第百五十二話「作戦後」
ゴオォォォォン!!
リュディオンの街の外に張られた結界に魔物がぶつかる音が響く。しかし、結界はびくともしない。
この結界は魔王領とアーセル王国・南ハイロウの境界線に展開されている。境界線上で活発化した魔物は結界にぶつかり続け、最後には結界に身体が潰れて死んでいく。
その光景を見ていた後方の魔物はやがて諦めたかのように森へと帰っていった。
無事に戦闘が終了したのを確認し、ザックは戦場を見回っていた。戦場は死傷者に溢れ、紋章術士が治療に当たっている。
無事な冒険者は生存者の捜索や遺体の搬送を行なっていた。ブラック達も遺体の搬送を手伝っている。
「…………おい」
「はい?」
「アーノルドの奴を見かけなかったか?」
「いえ…………あれ、そういえば途中から見掛けませんね」
「そうか…………」
近くを通った冒険者にアーノルドの場所を訪ねる。だが、誰もがアーノルドの姿を戦闘の途中から見掛けていなかった。
冒険者に礼を告げ、ザックは作戦本部のソルへ連絡を取った。
「ソル、すぐに調べてもらいたい事がある」
『何をですか?』
「今回の作戦全体での行方不明者だ」
『行方不明者ですか? それは構いませんが、作戦全体で、ですか?』
突然のザックの要請に戸惑うソル。ザックの方が上位者だが、どうしても疑問をぶつけてしまった。
この後戦闘に参加した冒険者と死傷者との照らし合わせをして、行方不明者を調査する予定であった。ギルド本部への報告書に必要であり、ザックの要請が無くても調査しなければならない。
しかし、ザックは冒険者だけではなく、作戦全体と言った。つまり、作戦本部なども含めた全ての人間を調査するということだ。
「手間かけて悪いな。だが、こいつは早急に調べにゃならねえ。それと作戦本部の方は内密に頼む」
『…………分かりました』
少しの間何かを考えていたソルだが、リカルドとの会話を思い出し、ザックが心配しているのはそれに関連している事だろうと推測する。
直ぐに了承を告げて、通信を切った。
通信を終えたザックは、目を細めて森の奥を睨みつける。そして、何かに決別するかのように作業の手伝いに向かっていった。
「どうする?」
「…………戻ろう。事態を把握することなく進むのは危険だ」
体力をある程度回復させたスレッド達は、これからどうするべきかを話し合っていた。
ボルフォックの言葉を信じれば、大量の魔物が人間界に向けて侵攻しているはずだ。敵の言葉を信用するのもどうかと思うが、ボルフォックの性格から嘘で戸惑わせるとは思えない。
まだ魔王領の探索は終わっていないが、一度戻るべきではないかと話し合っていた。
様々な状況や状態を加味し、スレッド達は戻ることに決めた。
「よし、ならまずは――――――――飯にしよう」
「は?」
「おー」
「ワウ!!」
「いやいや、急がないといけないんじゃないか!?」
荷物から食材を取り出し、食事の準備を始めるスレッド達。その光景に慌てるミズハ。
今の状況から考えると、すぐにでも出発しないといけない。
だが、ミズハ以外は全員食事の準備を始めている。誰も反対していない。
「さすがにこのまま食事抜きで進めないさ」
「おなか減った」
「ワウゥ…………」
「う…………」
ブレアとライアのすがる様な瞳に、ミズハは困ってしまう。さすがにブレア達の要望を無碍には出来なかった。
「…………仕方ないか」
確かにこのまま進むには体力を消費し過ぎた。ミズハ自身もお腹が空いており、食べたくなってきた。
ミズハの許しを得て、スレッド達は食事の準備を開始した。
「作戦本部の行方不明者は1名です――――――――アーセル王国から派遣されたマリューク殿です」
「そうか…………」
ソルからの報告を受け、ザックは眼を閉じ、腕を組みながら一言呟いた。
二人は魔王領が見渡せるリュディオンの外壁の上に立っている。眼下ではまだまだ作業が行なわれている。
「冒険者側の行方不明者はまだ把握できていませんが、高ランクの中では1名、アーノルド殿のみです」
「…………」
行方不明者の報告を聞き終え、ザックは考えを巡らした。
今ある情報だけでは確かなことが言えない。だが、状況だけを見れば、誰が裏切ったのかが予想できる。
あまり信じたくはないが、マリュークとアーノルドが裏切ったのだろう。
「二人はいつの間にか消えていて、秘密裏に捜索しましたが見つかりませんでした。やはり、彼らは…………」
「それ以上は言うな。不確かな情報だけでは判断できん」
「了解しました…………」
考えていても、口にするべきではない。どこから情報が漏れるか分からない。
不吉な噂が流れ、周りの者に不安を与えかねない。
「リカルドの状態は?」
「どうにか山場を越えましたが、以前危険な状態です」
話題を変える二人。もう一つの懸念であるリカルドの状態について報告を受ける。
術士によって傷は塞がったが、未だ意識を取り戻していない。現在も治療が行なわれており、いつ危険な状態になるとも限らない。
リカルドはギルドにとって重要な人物だ。このままリカルドがいなければ、各国の調整が難しくなる。更にギルドは統率力を失い、混乱に陥ってしまう。
「分かった…………作業に戻ってくれ」
全ての報告を聞き終え、ザックはソルを下がらせた。ソルは一礼して、すぐに作戦本部へと帰っていった。
「…………呼ぶしかないか」
どうするべきかを考え、どう考えても一つの答えしか出てこない。だが、あまりザックとしては選びたくなかった。
それでも好き嫌い出来るものではない。
ザックは溜息を洩らしながらも、頭に浮かぶ人物を呼び出すための手紙を書く為に事務室へと向かっていった。
第九章へ続く
一応これで第八章は終了となります。
少し中途半端なところかもしれませんが、
自分的には次の話数から章を変えた方良いかなと考えました。
次の章までは少し時間をいただいて、
少しだけ前の話を改訂していきたいと考えています。
そこまで時間がかかるとは思いませんが、
それでも待たせてしまうと思います。
どうにかゲームへの欲求を抑えつつ、
出来るだけ早く更新できるように頑張ります。
気長に待ってやってください<(_ _)>