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第百六十五話「数年ぶりの帰郷」


「うぅ…………」


「ミズハ、あまり力を入れないでくれ。バランスが崩れる」


 澄み渡った青空を進んでいくスレッド達。眼下には広大な森が広がっている。


 スレッドは足裏に紋章を発動させながら空を歩き、スレッドの腕の中にはミズハが納まっている。両手でスレッドがミズハを持ち上げる様な形で、ミズハはスレッドの首に手を伸ばしている。

 所謂お姫様抱っこの形だ。


 ミズハのお腹には白夜が乗っており、尻尾でスレッドとミズハを固定している。


「むぅ~~…………」


 スレッドの後ろでは、ライアの背に乗ったブレアが頬を膨らませて羨ましそうにミズハを眺めていた。


 現在スレッド達はスレッドの故郷であるボルボ山へ向かっていた。






「スレッド、あんたに頼みたい」


 ギルド支部に呼び出されたスレッド達は、カロリーナからの依頼を受けていた。依頼内容は「フォルスの遺品を探ること」。


 現在ギルドは各地で情報収集を行なっている。魔王について、封印について、戦神アルサムについて、魔王に対抗するために必要な情報を求めていた。


 しかし、有益な情報は得られていない。


「フォルスなら何かを知っていたはず。あいつは歴史の研究も行なっていた」


「それでスレッドの故郷を調査しろと?」


「あまり故人の遺品を荒らすことはしたくないんだけどね。そうも言ってられない状況なのさ」


 カロリーナの話しでは、各地での魔物の被害が拡大している。魔王領との間の結界は維持されているが、魔物の襲撃によって結界が徐々に削られている。このままでは破壊されないまでも力が弱まってしまう可能性もある。


 何かしらの打開策が必要だ。


「お願いできないかね?」


 珍しく済まなそうに話すカロリーナ。出来れば戦友の遺品を荒らしたくは無いのだ。


「構わないよ。カロリーナには色々世話になったからね」


「そう言ってもらえると助かるよ」


 こうして、スレッドの里帰りが決定した。






 準備を整えたスレッド達はスレッドとミズハが初めて出会った森の上空を飛んでいく。その際揉めたのは、どのように移動していくのかだ。


 スレッドは紋章術で空を歩くことが出来る。また、ライアも身軽な動きで木の上を移動する。


 こうなると一人をスレッドが抱え、一人がライアの上に跨る。歩いて森を抜けると言う案もあったが、ミズハとブレアに即座に却下された。


 長時間の話し合いの結果、最終的にはじゃんけんで勝負を行ない、ミズハが勝利した。


「ミズハ、帰りは交代だから」


「…………分かってる」


 スレッドは二人の会話に参加することなく、黙々とボルボ山を目指していった。






「…………見えた。あれだ」


 しばらく進んでいくと、木々が生い茂る山の上に一軒の小屋が建っている。木で建てられているログハウスで、人が二人住むには十分の広さがある。


 スレッドは小屋の前に降り立ち、ミズハを降ろした。白夜は尻尾をスレッドから外し、肩の上の定位置に納まった。


 その後すぐにライアも降り立ち、ブレアを降ろしてスレッドの横に並ぶ。


「…………」


「ワウ…………」


 スレッドとライアが小屋を見上げる。懐かしい光景に二人は昔を思い出す。様々な思い出が頭の中を巡り、しんみりとした雰囲気が流れていく。


 ミズハもブレアも二人の時間を邪魔することなく、静かに待つことにした。






「それにしても、この危険な山でよく無事に残っていたな」


 小屋を眺めながら、ミズハは小屋が全く損傷していないことに驚いた。


 ボルボ山はAランクの魔物が数多く生息する。中にはSランク級の魔物も生息し、冒険者でも一人で入ったら生きて出られないと言われている。


「ここには爺さんの結界が残ってるからな。魔物は一切近づけない」


 スレッドは風の紋章術で辺りに伸びている草を刈りながらこの場所について説明する。


 小屋の周りには半径300メートル程度の広さにフォルスが結界を施していた。数十年前に施されたにも関わらず、未だに力が衰えていない。


 その為、頂上にある小屋にも関わらず、小屋は全くの無傷だ。


「さて、入るか」


 玄関の扉に近づき、紋章を展開させる。どうしたのかと驚くミズハとブレアだったが、すぐさま答えを知る。


 スレッドの展開した紋章が扉に施された紋章と反応する。扉の紋章が徐々に解かれていき、扉に掛けられていた鍵が外れた。


 人里離れた山の上とはいえ、鍵も掛けずに出かけるわけにはいかない。スレッドオリジナルの紋章を扉に掛け、自分以外は入れない様な細工を施していたのだ。


 キィ。


 扉を開け、小屋の中に入る。小屋の中はここを出た時を同じままだ。中央に机と椅子が配置され、壁際には本棚が並んでいる。部屋の奥には扉があり、その奥が寝室になっている。


「ゴホッ、ゴホッ!!」


「埃っぽい…………」


 部屋に入ると、長年溜まった埃が人の動きに合わせて舞い上がる。良く見ると部屋中いたるところに埃が溜まっているようだ。


 人が過ごさない家は、徐々に汚れていく。たとえ紋章による鍵が掛かっていたところで、汚れまで防ぐことはできない。


「まずは、掃除だな」


「これじゃ探し物は無理」


 そう言ってミズハとブレアが腕まくりをしながら掃除を開始する。手際良く掃除を進めていく二人に対し、スレッドとライアも手伝おうとするが。


「大丈夫。ここまで運んでもらったんだ。ゆっくり休んでくれ」


「私達にお任せ」


 ここまで運んでもらったのだから、自分達が掃除をすると言って聞かず、スレッド達は部屋の外へと追い出されてしまった。


「…………なら、久々にいくか」


「ワウ!!」


 スレッドとライアは掃除をミズハ達に任せ、森へ向かって歩いていった。



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