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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第七章「日常」編
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第百二十二話「共闘」


 ヴィンセンテに助っ人を頼まれたスレッド達だったが、ミズハ抜きに話しを進めるわけにはいかず、一旦ミズハを迎えに行くために宿屋へと戻った。


「ヴィンセンテ、だって…………」


「クエストを手伝って欲しいらしい」


 ヴィンセンテの名前を聞き、ミズハは微妙な表情を浮かべる。


 結婚騒動時のヴィンセンテには大変助けられたが、それまでの行動がミズハの中で思い出され、どうしても良い思い出が無い。

 スレッドはミズハのヴィンセンテに対する嫌悪で微妙な表情を浮かべていると考えていた。


「まあ、以前の態度を思い出すと嫌かもしれないが、今は大丈夫だと思う」


 酒場で少し話しただけだが、以前とは違い爽やかな青年にしか見えなかった。演技ということを完全には否定できないが、そのような感じには思えなかった。


 スレッドの話しを聞いていたミズハだが、ミズハの視線はある一点に集中し、話半分で聞いていた。


「…………スレッド、一つ聞いていいか?」


「ん、なんだ?」


 ミズハはブレアに近づいていき、ブレアの胸元にあるペンダントを見つめていた。


「ブレアが着けているペンダントは何だ?」


「え、あー、その…………」


「♪~~~~」


 狼狽するスレッドに詰め寄るミズハ。そんなミズハにペンダントを見せつける様に鼻歌を歌うブレア。


 スレッド達が酒場に向かったのは、それから一時間後だった。






 ミズハとライアを連れて、スレッド達は再び酒場に戻ってきた。


「やあ、久しぶりだね」


「…………どうも」


「嫌われてるわね」


「あはは、色々あったからね」


 ミズハの素っ気ない態度に皮肉を述べるナディーネに苦笑するヴィンセンテ。スレッド達三人は椅子に座り、ライアは床へ横になった。


 店員がびくびくしながら近づいてくる。今度はどれだけ注文するのかと戦々恐々している様だ。


「それぞれに飲み物と軽く摘めるものを数点頼むよ」


「畏まりました」


 ヴィンセンテの常識内の注文にホッとする店員。そんな態度にスレッドとブレア以外に笑いが起こる。そのことが場の雰囲気を多少明るくした。






「さて、本題に入ろうか」


 結局つまみでは足りなかったスレッドとブレアが常識の範囲内で注文を行ない、食事を終えてからの話し合いとなった。


「僕たちは今ある魔物の撃退クエストを受注しているんだが、僕達だけでは手が足りなくてね。そこで君達に手伝って欲しいんだ」


「ある魔物?」


「バブルリザードさ」


「バブルリザード? しかし、あの魔物は――――」


「そう、比較的温厚な魔物で、人間を襲うことはそうそうない」


 ヴィンセンテが発した魔物の名前を聞いて、ミズハは首を傾げる。




 バブルリザード――――水の中で生活している巨大なトカゲの様な魔物だ。温厚な魔物で、殆どの時間を水中で生活する。水の中に住んでいる生物や植物を食べ、のんびりゆったりと暮らしている。




「しかし、出産期になると話しは別だ。バブルリザードは出産のために栄養を取るために水上に上がり、人間の畑を荒らす。それも大規模にだ」


「その規模は飢餓で人を死なせてしまうほどの被害があるの。だからこそバブルリザードの出産期にはギルドに依頼が入る」


 バブルリザードはドラゴン種に匹敵するほどの巨大な身体を持っている。その身体に十分な栄養を補給するためには、大量の餌が必要になる。


 水の中にある生物や植物だけでは足りず、出産期のみは水の中から姿を現す。また、出産による体調の変化から、バブルリザードは気性が荒くなっているのだ。


「バブルリザードの出産期はある一定の期間だと研究で裏付けられている。その期間終了までに村を護りきればクエスト成功だ」


「…………他の冒険者は出動しないのか?」


 どれほどの量かは分からないが、ここにいる五人と一匹だけで対処できる数とは思えない。


 スレッドの疑問にヴィンセンテは頷きながら答える。


「勿論他の冒険者も他の地域で出動するが、バブルリザードは高ランクの魔物だ。誰でも戦えるわけじゃないから、この地域で戦える冒険者は少ない」


 気性が荒くなったバブルリザードは特殊な能力を使い、目に見える生物を無差別に襲う。その攻撃に対処するのは難しく、低ランクの冒険者では足手纏いになってしまう。


「僕達に与えられたノルマは3体。既にギルドが情報網を駆使して、北西にある村に近づいてきているバブルリザードがいることを確認している」


 なぜかは分からないが、世界各地に分布しているバブルリザードの出産時期は全て一致している。

 その為、各国が対策をとり、出産期になると情報を密に交換しているのだ。


「そういうことで、ぜひ君達の力を貸してほしいんだ。君達の実力なら、安心して背中を任せられる。勿論、十分な謝礼は払う。といっても、クエストの報酬からになるけどね」


「…………」


 真剣な表情でスレッドの目を見つめるヴィンセンテ。スレッドは両隣のミズハとブレアを見るが、二人ともスレッドに任せると言わんばかりに頷く。


 スレッドは目を閉じ、しばし考える。そして、目を開けて右手を差し出した。


「分かった。協力しよう」


「助かるよ」


 ヴィンセンテも右手を差し出し、二人は握手を交わした。






「それじゃあ、準備が出来たらここに書いた場所に来てくれ」


 村の名前を場所が書かれたメモを置き、代金を置いてヴィンセンテとナディーネは酒場を出ていった。


「よかったのか、引き受けて」


「大丈夫だろう。今のヴィンセンテなら信用出来る」


 彼らに協力すること簡単に了承したスレッドに問いかける。スレッドに任せたとはいえ、今のスレッドは病み上がりの状態だ。高ランクの魔物との戦いはあまり好ましいとは思えない。


 ブレアもミズハの意を読み取り、心配そうにスレッドを見つめている。


 スレッドは拳を握りしめ、笑顔で二人の心配に応える。


「体調も万全だ。そろそろ強敵と戦いたいところだ」


 獰猛な笑みに二人は呆れて溜息を洩らす。戦闘狂とまではいかずとも、あまり戦闘を楽しんでいるようでは困る。


「さて、次のクエストが決まったし…………食べるか」


「おー」


「ワウ!!」


「おいおい…………」


 再び食事を開始しようとする二人と一匹を呆れながら止めるミズハが連れて酒場を後にした。

 スレッド達が去っていった酒場の店員は、やっと一安心していた。


 こうして、次のクエストはヴィンセンテ達との共闘に決定した。



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