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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第一章「アーセル王国」編
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第十一話「紋章武器」

「それじゃあ、また来てね」


 クリスに別れを告げ、装飾店を後にする。


 ミズハの防具は次の日に仕上がることになった。

 本来なら二、三日掛かるのだが、クリスの頑張りのおかげでたったの一日で出来上がる予定だ。


 その足で宿屋に戻り、部屋へと入る。スレッドは荷物から工具を取り出し、準備に入る。


「どうするんだ?」


「俺がこいつに紋章を刻み込む。リクエストはあるか?」


「なっ!? 刻みこめるのか!?」


 部屋の真ん中にある机を端に移動させ、準備を進める。これからの作業にはそれなりのスペースが必要になる。


「紋章術師だからな。よほど複雑な紋章で無ければ問題ない」


 紋章武器は紋章術師が刻み込む。それが基本である。


 しかし、紋章術師であるからといって、誰でも刻みこめるわけではない。武器や道具に紋章を刻み込むには相当な技量と特別な才能が必要となる。

 特に才能がなければ、決して刻むことが出来ないのだ。


 だが、スレッドはこれまで他の紋章術師に会ったことがなく、紋章術師なら誰でも刻みこめると勘違いしていた。


 スレッドは自分の荷物から四角い箱を取り出した。箱を開けると、先の尖ったペンの様なもの数本とモノクルが入っていた。


「で、何の紋章にする?」


「そうだな……ガルの紋章なんてやっぱり難しいだろう」


 ミズハは無理だろうと思いつつも提案してみる。


「ん、大丈夫だ」


「うん、やはり難し……って、できるのか!?」


 驚いているミズハをよそに、スレッドは紋章を刻み込む準備を始めた。


 どうしてこれほどまでにミズハが驚いているのか。その理由は、紋章の難易度にあった。

 紋章術は属性によって難易度が変わる。フレイムウォートアースウイング身体強化スルは難易度が低い下位紋章であり、対してルクスダークボルト重力ガル治癒キュアの五つは難易度が高い上位紋章である。


 ミズハが要求した上位紋章であるガルの紋章を大丈夫と答えるスレッド。それによってスレッドの実力の高さが窺える。


 刀を分解していく。刀身と柄を切り離し、茎部分に古代文字を彫っていく。一般人が見ると、何を書いているのか全く分からない文字が綺麗に描かれていく。

 彫り終わると指先に集めた魔力でマナを集めながら床に紋章を描いていく。円を描き、その中に古代文字を書き記す。その内側に円を描き、更に古代文字を書く。この作業を繰り返し、最後に六芒星を描く。

 魔力とマナが混じり合い、淡い青い光を床から放っている。


 描き上がった紋章の上に刀身を乗せる。


「下がって」


「分かった」


 ミズハを一歩下がらせる。


 床の紋章に指先を触れ、意識を集中させる。意識を集中して、紋章術を発動させる。

 それまで無属性だった紋章が変化し、重力の紋章へと変化する。変化した紋章は茎部分に刻まれた古代文字へと吸い込まれていった。


 刀身に魔力を通し、軽く発動させて確認する。刀身と刀身の周りの重力が増し、上手く刻みこめたことを確認した。


 紋章の刻み込みが終了し、刀を組み立てる。


「……簡単そうに見えるな」


「他の奴はどうか知らないが、俺にとってはこの程度なら簡単に出来るさ」


 目貫を木槌で叩き、目算で微調整していく。その様子は熟練した職人のようだ。


 鞘にも同じように古代文字を刻み、先ほどとは違う紋章を刻み込む。


 鞘には刀の紋章を抑えること役割を持つ。戦闘中以外で紋章術が誤発しないように作用する。その為必ず鞘にも紋章を刻まなければならない。


 鞘に納めたり、抜いたりしながら確認する。また、紋章術による刀身の変形が無いかも確認する。

 素材によっては、紋章術による形の変形が生じる場合がある。紋章との相性もあり、発動するたびに武器が崩壊していく事もあるのだ。


 全てにおいてクリアした。そのまま刀をミズハに持たせる。


「よし。ミズハ、これを持ってくれ」


「ああ」


 刀を持たせ、ミズハの手に添える。


「ス、スレッド!?」


「静かに」


 突然のことに顔を真っ赤にして慌てる。

 だが、スレッドは真顔で集中している。それを見てミズハもなんとか心を落ち着かせる。


 次の瞬間、刀全体が光り出した。数秒間刀は光り、徐々に収まった。


 再び刀を色んな角度から確認し、全てが完了した。


「完了だ。刀自体にミズハを登録した」


「ありがとう」


 自分の新しい武器を嬉しそうに眺める。その姿は新しいおもちゃを与えられた子どものようだ。


 紋章武器は紋章を刻み込んだだけでは完成しない。刻み込んだ紋章と使用者の魔力を同調させることで、使用者のみが使えるようにしなければならない。

 実際に店で売っているような武器の場合、誰でも使用できるように登録する。そうすることで登録を省略することが出来る。

 だが使用者登録しないと、紋章武器との同調が万全に出来ず、紋章の力を十分に引き出すことが出来ない。


 だからこそ、使用者との同調が必要なのである。


「力は中位程度。だが、上位紋章だから訓練が必要だ」


「確かに、発動していないのに違和感が否めないな」


 替えたばかりの刀だからというわけではない。軽く振ってみると、身体に違和感がある。


 これまで使用していた刀には、身体強化の紋章が刻み込んであった。下位の紋章とはいえ、身体を強化することで刀を振り易くもしていた。


 だが、今刻まれた紋章は重力の紋章。発動していないが重力に干渉している感覚がある。どうしても違和感を覚えてしまう。


「慣れるまでは戦闘で紋章術を使用しないように」


「ああ。今度特訓に付き合ってもらえるか?」


「俺でよければ。ついでにライアも手伝ってくれるよ」


「ガウ、ガウ!!」


「は、はは。お手柔らかに頼むよ」


 張り切ってじゃれあってくるライアに、一抹の不安を感じてしまう。鋭い牙や爪は意外と恐怖を感じてしまうのだ。




備考

なかご:刀身の柄に被われる部分のことです。


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