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第百六十九話「アルサム神殿」


「お待ちしておりました」


 アルサム神殿へと続く坂道を登りきり、神殿前へと辿り着いたスレッド達。純白の神殿は太陽の光に照らされ、眩しいほどに輝いている。


 神殿の入口には神殿を護る僧兵が立ち塞がっている。頑丈な鎧を着込み、両手には槍と盾を持っている。


 この地域一帯には魔物の侵入を防ぐための結界の紋章が施されている。それでもたまに魔物が入り込んでくる。高ランクの魔物はそうお目にかかれないが、低ランクの魔物が神殿の入口まで辿り着くことがある。


 そういった魔物や盗賊などの侵入を防ぐために僧兵は常に気を張っている。


 スレッド達はカロリーナから渡された書状を僧兵へと提示し、神殿へと続く階段を上っていく。


 階段を進んだ先に一人の女性が立っている。白を基調とした司祭服を纏い、所々に金の刺繍が施されている。胸の部分にはアルサム神殿のシンボルである紋章が青の刺繍で丁寧に縫い込まれている。


 女性はスレッド達の前に立ち、笑顔で話しかけてきた。


「司祭を務めさせていただいております、セリナ・イリーナです。お話についてはカロリーナ様より窺っております」


 自己紹介を終え、早速神殿の中へと入っていく。


 神殿の中にはちらほら一般人の姿が見える。アルサム神殿は一般の参拝も認められており、簡単な審査を受けることによって犯罪者でもなければ参拝することができる。


 廊下をしばらく進み、一つの扉の前に到着した。


「御苦労さま」


「はっ!!」


 セリナは扉の前で警護している僧兵に挨拶をして、扉を開けさせる。


 僧兵たちは最初スレッド達を進ませることを渋った。しかし、セリナの言葉には逆らえない。最終的には恭しく頭を下げながらスレッド達を通した。


「彼らを悪く思わないでください。ここから先は神殿の者でも限られた者しか入ることの許されない神聖な場所。ギルドの要請とはいえ、戸惑ってしまうのでしょう」


「構いません。かなり無理を言っているのは分かっていますから」


 階段を降りて、地下へと向かっていく。両側の壁には様々な壁画と古代文字が刻まれている。スレッドとブレアはセリナの後を追いながら、壁画や古代文字を眺めていく。

 この中に神器に関する情報がないかを探しているのだ。


 そういった情報収集はスレッドとブレアに任せ、ミズハはセリナと話を進めていく。


「この先に神器があるのですか?」


「…………私は代々の司祭よりそう窺っています。ですが…………」


「? 何か問題が?」


「その答えはこの先にございます」






 しばらく階段を降りていくと、中央に三つの台座がある部屋に辿り着いた。台座は中央の床に刻まれた紋章に沿う様に設置され、台座の上には宝石が埋め込まれている。


「ここが神器を納められている部屋のなのですが…………」


「神器が…………ない?」


 そう、部屋にあるのは台座と紋章だけなのだ。他にも何かないかと辺りを見渡してみるが、特に変わったところは無い。


 台座に近づき、色々な角度から調べてみる。もしかしたら仕掛けがあって、どこかから神器が現れるかもしれない。


「…………何の紋章なのかも分からないな」


「…………さっぱり」


 紋章に精通したスレッドとブレアでも、地面に刻まれた紋章が何を示すのか分からない。それでも何か手掛かりがないかと探し続ける。


「本当にここに神器があるのですか?」


「…………『世界が危機に瀕した時、神は人々に力を与える』。戦神アルサムが残した書籍にそう記されています」


 アルサムは魔王を封印した後、様々な資料や武具を残した。それらは各地に散らばっていたが、現在はアルサム神殿に蒐集されている。


 なぜ、アルサム神殿に集められたのか。その理由は、アルサムがこの地に神器を封印したからである。


 神器とは神々が造り上げた武具である。その力は絶大で、人が使うには危険な力である。


 そこでアルサムは神器を封印することに決め、それを大陸の中心に封印した。その後その上に神殿が建てられ、神殿は神器を護ってきた。


「ですが、神殿が建てられる以前から神器の存在は確認されておりません」


「つまり、実態がどこにあるのか分からない?」


「そういうことになります」


 アルサムがこの場所に神器を封印したのは確かだ。アルサム自身が書籍に記している。


 だが、どれだけ探しても、何をしても見付からない。ある時には各国の紋章術師が集まって、地面の紋章を研究したことがあるほどだ。


 結局何も分かることなく今に至る。


《…………ふむ》


 ミズハがセリナと話している間に、白夜はミズハの肩から降りて台座を調べていた。尻尾を伸ばし、そこに残された何かを感じ取っていた。


 それぞれの台座に乗った後、白夜はミズハの肩に戻ってきた。


《主よ、三人でそれぞれ台座の前に立つがよい》


「白夜、何か分かったのか?」


《妾の記憶が正しければ、問題は無いはずじゃ》


 白夜が突然喋り始めたことに驚いているセリナを一先ず置いておき、スレッド達はそれぞれ白夜に指示された台座の前に立った。


「これで一体…………ッ!?」


 三人がそれぞれ台座の前に立った瞬間、台座の宝石が光り出した。同時に床の紋章が発動し、台座の上に映像が映し出された。男性一人に女性二人。


『!?』


 スレッド達が装備している武器が一人でに動きだした。スレッドの手甲、ミズハの刀、ブレアの杖。


 それぞれが台座の上に浮かび上がり、映像の三人はその武器を懐かしそうに見つめていた。


『まさか、本当に占いが当るなんてな』


『もうあれは占いというより、予言に近いわよ』


 女性二人が目の前の光景を見ながら、驚いている。どうやら以前にこの光景が占いによって示されていたようだ。


『どうやら神器が必要になってしまったようだね』


『そこまで占いの通りにならなくてもよかったのにね』


 男性は憂いの表情を浮かべながら、神器が必要になったことを残念がっていた。神器が必要ということは、魔王が復活してしまったことを意味するのだ。


「あんた達は誰だ?」


『僕の名はアルサム。魔王を封印した者さ』


 スレッドの眼の前に現れた立体映像、それは戦神アルサムの姿だった。



三月も残り半月となり、

現在の仕事も後少しとなりました。

より一層忙しくなり、有休を使いながらの職探しもあり

更新が前回より遅くなってしまいました。


それでも少しづつ執筆は進めていますので、

ご安心ください。

必ずや完結させてみせます!!

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