第百三十六話「決着」
えーここで謝罪したいと思います。
第131話のサブタイをつけたつもりでしたが、入力するのを忘れていたようです。
読者の方はあまり気にしていないと思いますが、
それでも入力を忘れていたのは僕の失態です。
さて、それでは本編をお楽しみください。
《何を呆けているのじゃ?》
「え、あ、その…………」
理解が追いつかない。確かに猫はミズハの中から生まれたものだ。それでも自分の肩に乗り、話しかけてくるとは予想もしていなかった。
「ふう…………あなたの名前は?」
いつまでも呆けているわけにはいかない。一息ついてから、猫に問いかけた。猫は綺麗な女性の声で答えた。
《妾には名前はない。故に我が主に妾の名前をつけてもらいたい》
「名前を…………」
猫の言葉を聞き、その姿に何かを思い出そうとしていた。しかし、すぐに思考は停止させられた。
「それじゃあ、そろそろ再開しましょうか」
「!?」
考え事をしていたミズハは、リアナの声に我を取り戻した。前を見ると、リアナが大きく右腕を横に振るった。
リアナの動きに合わせて、桜花が翼を羽ばたかす。猛スピードでミズハに迫り、このままでは危ない。
「くっ!?」
回避をしようと身体に命令するが、動きが鈍い。先ほどまで心を静め、余分な力を抜いていた為直ぐには動けない。
《仕方ないのう》
ミズハの動きを感じ取り、猫はミズハをサポートするために動き出した。
尻尾が二つに増え、一本がミズハの腰辺りに巻きついた。次にもう一本の尻尾を伸ばし、少し離れた木の幹に括りつけられた。
《着地は自分でお願いするぞよ》
「へっ? きゃあ!!」
猫は着地をお願いしながら、木の幹に括りつけた尻尾を勢いよく縮めた。ミズハの身体は尻尾によって引っ張られ、木に向かって飛んでいく。
このままでは木に激突する。猫の言葉を思い出し、空中で炎を展開させて体の向きを整える。脚を向かっていく木の方向に向け、足裏を氣で強化させた。
ゴン!!
鈍い音と共に足で木の幹を蹴りつける。勢いを殺したところで更に体勢を整え、木の枝に飛び乗る。
それまでミズハがいた場所に視線を向けると、桜花がミズハのいた場所を通り過ぎるところだった。
状況を確認したところで猫に話しかける。
「さすがに、今のは無いんじゃないか――――――――白夜」
《白夜?》
「あなたの名前。白い毛並みに微かに混じる紅を見て付けてみた。嫌だった?」
《ふふ、なかなか良い名前じゃ。感謝するぞ、我が主》
ミズハから貰った名前に喜ぶ白夜。喜ぶ姿を見ながら、ミズハも微笑んだ。
しかし、穏やかな雰囲気はすぐさま霧散した。
「まだまだ終わりじゃありませんよ。桜花!!」
《はいはい》
リアナは桜花に合図を送り、翼を羽ばたかす。翼から大量の羽がミズハに向かって飛んでいく。一つ一つに鋭い切れ味と、圧縮された炎が込められている。
全て直撃すれば命はない。
《ならば、これでどうじゃ》
白夜は尻尾を更に増やし、全部に9本になった。9本すべてを伸ばし、尻尾の先を刃に変形させた。
ヒュン!! ヒュン!!
変幻自在な動きで迫りくる羽を切り裂いていく。一つとして漏れることなく羽が破壊され、ミズハの眼の前で圧縮された炎が爆発を引き起こす。
爆発が広がろうとした瞬間、白夜は爆発を尻尾で覆わせ、そのエネルギーを自身の身体に吸収させた。
目の前にはまるで何事もなかったかのような空間が広がっている。
「すごい…………」
《この程度、妾にとっては朝飯前じゃ。それに妾の本質はこの様な曲芸ではない。妾の本質、それはブースターじゃ》
「ブースター?」
木の枝から地面に降りながら、ミズハは警戒を解くことなく白夜の言葉に首を傾げた。
《我が主の炎を増幅させるのじゃ。この様にのう》
そう言って白夜の身体が微かに光った。すると、ミズハの内にある炎が膨れ上がっていくのが分かる。
試しに炎を生み出してみる。生み出された炎はいつもより勢いを増し、更にはコントロールがし易くなっていた。
「これが、白夜の力…………」
《じゃが、気をつけるのじゃ。主の炎を増幅させただけで、決して増えたわけではない。おそらく次の一撃が最後になる》
白夜の力の本質は増幅だ。確かに炎の力はアップするが、決してミズハの炎の最大容量が増えるわけではない。
今までの戦いで力を大分消費した。本日炎を生み出せるのは、次の一撃が最後になるだろう。
《集中するのじゃ。コントロールは妾が補助してやろう。主は最高の炎を用意するのじゃ》
「…………分かった」
白夜の力強い言葉を聞き、ミズハは集中して炎を生み出した。一つの炎を生み出し、更にその炎に力を注ぎ込む。
いつもなら不可能なほどの力を注ぎ込んでも暴走しない。力の流れを白夜が補助して、更には白夜の力も入り込み、白い球体の炎が生み出された。
再び心を静めて、ミズハはリアナと桜花に視線を向けた。
「遠慮せずに来なさい。しっかりと受け止めてあげます」
「…………行きます!!」
リアナの喝にミズハは応え、しっかりと狙いをリアナに定めた。対するリアナも自身の意志を桜花に伝え、桜花の補助でリアナも炎を生み出した。そのスピードはミズハとは比べ物にならないほど早く。一瞬で真っ赤に燃えた炎の弾が空中に浮かんだ。
「…………」
「…………」
見つめ合った二人は、同時に炎を打ち合った。
勝負は一瞬で決まった。
ビーム状に放たれた二つの炎がぶつかり合い、激しい音と共に相殺された。衝撃が中心点から放たれ、暴風となって辺りの草木を揺らした。
ドサ!!
しばらく気力だけで立っていたが、ミズハは力を使い果たして前のめりで地面に倒れた。
「あらあら」
《ちょ、ちょっと!! 早く介抱しないと!!》
「何を慌てているの、桜花」
《あなたが落ち着き過ぎなんです、リアナ!! 心配じゃないんですか!!》
「私の娘ですよ。大丈夫に決まっているじゃない」
《はあ…………もういいです》
何処からそんな自身が出てくるのか不思議になるほどのリアナの態度に、桜花はもう呆れるしかなかった。
近くで控えていたメイドに指示し、ミズハを寝室に運ばせた。すぐさま多数のメイドと執事が現れ、丁寧な動きでミズハを運んでいく。
「それじゃあ、あなたも一緒に来てもらえるかしら」
《ふむ…………勿論、最高級のミルクを用意してもらえるのじゃろう?》
「ふふ、分かったわ」
リアナは白夜を肩に乗せながら、楽しく会話をしながら館に戻っていった。
やっとミズハの訓練が終了しました。
最後はブレアですが、訓練ではありません。
なんとか一話分で終わりたいところです。