第百三十五話「源の顕現」
「きゃあっ!?」
猛スピードで迫って来る炎の鳥を必死に回避する。万全な状態なら簡単に回避できるが、これまでの戦いで心身ともに疲労しているミズハでは何とか回避するのがやっとだ。
足がもつれて転びそうになる。だが、何とか踏ん張り、炎を操作してその場から移動する。
次の瞬間にはそれまでミズハがいた場所を桜花が通り過ぎ、そこに生えていた草が全て灰になる。
「はあ……はあ……」
先ほどから回避することしかできない。回避するたびに体力を消費させられ、防御のために纏った炎で精神を消費する。
ミズハは最早限界に近かった。
(どうすれば…………)
リアナは意志の強さが己の獣を顕現させると言った。しかし、何を強く思えばいいのか分からない。
それでも、このままでいいわけがない。
「…………」
ゆっくりと刀を鞘に納め、気持ちを落ち着ける。心の奥底に意識を向け、自分の力に問いかける。
(答えてくれ…………)
ミズハは静かに意識を内側に沈めていった。
意識を集中させているミズハを観察しながら、リアナはミズハを待っていた。
笑顔でミズハを見つめていると、何処からか声が聞こえてきた。
《娘に甘いですね、リアナ》
「当り前でしょ。可愛い娘ですもの」
背後で羽ばたいている桜花に視線を向けながら、リアナは聞こえてきた声に返事をした。
聞こえてくる声の正体、それはリアナから生まれた桜花だった。
桜花はリアナの炎の源だが、そこには意思が存在した。穏やかな女性の声が親しげに話しかけてくる。
《でも、上手くいくと思いますか?》
「大丈夫よ」
《その根拠は?》
「私の自慢の娘なのよ。上手くいくに決まってるじゃない」
《…………本当に親馬鹿ですね》
まるで失敗する訳が無いとでも自信満々に語るリアナに、桜花はいつものことかと呆れていた。
「…………」
外の情報を一切遮断し、内側のみに意識を向ける。意識は水の中を落ちていくように沈んでいく。
真っ白な中を真っ直ぐに落ちていく。何処まで落ちていくのか分からない。もしかしたら終わりなど無いのかもしれない。
《…………創造せよ》
(!?)
突然聞こえてきた声に驚くミズハ。その声はどこか聞いたことのある様などこか懐かしい声だった。
《…………炎を創造せよ》
(…………)
何者の声なのか分からないが、なぜか素直に従うことが出来た。
意識の中で更に集中するために目を瞑る。小さな炎を思い浮かべ、徐々に大きくしていく。大きくなった炎を圧縮させ、再び炎を大きくする。その作業を繰り返し、白っぽい炎が出来上がる。
ゆっくりと目を開けると、目の前に思い描いた白い炎が浮かんでいた。
《どうやら、認識出来たようじゃの》
(…………貴女は)
《妾はそなた、そなたは妾じゃ》
(貴女は……私……)
白い炎を見つめながら、ミズハは自分の中で炎を認識していく。その感覚を研ぎ澄ませていく。
《さあ、妾を顕現させよ》
ミズハの前に炎の塊が発現する。直径30センチほどの炎の塊は激しく燃え上がっている。
「…………」
ミズハはゆっくりと目を開く。目の前の炎の塊を確認し、心を落ちつけながら近づいていく。
球状の炎がはじけ飛び、中から白い何かが飛び出した。
「…………猫!?」
《そなたが我が主か》
炎から生み出されたもの、それは白っぽい炎の猫だった。
愛らしい瞳に柔らかそうな毛並み。炎で構成されているとは思えないほど、その姿は猫にしか見えない。
ミズハは呆然とその姿を見つめることしかできなかった。
そんなミズハを無視して、猫は軽やかな動きでミズハの肩に移動する。その仕草は本物の猫にしか見えない。
《うむ。よろしく頼むぞ、我が主》
「え、え、ええーー!?」
親しげに話しかけてくる猫に、我に返ったミズハは驚きの声を上げた。
…………あれ、この話数でミズハの話は終わるはずだったのに
終わらなかった(-_-;)
しかも、魔王領篇といいながら、全く魔王領に入ってない!!
ヤバい、このペースではいつまで経っても進みません。
後少し、後少しですので、ご勘弁ください!!
どうにかしますので。
と、いうわけで次もミズハの話になります^^;
できれば呆れずに読んでやってください。