魔女の眼を発動させ、視線の先に紋章を展開させる。
「させると思うか?」
ブレアが術を完成させるのをサイフェルが黙って見ているわけがない。右手をブレアに向け、幾つもの魔力の塊が弾丸のように飛んでいく。
向かってくる弾丸を意識することなく、マナを操作して二つの紋章をリンクさせた。紋章に魔力を通し、後は術を発動させるだけだ。
「そいつはこっちのセリフだ!!」
「絶対魔王を倒してください!!」
「こっちは任せてください~」
ブレアの術を邪魔されないようにブラッド達がサイフェルから放たれた弾丸を迎撃する。一つ一つの威力は強力だが、ブレアの邪魔はさせられない。
術が発動し始め、ブレアを中心に三人の周りに光の粒子が浮かび上がる。その三人へ向けてブラッド達からエールが送られる。
スレッドとミズハは彼らの言葉に拳を突き出して答える。そして、次の瞬間スレッド達の姿が消えた。
発動させた術はスレッド達を廊下の先、ゴーレムとオークの後ろへと移動させた。そして、振り返ることなく上階へ進んでいった。
「ふん、無駄だ。人間風情があの方を倒せるはずが無い」
「なら、そいつを覆してやるよ。てめえら全員ぶっ倒してな!!」
ゴーレムとオークに指示を出しながら、向かってくるサイフェルに対してブラッドは大剣を構えた。