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第百七十四話「魔族の血」


「ただいま戻りました」


「…………」


「うむ」


 魔王城、王座の間、そこに現れたのは無表情のマリュークに顔を青くしたアーノルドの姿だった。


 彼らは王座の前に跪き、帰還の報告を魔王ヨハンへ行なう。ヨハンは台座に肘をつきながら二人を眺めている。


「こちらが集めました魔力です」


「ご苦労」


 マリュークは人間界で集めた魔力を全て手の平に集め、魔力の塊をヨハンへと献上した。ヨハンはその魔力を口の中に入れた。


 取り込まれた魔力はヨハンの力となり、一気に内包魔力が高まった。


「では、戻れ」


 ヨハンが告げると、マリュークの身体が崩れていく。まるで粘土細工の様に筋肉が蠢き、肉の塊になっていく。最終的には掌ほどの大きさに圧縮され、ヨハンの手の上に納まった。


「はむっ!!」


 塊を口に含み、咀嚼していく。飲み込んだ瞬間、身体の筋肉が膨れ上がり、それまでの細身の体から屈強な冒険者並みの体つきに変わった。


 マリュークはヨハンの身体の一部であり、復活前に影から暗躍する為にヨハンが力の一部と共に切り離した存在だ。


 これで、全盛期の頃まで後少しだ。






(あれが…………魔王)


 この場に到着した瞬間にはっきりと分かった。その圧倒的な存在感と魔族をも上回る魔力を内包している姿は、人間では決して敵わないと理解してしまう。


 目線を合わせない様に下を向いても、微かに身体が震えてしまう。ドラゴンさえも討伐出来ると言われたアーノルドであっても、恐怖が湧きあがってくる。


「俺の復活で世話になったようだな」


「滅相もございません」


 言葉が震える。礼を言われているにも拘らず、恐怖が拭えない。


「冒険者だったな。では、働きに応じて報酬を遣ろう」


 そう言ってヨハンは片手を上げた。柱の陰から一人の女性が現れた。女性は銀の杯を両手でしっかりと持ちながらヨハンの元まで近づいた。


 女性は銀の杯をヨハンに手渡し、恭しく礼をしながら下がっていった。


 ヨハンは立ち上がり、銀の杯を手にアーノルドへ近づいた。それだけの動作なのに、アーノルドの額に汗が流れる。


「顔を上げろ」


 言葉に従い、アーノルドは顔を上げる。そこにはアーノルドを見下ろし、銀の杯を差し出すヨハンの姿がある。


「…………」


 無言の圧力の様なものを感じ、アーノルドは銀の杯を無言で受け取る。受け取った銀の杯を覗いてみると、そこには真っ赤な液体で満たされている。


「これは…………?」


「魔族の血だ」


「ッ!?」


 つい発してしまったアーノルドの疑問に、王座に戻りながらヨハンが中身を告げる。


 魔族の血という答えに動揺する。液体の色から血であることは予測していたが、魔族の物だとは思ってもみなかった。


 ゴポ、ゴポ!!


 よく見ると、沸騰しているかのように底から泡が浮き上がってくる。まるでたった今身体から抜き取った様な新鮮さを感じる。


「それを飲めば、魔族の力を手に入れることが出来るだろう」


「…………」


 血には魔力が含まれている。それは人間であっても魔族であっても変わらない。


 だが、その質には違いがある。人間と魔族の魔力は量も濃度も全く違い、相容れることは無い。


 魔力であることには変わりない。血を飲めば魔族の魔力をその身に宿すだろう。


「飲んでも、大丈夫なものなのでしょうか?」


 銀の杯を持つ手が微かに震え、不安そうな表情で魔族の血を見つめる。


 これまで魔族の血を飲んだ者などいない。竜の血を飲んだ者の話しを聞いたことはあったが、助かった話しなど聞いたことがない。


 異種族の血を飲んで助かるとは到底思えない。


「知らんな。俺は俺の基準で報酬をくれてやるだけだ。飲めないというのならば――――――――俺が飲ましてやろう」


「くっ!?」


 ヨハンの右手が上がる。するとアーノルドの身体は動かなくなる。微かに全身が震えているが、これは恐怖からではない。


 アーノルドの意思では指一本動かせない。それでもどうにか動けないかと力を入れようとするが、それすらままならない。


 次に銀の杯を持つ手が勝手に動き始める。徐々にアーノルドの口元に近づき、一人でに血を飲もうとしていた。


「ま、待ってくれ!?」


「しっかりと受け取れ」


 楽しそうに笑いながら、ヨハンは手を振った。






「ぐぁああああああああ!!」


 ヨハンの力によって魔族の血を全て飲み干し、アーノルドは両手で喉を押さえる様に地面に転がった。銀の杯も地面に転がり、微かに残った血が地面を融かす。


「が…………あぁ…………」


 苦悶の表情で呻くアーノルド。目を限界まで見開き、口から泡を噴き出している。


(魔力だけは増えているようだな)


 その光景を部屋の脇でサイフェルは冷静に観察していた。際ほどまでのアーノルドの魔力量と現在の魔力量を比較する。


 魔力量は大幅に増えていたが、アーノルドの身体の中では元の魔力と魔族の魔力がせめぎ合っている。

 このままいけば、魔族の魔力に支配されるだろう。


「……………………」


 のた打ち回るアーノルドだったが、徐々に動かなくなっていく。そして、完全に動かなくなる。


(やはり、無駄だったな)


 アーノルドの死体を見つめながら、今後の展開を考える。

 今後おそらく人間達が魔王領を攻めてくるだろう。まさか人間に負けるとは思ってもいないが、戦力数の問題がある。


 サイフェルを筆頭に六魔族と呼ばれた者達はその数を半分まで減らし、魔物による人間界への侵攻も現在は停滞気味だ。


 そんな中、アーノルドは貴重な戦力となるはずだった。人間側からの裏切り者だが、だからこそ使える駒だった。


「くっくっく、まだ終わってはいないぞ、サイフェル」


 悩んでいるサイフェルに声を掛けたのは、意外にも王座に座るヨハンだった。サイフェルは部屋の隅からヨハンに近づく。


「どういうことでしょうか?」


「アレを見ろ」


 そう言ってヨハンはアーノルドの下を指差した。


 ビクン!! ベキベキ!!


 動かなくなっていたアーノルドの身体が突然跳ねる。全身の筋肉が躍動し、体内で骨が折れる音や砕ける音が部屋の中に響く。


 魔王の前でアーノルドではない何かが生まれようとしていた。



次も魔族サイドの話が続きます。


おそらくその後が決戦前となり、魔王領再侵攻になる予定です。

ただ、魔王と戦うための準備が少し入るかもしれません。


えー、最近の近況ですが、就活はまだまだですが、

資格の勉強は結構はかどっています。

このペースなら受かるんじゃないかと感じております。

先日試験の申し込みも済み、後は頑張るだけです。

その間に就活も頑張り、勉強も頑張り、執筆も頑張ってまいりますので

これからも応援よろしくお願いいたします<(_ _)>

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