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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第八章「魔王領探索」編
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第百三十九話「リュディオン」


「…………この先が魔王領か」


 目の前にそびえ立つ高い壁を見上げながら、スレッドは一言呟いた。


 スレッドがいる場所はアーセル王国の南に位置する魔王領と接する街、リュディオンである。


「スレッド、宿屋確保したよ…………どうした?」


「いや、高いなーっと思って」


「ついに、来た」


 今日の宿を確保したミズハとブレアがスレッドの隣に立ち、同じように壁を見上げた。


 この先にスレッド達の目指す、魔王領が存在する。その先に何が待っているのか。






 魔王領に入るためには様々な手続きといくらかのお金が必要である。また、様々な条件もあり、魔王領に入る冒険者は少ない。


 リュディオンは大陸で唯一魔王領に入ることの出来る街であり、街と魔王領を隔てる壁にある扉からしか行くことが出来ない。


 冒険者が魔王領に行くためには、ギルドの了承が必要である。それも各国にあるギルドのギルドマスターの了承が必要であり、了承もそう簡単に得られない。


 ギルドマスターの了承が全て得られたら、最後にリュディオンのギルドマスターに了承を得て、数か月の審査の後、お金を払って魔王領に入る。


 この様な手続きが必要であり、入る為に要する日数は軽く1年は掛かってしまう。その為魔王領に入ろうとする者は少ない。


 なぜこれほどまでに条件が厳しいのか。その理由は、魔王領があまりに危険だからだ。


 昔は多くの冒険者が腕試しなどで魔王領に入っていったが、多くの者が帰ってこなかった。中には高ランクの冒険者も行方不明になり、徐々にギルド所属の冒険者は帰ってこなかった。


 また、魔物の大襲撃などもあり、魔王領は不可侵の土地となった。一時期は侵入を完全に禁止していたが、数年前から条件付きで魔王領に入ることが許された。






 カグラ家を出発したスレッド達は魔王領に入るためにリュディオンに来ていた。


 出発する際には二クラスと一悶着あったが、リアナが力で抑えつけた。馬車を乗り継ぎ、数日かけて街までやってきた。


「リカルドから話しは聞いてるぜ」


 リュディオンのギルドにやってきた三人。受付でリカルドから渡された手紙を渡し、奥の応接室に案内された。


 しばらく待っていると、肌の色が黒い、がたいの良い男が部屋に入ってきた。男は三人の正面に座り、手に持っていた金属の板を机の上に置いた。


「ここの責任者のザックだ」


 目の前の男、ザックは気楽な感じで握手を求めてきた。スレッドが手を差し出そうとした瞬間。


 ヒュン!!


「ッ!?」


「油断大敵だぜ」


 ザックは素早い動きで握りしめた拳をスレッドの顎に寸止めした。その動きはザックのがたいから想像できないほどのスピードだった。


「ここはガラの悪い冒険者も多いから、いついかなる時も気を抜くな」


「確かに、油断大敵だな」


「おっ?」


 気付いたら、スレッドの拳がザックの脇腹に寸止めされていた。


 スレッドはザックの動きに気付いた瞬間にスレッドは動いていた。ザックが寸止めするだろうと感じ取り、スレッドも寸止めで対応した。


 スレッドの拳に驚いていたザックだが、すぐに笑顔になった。


「はっはっは!! 心配はいらないようだな!!」


 ザックは拳を引き、ソファに深々と座った。正面の三人を見ると、三人共がザックに向けて警戒していた。


 その反応はザックを満足させるものだった。


「リカルドが推薦する訳だ」


 スレッド達のことはリカルドから話を聞いていたが、ザックはスレッド達に許可を出すかどうか迷っていた。


 今の拳に反応できないようでは、魔王領で野垂れ死ねのが落ちだ。


「本来ならここから更に2、3カ月ほど申請に時間が掛かるんだが、お前達は特例だ」


 そう言って、ザックは机に置いていた金属の板をスレッドに向けて放り投げた。スレッドは片手でキャッチし、金属の板を眺めた。


 板の表にはギルドの紋章と幾つかの文字が刻まれ、後ろにはスレッド達三人の名前が刻まれていた。


「そいつは許可証であると同時に、魔王領に入った者を特定するための証だ。おそらく魔王領のあちこちに転がっているだろうな」


 金属の板は魔王領に入った者を判別するためのものだ。金属であるのは、年月が過ぎても風化しない様に工夫されている。


「もしも魔王領で発見したら、持って帰ってくれ。そうすれば、行方不明者の安否を特定できる」


 冒険者の中には家族がいる者もいる。長年帰ってこないからといって、そう簡単に捜索に出せるわけがない。


 そこで考え出されたのが、金属の板を許可証にし、他の冒険者が入った際に回収してもらうと言うものだ。


 その後、スレッド達は様々な注意を受け、ザックは最後の忠告をした。


「最後に一つ…………生きて帰れ。死んだら、何にもならん。生きてさえいりゃ、再挑戦だってできる。だから、必ず生きて帰れ」


『…………はい』


 ザックの言葉に三人は深く頷いた。






「あ、すみません。少々お待ちいただけますか」


 ギルドを後にしようとした時、女性の職員に声を掛けられた。女性は手に手紙の様なものを持っている。


「スレッド様宛にギルドマスター・リカルド様の手紙が届いております。ご伝言で『クエストの内容を記してある』とのことです」


「ありがとう」


 女性に笑顔で答えるスレッド。その笑顔に女性は少しだけ顔を赤くしながら、カウンターの奥へと戻っていった。


 その光景を見ていたミズハとブレアはむくれた顔をしながら、スレッドの腕を両方から抱えた。


「え、ちょ!?」


「さっさと宿に戻るぞ」


「見境なし」


 なぜこうなったのか分からないまま、スレッドは二人に引き摺られるように連れて行かれた。


 ギルドの職員は、スレッド達の様子を苦笑いを浮かべながら見送った。



次で魔王領に入ります。

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