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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第一章「アーセル王国」編
14/202

第十二話「クエスト達成」


 準備を整えたスレッド達は、依頼人である研究者がいる国立研究所にやってきた。


 国立研究所。ここでは国民の役に立つ様々な研究が行なわれている。紋章術、医療、科学と色んな研究が行なわれている為、研究所の広さは城の敷地以上ある。


 入口の衛兵に用件を伝え、紹介状を手渡す。


「研究員のブレドル・フォーラーですね。ご案内します。こちらへどうぞ。それと、申し訳ありませんが、当研究所への魔物の入所は出来ません。こちらでお預かりしましょうか?」


「……それじゃあお願いします。ライア、大人しく待ってろよ」


「ガウ!!」


 さすがに研究所に魔物を侵入させるわけにはいかないのか、衛兵がライアを預かることを提案する。

 スレッドとしては、衛兵とはいえ知らない人間に相棒を預けるのは躊躇われたが、無理を言うわけにもいかない。ライアに言い聞かせて、衛兵に預ける。


 衛兵に案内されながら、スレッドとミズハは依頼主の元へと向かっていった。




「初めまして。私が依頼人のブレドル・フォーラーです。よろしく」


 部屋に通され、出てきたのはぼさぼさの髪に丸眼鏡、よれよれの白衣を着た中年の男性だった。


 握手を交わし、差し出された飲み物に口を付ける。


「早速、依頼の品ですが…………」


 話を進めながら、ブレドルは机の上の書類を漁っていた。しかし、机の上がかなり散らかっているので、目的の書類がなかなか見つからない。


「うわぁ!?」


『…………』


 積まれていた書類がブレドルに向かって崩れ落ちてきた。一つ一つはそれほどでもないが、纏めて落ちてくるとかなりの重量になる。


「大丈夫か?」


「あはは、大丈夫。いつものことだから」


 書類の海から起き上がり、愛想笑いをしながら再び資料を探し出す。


「えー、これじゃない……これでもない……あ、あった!!」


 ようやく見つけた書類を嬉しそうにスレッドに見せてくる。そこには植物の絵と説明が書かれていた。


「こいつはシエルの実。首都の近くにある森に自生しているんだけど、魔物がいて僕じゃ取りに行けないんだ。見ての通り、僕は運動が全くできないからね」


 苦笑いを浮かべるブレドル。確かに見た目だけで判断したら、歩いているだけで倒れてしまいそうなほど貧弱に見える。

 先ほどの書類の海からすぐさま復活したことからそこまで弱くはないだろうが、それでも魔物のいる森から帰ってくることは出来ないだろう。


 そこでブレドルはクエストを発注したのだ。


「よろしくお願いします」


「承りました」


 こうして、スレッドの最初のクエストが始まった。






 翌日装飾店にミズハの防具を受け取る。受け取る際、クリスの眼の下には隈が出来ていた。

 クリスに感謝しながら、スレッド達はシエルの実が自生しているという森へと向かった。


 初めは空を歩いていこうとしていたスレッドだが、森までは歩いてもそれほど時間が掛からないこと、さすがにあの恐怖はもう味わいたくないことから、ミズハが却下した。


 そして森へ到着した。


「この森か……」


「この森の魔物はこちらから攻撃を加えない限り、基本的には人間を襲ってこない。初心者にはうってつけの場所だ」


 首都から徒歩で一時間ほどのこの森は、冒険者になりたての初心者が初めて訪れる場所といっていいほど安全な森といわれている。

 凶暴な魔物も存在せず、様々な果物などが溢れて、川があって水にも恵まれているので、遭難しても生き残ることが可能だ。


 スレッドはブレドルから渡されたシエルの実が描かれた紙を取り出し、それをライアに見せた。


「ライア、こいつを探してくれ。出来るか?」


「ガウ!!」


 絵をしっかりと確認し、ライアは自信満々に吠えた。

 ライアの頭に手を置き、意識を集中させる。ライアの身体が光り輝き、鷹へと身体を変化させていく。


 鷹の眼は人間の数倍はあるとされている。その視力を持ってすれば、空から簡単にシエルの実を見つけることが出来るだろう。

 そして見つけた個所をスレッドに教え、スレッドがそれを回収する。


「よし、行くか!!」


『ああ(ガウ)!!』


 スレッド達はシエルの実を求めて、森の奥へと進んでいった。






「ピー!!」


「いいぞ、ライア。これで七個目だ」


 上空から発見したライアの報告を受け、その場所へと急行する。手に平大のシエルの実を手に入れる。


 シエルの実は魔物に食べられない為に草木の間に隠れる様に自生している。その為発見するのがなかなか困難な植物である。

 目印となるものがあるわけでもなく、特殊な匂いを発しているわけでもない。目を凝らして探してみても、素通りしてしまうことはしばしばだ。


 だが、鷹に変化したライアの視力を持ってすれば、発見することはたやすい。


 これまで発見した七個のうち六個がライアの発見した数である。


「さすがだな。私は未だに一個も発見できないよ」


 森の奥から戻ってきたミズハ。所々汚れているが、見た目に反して成果は一個もなかった。それほどまでに難しいのだ。


 空から戻ってきたライアはスレッドの横に狼の姿に戻って降りたった。


「ふっふっふ、ライアは優秀だからな。この位楽勝さ」


「ガウ♪」


 主人と相棒は胸を張って答える。なんとなく微笑ましい2ショットにミズハは苦笑いしていた。


「ガサッ」


『ッ!?』


 ほのぼのした雰囲気が流れる中、近くで何かが動く音がした。


