第百四十五話「劉炎宝刀」
「さあ、さっさと死になさい」
ヒュン!!
エヴァは右手を横に振り、手に持った針をミズハ達に向けて放った。その数は数十にもおよび、回避するのは難しい。
「この程度!!」
確かに数は多いが、処理できない数ではない。ミズハは刀を構え、針を弾こうとした。
「!? ミズハ、駄目!!」
何かに気付いたブレアは、咄嗟に風の紋章を発動させる。飛んでくる針の動きに合わせて、風を使って軌道をずらした。
針は壁や転がっていた岩に刺さった。刺さった瞬間は何ともなかったが、数秒もすると変化が訪れた。
パキィン!!
『ッ!?』
「よく見破ったわね」
壁はごっそりと崩れ落ち、岩は砂の様に粉々になっていった。おそらく針の能力なのだろう。
あのまま刀で針を弾いていたら、ミズハの刀はボロボロになっていただろう。
「それじゃあ、頑張って回避してみなさい!!」
笑みを一層濃くして、エヴァは次々と針を放っていく。いったいどこから取り出しているのか分からないほどの数を、ブレアは懸命に風を操作することで回避していった。
「…………このままじゃ、まずい」
「どうにかしないと!!」
どうにか針の軌道を変えているが、このままでは先にブレアの魔力が尽きてしまう。そうなっては二人が串刺しになるのは確実だ。
しかし、針を弾かず、回避しきってエヴァに近づくのは至難の業だ。
《主よ。ここは妾がどうにかしよう》
「大丈夫なのか、白夜?」
《妾は炎の化身。破壊されることなどない》
そう言って白夜は、ミズハの肩から地面に降りた。白夜は自ら炎を生み出し、生み出した炎を地面に突き刺した。
炎は圧縮されていき、形を整えていく、圧縮された炎は洗練されていき、刀の形をした炎が創り出された。
炎の刀は真っ赤に燃え盛り、持っただけで火傷してしまいそうだ。
「これは…………」
《カグラ家に代々受け継がれる秘儀「劉炎宝刀」じゃ》
白夜が造り出した「劉炎宝刀」を見つめ、ミズハは手に持った刀を鞘に納めて「劉炎宝刀」に手を伸ばした。
ミズハはしっかりと柄を握り、地面から刀を引き抜いた。
「…………これが、劉炎宝刀」
以前母であるリアナからこの刀について話しだけは聞いていた。
カグラ家には力と共に様々な技術が代々伝えられている。先人達が考え出した技の中でも最高の技と呼ばれたのが「劉炎宝刀」である。
一族の殆どは実力が足りずに刀を生み出すことはできなかった。劉炎宝刀を造り出すには炎の源を顕現させる必要がある。炎の源の補助が無ければ、劉炎宝刀は形にならない。
リアナも「劉炎宝刀」を造り出せた一人だった。以前に一度だけ見せてもらったことがあり、まさか自分が造り出せるとは思っていなかった。
そんな幻の刀が自分の手の中にある。
「そんな刀一本で、私をどうにか出来るのかしら?」
《これは、単なる炎の刀ではない》
白夜は再びミズハの肩に乗り、ミズハの炎を増幅させる。増幅された炎は全て劉炎宝刀に吸収され、刀は輝きを増していく。
ゴオオオオ!!
劉炎宝刀から白色の炎が一気に噴き出す。白色の炎は広範囲に広がり、エヴァの近くを掠めた。
「ッ!? これは!!」
炎はエヴァの腕を微かに掠る。少しだけだが火傷をしたが、いつもなら直ぐにでもこの程度回復するはずだった。
しかし、白色の炎で傷つけられた個所は全く回復する気配が無い。
《気付いたようじゃのう。そう、劉炎宝刀は破邪の刀じゃ》
白色の炎は再び刀に戻り、ミズハの周りに漂う。
《主よ、これで大丈夫じゃ。往くがよい》
「ああ!!」
刀を振りながら、ミズハは駆け出した。飛んでくる針を炎の熱で溶かしていき、一気に飛び上がった。
「くっ!? 落ちなさい!!」
「はああああ!!」
必死にミズハを撃ち落とそうとエヴァは針を放つが、全て斬り落とした。その勢いのままミズハは刀を振り上げた。
「う、ぎゃああああああああ!!」
ミズハはエヴァの右腕を斬り裂いた。斬り落とされた腕は灰となって崩れていった。
劉炎宝刀はカグラ家一族が辿り着いた究極の一である。初代カグラ家当主は最強を求めて世界中の魔物と戦った。魔王領にまで入り込んで魔族に戦いを挑みかかり、辛うじて生き残った。
だが、初代当主は満足などしなかった。それどころか魔族を倒すための技を考え出し、遂に破邪の刀を自身の炎で造り出してしまった。
その後、初代当主は破邪の刀を持って魔物と戦い続け、勇者と共に魔王の封印を行なった。
劉炎宝刀で傷つけられた魔物や魔族は、決して回復することはない。魔物や魔族に内包している魔力を浄化し、力を破壊していく。
破邪の力がエヴァの腕を破壊したのだ。
《主よ。おそらく次の一撃が最後じゃろう。これ以上は主の力がもたん。故に集中するのじゃ》
「分かった」
腕を斬られ、魔が浄化されていくエヴァ。あまりにも動揺していて、ミズハの接近に気付いていない。
だが、ここで攻撃を外せば、再び近づくのは難しくなってしまう。
更に、次の一撃を放てば、おそらくミズハは回避も攻撃も出来ないだろう。劉炎宝刀は強力な技だが、それ故に力の消費も激しい。
後一撃が限度だろう。だからこそ、外すわけにはいかない。
白夜の補助を受けながら、空中で刀を中段に構える。意識を集中させ、余計な感覚を排除させていく。
軽く息を吐き、渾身の技を繰り出した。
「王刀一閃!!」
劉炎宝刀を持ってエヴァを一刀両断する。その技の鋭さは、エヴァが我を取り戻していても回避することが難しいほどに鋭かった。
「こ…………んな…………小娘…………に…………」
「さようなら、おばさん」
エヴァの身体に劉炎宝刀を突き刺し、白色の炎がエヴァの身体を焼き尽くす。エヴァは抵抗できずに灰になっていった。
大変お待たせしております。
あまりの暑さにダウンしている作者です。
部屋のエアコンから冷たい空気が出ず、
扇風機だけでなんとか乗り切ろうとしていますが
…………無理ですね。
とりあえず出張に出かける前までにはもう一話更新したいです。
ちなみに15日から18日までの3泊4日で頑張ってきます。