第百七十九話「女神の翼」
一夜が明け、スレッド達は全ての準備を整え、魔王領との境界線にあるリュディオンの外壁の屋上へ集まった。
「…………そろそろみたいです」
女神ミストより授けられた卵をしっかりと持ちながら、セリナは太陽に掲げる様に両手を持ち上げた。
どうすれば卵が孵化するのかは分かっていない。ミストもあまり詳しいことは言っていなかった。
それでも、セリナには何となく卵が孵化する方法を理解していた。卵に必要なものは、静の光と動の光だ。
二つの相反する力を内包することにより卵は命を吹き返す。静の光は女神ミストの光である。静の光でゆっくりと卵に力を与える。
そして、動の光である太陽の光を当てることで静の光と反応し、急速に卵を孵化させる。
ピキ、ピキ。
卵に罅が入る。罅は全体に広がり、卵の奥から嘴が突き出した。卵の殻は全て地面に落ち、卵の中から水色の綺麗な鳥が現れた。
「こいつが、翼?」
鳥を覗きこむブラッド。その表情は怪訝そうだった。
「乗れるとは思えませんね」
その隣でシャンテもじっくりと鳥を観察していた。その鳥の大きさからいってとても人が乗れるとは思えない。
「騙されたとは思えないけどね。あの女神さんにそんな知恵はなさそうだ」
「カロリーナさん、ミスト様はそんな御方ではありませんよ」
どうしたものかと困っているカロリーナにセリナが言葉を窘める。さすがに神に仕えるものとしてカロリーナの発言は見過ごせない。
しかし、今は仲間同士で争っている場合ではない。これから魔王領へ向かうのだ。
「大丈夫です。この子はこれからです」
セリナがそういうと、セリナの中にある女神の力が鳥へと流れ込む。力の流れ込んだ鳥は輝き出し、大きく成長していく。
成長した鳥は大きく翼を広げ、スレッド達を見下ろした。
『よもや、再びこの世に生を受けようとはな』
頭に直接言葉が響く。透き通った様な男の声で、誰もが戸惑ってしまう。
「まさか、こいつか?」
この場にはスレッド達以外誰もいない。時刻は朝方で、仕事に向かう者もいないほどの時間帯だ。外壁の外から声が聞こえてくるわけがない。
ならば、答えは一つだ。
『我が名はファトゥルーゼ。女神の翼なり』
その昔、神の翼として天界で暮らしていたファトゥルーゼ。歴史の中で人間界に度々登場し、魔族との戦いなどで活躍してきた。
最後に人間界に現れたのは数百年前といわれており、アルサム達を乗せて魔王と戦ったのが最後といわれている。
その為、現在ではファトゥルーゼの存在を知っている者は極僅かだ。
「…………あまりゆっくりもしていられないようよ」
誰もがファトゥルーゼに驚いていたが、ナディーネだけは外壁の外側を見詰めていた。他の者もその視線の先を見つめると、そこには森が広がっており、その森の中から砂煙が立ち上っていた。
「どうやら奴らも本気なようだな」
ザックは砂煙の正体を確認し、すぐさま連絡石を使用してソルへと指示を出す。ギルド内で指示を受けたソルは、すぐさま召集を掛けていた冒険者へ出動を要請する。
砂煙の正体は、魔王領から襲いかかって来る魔物の群れだ。人間界と魔王領との境界には結界がまだ展開されているが、迫って来る魔物の数が結界にぶつかれば、結界もかなり弱くなってしまうだろう。
ならば、魔物を結界に近づく前に叩くしかない。
「こっちのことは任せな。各国の兵士とギルドで対応しておくよ。あんた達は魔王を頼むよ」
「ああ、必ず魔王を倒してくる」
スレッドは力強くカロリーナに答え、ファトゥルーゼの背中に乗っていく。その背中はかなり広く、スレッド達が乗っても十分なスペースがある。
『では、往くとしよう』
ファトゥルーゼは大きく翼をはばたかせ、大空へと飛び立っていく。スレッド達を乗せたファトゥルーゼは魔王領へと侵入していった。
「…………頼んだよ」
カロリーナとザックはスレッド達を見送り、すぐさま行動を開始した。少しでも時間が惜しい。
間もなく人間と魔物の衝突が始まろうとしていた。
「どうやら、こっちにも団体さんのお出ましだ」
魔王領の上空を進んでいくスレッド達。すると、その先に大量の魔物が空を飛んで迫って来た。
このまま進めば、逃げ場のない上空で大量の魔物と戦わなければならない。
「ここはお任せ」
目の前に広がる魔物の大群にブレアが一歩前に立つ。杖を構え、魔女の眼を両目に発動させる。
いつも以上にマナの動きが見えて、大量のマナを操っていく。マナの濃度が高まっていき、紋章を目の前に展開する。
「…………ふう」
ブレアの前に展開された紋章は、ルーファから授かった紋章の一つである。
ルーファから授かった紋章はどれもこれも強力な紋章だ。一つ一つが現代の紋章術とは比較にならないほど威力がある。
だが、ルーファの紋章術は現代の紋章術士には扱えないほど術式が難しい。理解することはおろか、発動させることすらできないものが殆どだ。
そんな強力な紋章術だが、魔女の眼を持つブレアならば問題なく放つことが出来る。
ブレアは五つの同じ紋章を展開する。五つの紋章が変形していき、同じ数の球体となった。球体の中には激しいエネルギーが内包し、ブレアは球体の紋章を猛スピードで上空を飛ぶ魔物の更に上空に移動した。
球体は上空で五芒星を作り、互いのエネルギーを増幅させる。五芒星は激しく
帯電していき、準備は整った。
「フォールオブサンダー!!」
五芒星より激しい雷が降り注ぎ、魔物を焼き殺していく。Aランク以上の魔物ばかりだが、ブレアの雷はそんな魔物を一瞬で炭にするほど強力だ。
しかし、それでも全てを滅ぼすことはできない。
『これならば、通り抜けられだろう。強引にいくぞ。しっかり捕まっていろ』
ファトゥルーゼの言葉に全員が羽根を掴みながら、体勢を低くするためにしゃがみ込んだ。
背中にしっかり捕まったことを確認し、ファトゥルーゼはスピードを上げて魔物の壁の隙間へ突っ込んでいった。
えー現在の近況ですが、
まだ就職は決まっておりません。
その割には色々出費が多く、頭の痛い状況です。
特に最近気付いたことなのですが、
大学時代に免除してもらっていた国民年金の
支払い可能期限が10年ということで今年がラストチャンスと
言うことに気付きました。
支払える「権利」であり「義務」ではないのですが、
払わないと将来の年金が少し下がるそうです。
しかし2年分おそらく36万ほど支払うのはきついです(-_-;)
こうなったらさっさと仕事を決めて、
支払うかどうかを決めたいと思います。
…………というか、こんなとこで話すことではないですね^^;
一応7月半ばまで失業保険は貰えるので、この前手に入れた資格を
生かしつつ、とっとと仕事決めて、定期的な執筆に入れるように
頑張ります。