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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第八章「魔王領探索」編
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第百四十八話「錯綜」


 ドドドドドドドド!!!!


 激しい地響きと共に大量の魔物たちが迫って来る。


「よし、先手必勝!!」


 ブラックは闘気を大剣に集中させ、大剣に刻まれた紋章に己の魔力を注ぎ込んだ。大剣の刀身が光り輝き、今にも爆発しそうなほどエネルギーを溜めている。


「ッ!? 全員下がれ!!」


 ブラックの構えを確認し、シャンテは慌てて周りにいた者たちに向けて叫んだ。おそらく何人かは巻きこまれるだろうが、それでも注意すれば巻きこまれない者もいるだろう。


 シャンテの叫び声を聞いて、周りの冒険者はブラックの構えを見た。明らかに危険だと判断し、誰もが慌てて後方へと下がった。


「グランドクラッシャー!!」


 全員が避難できたかなど確認することなく、ブラックは大剣を地面に叩きつけた。


『…………?』


 叩きつけた瞬間は何も起こらなかった。多少の衝撃はあったものの、迫りくる魔物にも変化はない。


 誰もが力を抜いた瞬間、それは起きた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!


 魔物達が向かってくる揺れとは違う大地の揺れが起きる。目の前の大地が盛り上がっていき、まるで巨大な波の様に魔物の群れに向けてせり上がっていく。


 土の波はリュディオンの外壁の高さまでせり上がっても、魔物の群れは動きを止めない。


 ある一定の高さまで上がると、土の波は勢いよく魔物の群れを包みこむように落ちていった。


 大重量の土は前方の魔物たちを押し潰した。


「よっしゃあ!! 野郎ども、戦闘開始だ!!!!」


『おう!!!!』


 先手は成功した。ここからは確固撃破、街への侵攻を食い止めるのみだ。






「おらっ!!」


 次々やって来る魔物を大剣で薙ぎ払う。だが、魔物の群れが途切れることはない。休みなくブラックは大剣を振り続けた。


「まったく、厄介ですね」


 連続で突きを放ち、槍が魔物に突き刺さる。すぐさま引き抜き、シャンテは槍の長さを利用して魔物の足を払う。


「文句を言わないの」


 ミンティがそんな二人に身体強化の紋章術を掛け、同時に炎の紋章術を発動させていた。


 戦いが始まってから3時間。魔物の群れはまだまだ途切れることはない。見える範囲は魔物で埋め尽くされている。


 ブラック達の周りでも冒険者達が必死に魔物を撃退している。しかし、徐々にだが冒険者達が押されてきている。


 このままでは結界まで到達してしまうだろう。何か対策を講じないと。


「ザック殿、どうするんだ?」


 片手剣を優雅に振るいながら、アーノルドは近くで大剣を振り回していたザックに問いかけた。


 まさかこのまま戦い続けるだけということはないだろう。それで護りきれるはずが無い。先に冒険者の体力が尽きてしまう。


 ギルドも何か対策を講じているはずだ。何か切り札を。


「…………切り札は、ある。だが、今は言えねえ!!」


「しかし!?」


「今は目の前の魔物に集中しろ!!」


 ザックは周りを指揮しながら答える。だが、内容までは言わない。


 ギルドは魔物の群れを確認した後、各地のギルドマスターによる対策会議を行なった。そこでは幾つかの対策案が出され、作戦を行なう者だけに伝えられた。


 本来ならば、冒険者全員に伝えるべきだ。そうする方が作戦を進行させやすい。


 しかし、作戦が相手側に洩れる危険性がある。魔族が存在し、魔王領には知能を持つ魔物も存在する。


(タイミングが重要だ。頼んだぜ、リカルド)


 作戦の指揮はリカルドが行なうことになっている。おそらく作戦本部は今が一番忙しいだろう。






「東のポイントに術士が到着しました!!」


「術式の展開率70%!!」


「遅いぞ!! 術士に展開速度を上げさせろ!!」


 リュディオンのギルドの一室に構えた作戦本部では怒号が飛び交っていた。


 誰もが忙しなく動き回り、戦場のあらゆる情報が集まってくる。集まった情報を取りまとめ、部屋の奥の椅子に座るリカルドに報告される。その報告を確認し、リカルドが指示を出していく。


「…………前線に行って、ランクの高い者をポイントの防衛に回せ」


「了解しました!!」


 現在の進捗状況を確認し、報告に来た者に指示を与える。指示を受けた者は急いで部屋の外に走っていった。


「リカルド殿、作戦は順調ですか?」


「北のポイントの構成がおかしいじゃと? じゃったら、さっさと直してこんか!! …………すまんのう、マリューク殿」


「いえいえ、仕方ありませんよ。それで、結界は上手くいきそうですか?」


「おそらく後一時間ほどで展開出来るでしょう」


 リカルドは忙しい部屋の中を静かに近づいてきた青年の問いに応えた。青年は外壁の上までリカルドを迎えに来た青年だ。


 近づいてきた青年はマリュークといって、アーセル王国の文官の一人である。今回はリカルドとアーセル王国の間を取り持つ役割を担っている。


 リカルドは様々な資料を提示ながら説明していく。


 ギルドの作戦は、リュディオンの結界の数を増やし、更に強化を行なうというものだ。リュディオンの各ポイントに紋章を配置し、魔王領とアーセル王国・南ハイロウとの境界沿いに紋章を配置する。


 配置した紋章を繋いで広域での結界を展開する。これがギルドの作戦の一つだ。


 紋章を配置するにはマナが必要だ。そして魔物はそのマナの動きを察知して襲撃していく。


「リカルド殿、少々お話があるのですが…………」


 そう言ってマリュークは別の部屋にリカルドを誘う。リカルドは疑うことなく別の部屋にマリュークを伴って移動した。






「さて、話というのは――――」


「難しい事ではありません」


 ズブ!!


「ぐぁふ!!」


「死んでください」


 部屋に入り、扉を閉めた瞬間にリカルドは腹部に激しい痛みを覚えた。喉の奥から何かが込み上げてきて、右手で口を押さえた。右手に熱いものを感じ、そこには真っ赤な血が溢れていた。


 視線を下に向けると、マリュークの腕がリカルドの腹部を貫いていた。


 マリュークはリカルドの腹部から右手を引き抜き、懐から取り出した布で血を拭った。腕が綺麗になると、布を跡形もなく燃やした。


 左手で傷口を押さえながら、リカルドは床に倒れた。


「ぐっ…………き、さま!!」


「順調に行ってもらっては困るのですよ」


 冷たい視線を倒れたリカルドに送る。まるで物でも見るかのようだ。


「さて、安らかにお眠りください」


 マリュークはすぐに興味を無くし、部屋を後にした。このまま捨て置けば、その内リカルドは息を引き取るだろう。

 わざわざ止めを刺す必要もない。


「…………」


 徐々にリカルドの意識は薄れていく。そんな途切れていく意識の中でも、リカルドはこの戦いを気にせずにはいられなかった。



今週末にまた出張に出かけますので、

次の更新は少し遅れます<(_ _)>

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