 気を引き締めて、戦闘態勢に入る。


「頭ぁ、獲物がいるぜ」


「へへ、女がいるぜ」


 草木の間から出てきたのは、手に武器を持ち、小汚い下卑た笑みを浮かべた男達が現れた。そして、その後から大剣を背負った大柄の男が現れた。


 どこからどう見ても、盗賊にしか見えなかった。


「おい、お前ら。金目の物を置いてけば、命だけは助けてやる。但し、女は置いてって貰うがな」


『…………』


 あまりにもお決まりの展開に、スレッドもミズハもライアでさえも呆れたように眺めている。


 この森には幾つかの盗賊団が存在した。だが、数年前に一人の男が現れたことで状況が一変した。

 大剣を持った大男は、圧倒的な破壊力で盗賊団をねじ伏せ、一つにまとめ上げた。

 その後組織的に商人などを襲い、その規模を拡大していった。今では大男は賞金首に指定されている。現在の賞金額は銀貨5枚。それなりの賞金首ではある。


 現在では騎士団が動き出そうとしているという噂もある。


「恐怖で声も出ないか? はっはっは!!」


「…………馬鹿?」


「うーん……」


 一流の戦士は、相手を見ただけで自分との実力差を知ることが出来る。スレッドは目の前の男が自分より遥かに格下であることを理解していた。高笑いしている間に数回は倒すことが出来るほど隙だらけだ。

 その為、自信満々の男に対して、ついつい本音が出てしまった。ミズハも肯定しようか悩んでしまう。


「……どうやら死にてぇみたいだな」


 スレッドの言葉に怒りを覚えた大男は大剣に手を掛ける。つたない殺気を垂れ流しながら前に出ようとする。


「ふむ…………ライア」


「ガウ!!」


 スレッドの声に反応して、ライアが大男の周りにいる部下に襲いかかる。


「ギャア!?」


「ぐべっ!?」


 部下はライアのスピードに対応することが出来ずに、命を狩り取られていく。ある者は喉笛を咬み切られ、またある者は頭を噛み砕かれ、大男以外は全て絶命した。


「なっ!?」


「ミズハ、賞金首は生かして引き渡さないといけないのか?」


「凶悪な賞金首なら生死問わずだが、この程度なら生かして引き渡さないと賞金が半額になってしまう」


「そうか。なら動けなくすればいいか」


「てめえら、ふざけるんじゃ……ッ!?」


 大声を上げて向かってくる大男。だが、その動きは途中で止まってしまう。


 目の前に一瞬にして現れたスレッドに、背負った大剣の柄に手を掛けたまま固まる。

 瞬きする間もなく、スレッドの拳が大男の身体を打ち付ける。魔物を殴り殺すほどの威力があるスレッドの拳は、大男の関節の骨を砕き、行動不能に追いやっていく。


「――――!?」


 大男はあまりの痛みで声にならない悲鳴を上げる。そして関節を破壊されたことで立てなくなっていた。


「こいつもついでだ」


 ゴキ!!


 手刀で大男の喉を潰す。それによって大男は悲鳴を上げることすら出来なくなった。


 スレッドとしては、犯罪者に情けを掛けるつもりは全くない。彼らはこれまで善良な一般人を襲ってきた。自分達だけ特別だなどと言わせるつもりはない。犯罪者に人権はないのだ。

 それにここで見逃せば、必ず後で報復を行なうだろう。その際にスレッド達以外の人間がいないとも限らない。


 だからこそ、ここで徹底的に叩きのめすべきなのだ。


「よし、連れていくぞ」


「ガウ!!」


 ズルズル。ゴン!! ガン!!


「……スレッド、ライア。さすがにそれはどうかと思うぞ」


 スレッドとライアが両足を持って、大男の身体を引き摺っていく。その際、時たま木々に身体をぶつけるが、気にせず引き摺られていく姿にミズハは同情を禁じ得なかった。




 シエルの実を10個集め終え、街に戻ってきたスレッド達は、門番に賞金首の身柄を預け、賞金首を捕まえたという証明書を受け取った。


 その足でブレドルを訪ねて、シエルの実を手渡した。

 目的の物を手に入れた喜びではしゃぐブレドルが落ち着くのを待ち、クエスト達成の証明書を受け取った。


 二つの証明書をギルドの受付に渡し、クエストと賞金首の報酬である銀貨6枚を受け取った。


「……はい、こちらが新しいギルドカードになります」


「ありがとう」


 スレッドは賞金首を捕まえたことでギルドランクがFからEにランクアップした。


 ポイントは賞金首を捕まえることでも加算される。捕まえた男はランク的には高くないが、クエストを達成したポイントと合わせることでランクアップまでのポイントに到達した。ランクが上がったことにより、ギルドカードも更新された。


 対応した職員は、登録して次の日にランクアップしたスレッドを珍しそうに見つめていた。

 これほど早くランクアップした冒険者は珍しいのだ。


 こうして、スレッドの初めてのクエストが終了した。


「これで終了だ」


「そうか。これからどうすればいい?」


「次のクエストを受けてもいいし、今日は帰ってもいい」


 クエストは一日で終了するものもあれば、数週間に渡って行なうものもある。ランクFやEでは大体が一日で終わる。対してランクB以上は必ず数日はかかってしまう。

 その為ランクが低い場合は、一日に何個も受ける冒険者もいる。だが、低ランク者はそう何個も受けられるほどの体力はない。


 故にランクFからEになるには最低数日は掛かる。


「ランクアップしたんだ。せっかくだからもう一つ受けていくか……」


 次のクエストを探そうと掲示板に近づく。スレッドとミズハは真剣に話しながらクエストを選んでいく。


 こうしてスレッドは冒険者としての道を進んでいった。



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