第百六十六話「星空のもと」
「久々に大物が狩れたな」
「ワウ♪」
スレッドは森で狩ったジューシーボアを引き摺りながら小屋へと向かっていた。その後ろをライアが楽しそうに歩いている。どうやらジューシーボアの肉が楽しみなようだ。
腰に吊るした袋には森で採れる山菜やキノコなどがぎっしり詰まっている。中には食べられるのかと思われる様な怪しいキノコも入っているが、実はそのキノコが一番美味しい。
森に出かけたスレッドとライアは今晩の夕食の食材を狩っていた。ボルボ山で暮らしていた頃は自給自足で過ごしていた。山に生息する動物を狩り、自生する食材を採取する。
昔を思い出しながら山菜やキノコを採取する。フォルスから教わった食材の知識を思い出し、食べられる食材をライアと共に袋に詰めた。
キノコを採っている最中に獣の気配を感じ、気配のする方に向かうと一頭のイノシシを発見した。
「お、ジューシーボアだ。ラッキーだな」
「ワウ!!」
スレッド達が発見したイノシシはジューシーボアとスレッドが勝手に名付けたイノシシだ。実際には別の名前があるが、スレッドは肉質で名前を呼んでいる。
というより、スレッドは本当の名前を知らない。
また、ジューシーボアは単体で行動することが多く、望んで見つけることが難しい。見つけられたことは非常にラッキーだ。
キノコを食べているジューシーボアの背後へ静かに近づき、一撃でジューシーボアを倒した。
「…………」
気絶したジューシーボアの前で手を合わせ、素早く命を奪った。
その後も様々な食材を採取し、日が暮れてきたところで小屋へと帰っていった。
小屋の掃除を終えたミズハとブレアは、スレッドが持ち帰った食材で夕食を作っていた。
「まさか、紋章術で調味料を保管するなんて思ってもみなかったよ」
「普通は無理」
小屋には幾つもの調味料が保管されていた。調味料の中には保管できる期間がとても短い物もあったが、フォルスが紋章術を施した貯蔵庫は調味料の劣化を抑える効果があった。
その為、山の上とはいえ本格的な料理を作ることができたのだ。
「良い焼き色だ」
「ワウ、ワウ♪」
ミズハ達が料理を行なっている傍では、スレッドが木で組んだ台にジューシーボアを吊るし、下から木を燃やしながら火で炙っていく。時々ジューシーボアの位置をずらしながら万遍なく焼いていく。
辺りには美味しそうな匂いが漂っている。匂いに釣られた魔物が近づこうとするが、結界に阻まれて悔しそうに森へと帰っていく。
しばらくして料理が出来上がる。山菜やキノコのスープに、切り分けられたジューシーボアの肉。小屋の中から持ってきた机と椅子を置いて、机の上に料理を置いた。
「よし、とりあえず乾杯するか」
『乾杯!!』
お酒が並々と注がれたジョッキを高らかと掲げ、ジョッキをぶつけ合う。そして一気にお酒を飲み干した。
小屋には調味料の他にお酒も保存されていた。お酒については紋章術の影響を受けず、時間を掛けて熟していく。深みのある味が身体に染み渡っていく。
しばらくお酒の味を堪能していたが、料理が冷めない内に食事を開始した。
「!? これは!!」
「凄い!!」
ジューシーボアの肉を食べたミズハとブレアはその美味しさに目を見開いた。
ナイフで感嘆に切れるほど柔らかいのに、噛むとしっかりとした歯応えがある。噛んだ瞬間、口の中に溢れだす肉汁。ほどよい脂が口の中で溶け、肉が口に中から直ぐに無くなった。
すぐに二口目を頬張る。一見するともたれそうなほどの肉に見えるが、実にサッパリした口当たりで、数人前はあろうかという量が簡単に食べられてしまう。
これまで食べたどんな肉よりも美味しかった。
「こっちのスープも美味しいよ」
ミズハとブレアが作ったスープは切った山菜やキノコを煮込み、岩塩をベースに少量の調味料で味付けした。
塩味でサッパリしているが、山菜やキノコから出た出汁がコクを生み出し、ジューシーボアの肉に良く合う。
「ガツガツ」
肉の塊に齧り付くライア。嬉しそうに食べ進めていき、肉の塊は直ぐに無くなった。それを見て、ミズハが肉を切り分けてライアに差し出してやる。ライアはすぐさま肉に齧り付く。
ミズハの隣では白夜が身体を丸めて眠っている。白夜はミズハの炎の化身だ。食事をすることは無い。
ミズハがライアに料理を与えている間もスレッドとブレアが次々と料理を平らげていく。
星が煌めく空のもと、楽しく食事が進んでいった。
さすがに夜から小屋を探すのはどうかと考え、その日は一晩泊まり、翌日作業を行なうこととなった。
寝る場所に関して今回はすぐに解決した。寝室にはベッドが二つあり、ミズハとブレアが使うことになった。スレッドとライアは今のソファで寝ることになった。
翌朝簡単な食事を終え、小屋の中にある資料を片っ端から読んでいく。そこには国が保管している資料ですら霞むほど、貴重な資料ばかりが揃っていた。
しかし、求めている資料は見つからない。
「やはり無いんだろうか…………」
「……………………」
次々と資料を流し読みするミズハに対して、ブレアはじっくりとフォルスが記した資料を読み耽っている。
「…………ワウ?」
「どうした、ライア?」
スレッドと一緒に小屋の中を探っていたライアは、何かに気付く。床の一点に視線を向け、スレッドに向けて一声吠えた。
長年過ごしてきた家だが、もしかしたら知らない何かがあるかもしれない。そう思って探っていたところにライアが何かを発見した。
床にしゃがみ込み、ライアが示す場所に右手で触れる。
「!?」
すると、右の手甲に刻まれた紋章と床に施されていた紋章が反応する。二つの紋章が反応した瞬間、地下へと続く階段が現れた。
どうやらフォルスは再びスレッドがこの家を訪れると予測していたようだ。
「行ってみるか」
資料を読み耽って気付いていないブレアに声を掛け、スレッド達は地下へと進んでいった。
…………上手く味を表現できないorz