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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第八章「魔王領探索」編
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第百三十七話「講義 前篇」


 スレッドとミズハが訓練の疲れで眠っている頃。


《紋章とは、世界に働きかける式である》


「ふむふむ」


 ブレアは館の中にある図書室で白夜から講義を受けていた。


 語りかけてくる言葉をメモしていくブレア。その表情は真剣そのものだ。


 なぜブレアが猫に講義を受けているのか。その理由は、図書室で勉強していたところに白夜が紋章術についての講義をしてくれると言うのだ。


 ブレアは喜んで猫の講義を受けていた。しかし、傍から見るとなかなかシュールな光景だ。


《式には必ず答えがある。その答えが術として発動するのじゃ》


 式があるならば、必ず答えが存在する。式が紋章とするならば、その先で発動するものが答えだ。


《その答えさえ理解していれば、紋章が無くとも術は発動する》


「でも、答えなんて目に見えない」


《勿論じゃ。世界に干渉するのじゃ。人間に理解できるような答えなど下位の紋章程度じゃ》


 紋章とは世界に干渉するものである。世界という大きなものに干渉するものが簡単なはずが無い。勿論その答えも簡単ではない。


 しかし、下位の紋章はそれほど難解なものではない。紋章術に精通したものであれば、紋章なしでも答えに辿りつける。


《勿論例外も存在する。魔族が良い例じゃ》


「…………魔族は紋章術を使用していない」


 ブレアは魔族との戦いを思い出し、魔族が紋章を使っていなかったことが頭に思い浮かぶ。


 術としては紋章術に酷似していたが、紋章は一切描いていなかった。


《魔族は人間では理解することの出来ない答えを知っておる。式が無くとも、答えを現すことが出来るのじゃ》


 魔族は人間以上の高度な知能を有している。更に魔族には特殊な力によって答えを知ることが出来る。


 故に魔族は紋章を介することなく術を発動することが出来るのだ。


 ブレアは一生懸命にメモを取りながら、白夜はそんな姿を眺めながら毛繕いをしていた。その姿は本当の猫にしか見えない。






「…………」


 ある部屋の前で二クラスが右手に何かを持ちながら、静かに侵入しようとしていた。


(正義の鉄槌を与えてやる!!)


 抜き合い差し足で扉へと近づいていく。


 二クラスが侵入しようとした部屋、そこはスレッドが休んでいる客室だった。


 ミズハの態度から、二クラスはスレッドがミズハを誑かしていると考えていた。確かに結婚騒動の際はスレッドに助けられた。


 しかし、それとこれとは別だ。


「…………よし!!」




「――――何をやっているのかしら、あなた?」


「うひゃあ!?」




 怒りの籠った問いかけに驚く二クラス。身体を硬直させ、恐る恐る後ろを振り返る。


 そこには、笑顔なのに怒りのオーラを纏ったリアナの姿があった。


「リ、リアナ!? どうしてここに…………」


「それは私の質問です。なぜ、そんなものを持って、ここにいるのです?」


「それは…………ミズハちゃんを誑かすあの男に鉄槌を加えるためだ!!」


 一瞬怯んだものの、ミズハの笑顔を思い出し、己を鼓舞する。その笑顔は幼い頃のものだが……。


「はあ…………何を考えているの。彼はあの子の大切な人。何かすれば、あの子に嫌われますよ」


「そんなことはない!! ミズハちゃんなら分かってくれる!!」


 おかしな方向に向かっている二クラスに、リアナは溜息をつかずにはいられなかった。まさか自分の旦那がこれほどまでにアホだったとは思っていなかった。


 ここは一度落ち着かせるしかない。


「セバス、お願い」


「畏まりました」


 突然二クラスの後ろにセバスが現れた。あまりに突然だったので、二クラスは反応することさえ忘れてしまった。


 呆然とする二クラスの襟元を掴み、持ち上げる。二クラスの身体は軽々と持ち上げられ、そのままの格好で運ばれていく。


「なっ!? 止めろセバス!!」


「申し訳ございませんが、それは出来ません旦那さま」


「お前はどっちの味方なんだ!!」


「勿論――――――――――――――――奥様に決まっております」


「この、裏切り者ーーーー!!」


 全く抵抗できずに、二クラスはセバスによって運ばれていった。


「全く…………困った人ですね」






《もう一つ例を示してやろう。カグラ家についてじゃ》


「聞いても、大丈夫なの?」


 ブレアは恐る恐る白夜に尋ねる。ミズハの許可も取らずに一族についてのことを聞いていいのか戸惑ってしまう。


 白夜は問題ないとでも言う様に頷いた。


《問題なしじゃ。主の母君に許可は貰っておる。気にせずともよい》


 この講義を行なう際に、何処まで話していいのかリアナに確認してある。リアナはブレアならある程度教えてもいいと考えていた。以前話した時にブレアの性格は把握したし、ミズハの仲間として信頼できると判断したのだ。


《カグラ家一族の力、あれも紋章術の一種じゃ》


「? でも紋章は無いし、カグラ家は人間だよ?」


 カグラ家一族の力『血の紅』。炎を自在に操り、炎の力を有した獣を生み出すことが出来る。


 これまでの戦いを思い出しても、ブレアが紋章を使用していたようにはみえない。ミズハも一族の力であり、紋章術であるとは言わなかった。


《カグラ家一族の血には炎の紋章の答えが刻まれておる。その答えは連綿と受け継がれ、一族の力となっているのじゃ》


 白夜が語るには、カグラ家初代当主は己の身体に炎の紋章を刻み込んだ。本来なら人間に紋章を刻むことはできない。紋章は世界に働きかける式であり、人間の身体では式から導きされる答えに耐えることが出来ない。


 しかし、初代当主は刻まれた紋章から発動する術を強引に抑え込み、答えを身体に刻み込ませた。


 理解された答えは血と遺伝子によって受け継がれ、体内の魔力と精神力だけで炎を操ることが出来る。


「なるほど…………」


 ブレアはメモを取らずに内容を頭の中に叩きこんでいく。聞いては良いとはいえ、記録には残せない内容だ。


《ふむ、少し休憩でもしようかのう》


「疲れたー…………」


 休憩という言葉を聞いて、ブレアは力なく上半身を机に突っ伏した。呼ばれたメイドはその姿を微笑みながら見つめ、お茶を入れるために部屋を出ていった。






「そういえば…………」


《ん? どうした?》


「白夜はどうしてそんなに色々知っているの? 生まれたのは昨日でしょ?」


 お茶が運ばれてくるまで、ブレアはずっと気になっていたことを質問した。


 白夜がこの世に顕現したのは、つい昨日の話だ。それなのにブレアに講義が出来るほどの知識を有している。


 更には経験したことが無いことまで知っているようだ。これまで話を聞いていて、不思議でならなかった。


《なんじゃ、そのことか。妾はカグラの炎から生まれた存在じゃ。故にカグラ一族全ての知識と我が主の知識を有しておる》


 白夜はミズハの炎が生み出した存在だ。これまでカグラ家に連綿と受け継がれてきた知識を有し、更にはミズハが生まれてからこれまでの経験もある。


 白夜の言葉を聞き、ブレアはニヤリと笑った。


「なら、ミズハの昔話も知ってるの?」


《勿論じゃ。まあ少しなら話してやろう。但し、主の不利になることは秘密じゃ》


 メイドがお茶を運んでくるまで、ブレアと白夜は昔話を楽しんでいた。



…………あれ? 一話で終わらなかった!?

ヤバい、ますます魔王領に行かなくなってる。


おそらく後二、三話で魔王領に行かせると思いますので、

少々お待ちください<(_ _)>

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