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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第七章「日常」編
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第百二十九話「格の違い」


 バルドールはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら、スレッド達を観察している。


「それにしてもラッキーだ。あいつらが言っていた人間が見付かったんだ。こいつらの首を持って帰れば俺も爵位持ちになれる」


 先ほどまでのスレッド達の戦いを隠れて観察していて、その際にスレッドの合体紋章を目の当たりにしていた。


 合体紋章は特殊技術だ。やろうとしてやれるものではない。おそらく人間の中で現在習得しているのはスレッドだけだろう。


 人間が合体紋章を使用出来ることに驚いたが、それ以上にバルドールは狂喜した。ノアやラファエーレから教えられていた人物と合致したのだ。


 ノア達はスレッドを警戒していた。合体紋章もさることながら、その実力は魔族に匹敵する可能性があるからだ。


 そんなスレッドの首を持ちかえれば、バルドールは下級とはいえ爵位が与えられるはずだ。喜ばずにはいられない。


「その前に――――」


「――――!?」


 バルドールは紋章を展開させ、紋章から黒い影の帯が飛び出した。帯は地面に横たわっているバブルリザードに向かっていき、その胴体に突き刺さる。簡単に突き刺さった帯はバブルリザードから魔力と生命力を奪っていく。


「なっ!?」


「ふむ、4匹もいるとなかなかだな」


 バブルリザードはみるみる衰弱していく。身体の表面から水分が無くなっていき、数分後には魔力と生命力を全て奪われ、干乾びていった。


「…………どうして、殺した」


「ん? どうしてだって? 勿論俺の為だ。お前達の首を狩り取るための糧だ」


 ヴィンセンテの震える声で尋ねた言葉に、バルドールは無感情で答える。その答えはあまりにも身勝手なものだった。


 誰もが身勝手なバルドールに対して怒りを覚える中、一番怒りを覚えていたのはヴィンセンテだった。


 殺気を放ちながらバルドールを睨みつけ、今にも飛び出しそうなほど大剣の柄を握りしめていた。


「……人間というのは分からないな。何を怒ることがある? 魔物が死んだだけだろう」


「貴様ー!!」


 両手で大剣を振り上げ、バルドールとの間合いを詰める。氣で強化させた大剣をバルドールに振り下ろす。


「ッ!?」


「…………この程度か」


 しかし、大剣はバルドールを斬ることはなかった。ヴィンセンテの大剣は片手で受け止められ、つまらなそうにヴィンセンテの姿を眺めていた。


 どうにかバルドールにダメージを与えるために、ヴィンセンテは大剣に力を込める。だが、大剣はびくともしない。


 腕に大量の魔力を纏わせ、バルドールは軽く腕を押し出した。


「うわっ!?」


 ヴィンセンテはスレッド達がいる場所まで吹き飛ばされ、スレッドに受け止められた。


「これが魔族と人間の格の差だ。分かったか、雑魚が」


 吹き飛ばしたヴィンセンテの姿を見下しながら、バルドールは吐き捨てる様に宣言した。


「…………ふう」


「ぶっ!?」


 ゴォン!!


 軽く息を吐いたスレッドの姿がぶれて、次の瞬間にはバルドールの顔面をぶん殴っていた。魔族すら反応することの出来ないスピードで移動し、スレッドは全力でバルドールを吹っ飛ばしたのだ。


 バルドールは地面に転がり、痛みを発する顔に手を当てた。自分の顔を殴られたことを認識し、バルドールの姿を見下ろしているスレッドを睨みつける。


「起きろ、雑魚。格の違いを教えてやる」


「この…………人間風情が!!」


 スレッドの言葉に怒り狂ったバルドールは、全身から制御されていない魔力が噴き出す。あまりに濃い魔力で、周囲のマナが渦巻いていく。これでは上手く術を発動させることが出来ない。


 クイ、クイ。


 向き合うだけで普通の人間なら気絶してしまいそうな魔力を目の当たりにして、スレッドは更に挑発するかのように右手で手招きをする。


 その仕草にバルドールは更に怒りを覚え、猛スピードでスレッドに迫る。


 手招きを合図に戦いが開始された。






 バルドールは低級とはいえ魔族だ。魔族と魔物では越えられないほどの壁があり、天災級の魔物であっても、低級の魔族すら決して敵わない。


 魔族は魔物と違い、絶大な魔力を保有している。その量は魔物や人間では持つことの出来ないほどの量であり、大量の魔力だけで強化された魔族に勝てる者はそういない。


 なのだが…………。


「オラオラオラ!!」


「…………」


 一発一発が人体を破壊するほどの威力のある拳繰り出すバルドールに対して、スレッドは顔色一つ変えることなく回避していく。その動きに無駄は無い。


 ヴィンセンテほどではないが、スレッドもバルドールに怒りを感じている。


 怒りという感情は動きを鈍らせ、動きに無駄が生じてしまう。怒りは戦いに置いて不必要なものだ。

 一流の冒険者が怒りでクエストを失敗することがあるほどだ。


 だが、スレッドは怒りすらも力に変える。どんどん動きを研ぎ澄ませていき、余裕で回避しながらバルドールに近づいていく。


「はあ!!」


「ぐふっ!?」


 バルドールの攻撃を掻い潜り、拳を腹に突き刺す。あまりに重い攻撃にバルドールは悶絶し、前のめりに崩れる。


「ぶっ!?」


 前のめりに倒れてくるバルドールの顔面に膝蹴りを入れる。間抜けな声を上げながら、バルドールは空へと回転しながら飛んでいく。


「もう一つおまけだ!!」


「ぐえっ!?」


 回転するバルドールの背中に蹴りを放つ。まるで背骨を折る勢いで背中に蹴りを入れ、バルドールの身体を簡単に吹き飛んでいく。


「オラオラオラッ!!」


「ぶべ!!」


 幾つもの風の刃を纏わせた拳を繰り出していく。一撃ごとにバルドールの身体が引き裂かれ、ダメージを与えていく。


「ふん!!」


 最早抵抗する力が無くなるほどにぶん殴り、最後の拳で圧縮させた空気の塊を強打させる。そのまま更に吹き飛び、身体をきりもみさせながらバルドールは空を舞う。


 飛んでいくバルドールに高速で近づき、頭を鷲掴みする。


「これが、格の違いだ」


 強力な雷の紋章を展開させ、力任せに空へとバルドールの身体を放り投げる。軽々飛んでいくバルドールに紋章を向ける。


 ただ投げられただけなら、バルドールでも簡単に回避することは出来ただろう。しかし、スレッドが頭を鷲掴みにしている間、強引に氣を送り込んでバルドールの氣を乱し、動けない様にしていた。


 バリバリバリ!!


「ウオォォォォ――――…………」


 激しい雷がバルドールを襲い、辺りの光に包まれる。バルドールの悲鳴が徐々に小さくなり、完全に聞こえなくなった。


 光が納まり、バルドールがいたであろう場所を確認すると、塵が空を舞っていた。魔族とは言え、数億ボルトに達する雷はバルドールの細胞すらも破壊し尽くした。


 バルドールが散った光景に興味を無くし、スレッドはミズハ達の元に歩いていった。



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