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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第七章「日常」編
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第百十九話「ミズハとのデート」


「スレッド、その…………」


「? どうした、ミズハ?」


 スレッドが木の陰で休んでいたところにミズハがやってきた。ミズハはいつもと違いどこか落ち着きが無く、話す内容もはっきりしない。


 いつもと違うミズハの様子に首を傾げながらも、スレッドはミズハの言葉を待った。


「あー、その、あの…………」


「ん?」


「私と、劇を観に行かないか!!」


 ミズハは顔を真っ赤にしながら、スレッドをデートに誘った。






「…………動き難いな」


「なかなか似合ってるじゃないか」


「むー…………」


 苦しそうにネクタイを締めているスレッドの姿を見て、カロリーナは笑い、ブレアはむくれていた。


 ミズハがスレッドを劇に誘った翌日、スレッドは正装をして観劇に行く準備を行なっていた。


 二人が観に行く劇場はそれなりに有名な場所で、いつもの服装では入ることすらできない。しかし、スレッドがいつもの服以外を持っているわけがない。

 そこで、スレッドもミズハも服を借りて出掛けることになった。


 二人がデートに出かけることを知ったブレアはどうにも納得がいかずに不機嫌そうに二人の様子を眺めていた。


「お、お待たせ」


「ん、用意出来た、か…………」


「こっちは見事なもんだね」


「うっ…………」


 奥の部屋から現れたミズハは真っ赤なドレスを着て、髪を結いあげている。薄く化粧を施し、小さいけど存在感のあるアクセサリーがミズハの美しさに華を添えていた。


 思わずスレッドは言葉を無くし、カロリーナは見事な変身に感心し、ブレアはミズハの綺麗な姿に呻いた。どうあっても今のミズハにブレアは太刀打ちできない。貴族の娘であるミズハには言い知れぬ風格の様なものが感じられた。


 こうしてデートの準備が整った。二人の間にデートという共通認識があるかどうかは別だが。






「私を連れて行って!!」


「冒険者というものは危険だ。それでも…………」


「構わない!! 貴方と一緒に行きたいの!!」


『…………』


 舞台の上で役者が華麗に役を演じる。その演技に誰もが心奪われ、息を飲んで劇に見入っている。


 ここはアーセル王国首都モルゼンの貴族街にある劇場。多くの裕福な貴族や冒険者等が観劇に赴き、年に数回行なわれる劇を楽しんでいる。


 ミズハも実家で冒険者になる前に数回観劇に訪れており、そのつてで今回劇のチケットを手に入れられたのだ。


「…………」


「…………」


 スレッドとミズハも周りの観客の様に静かに劇を見入っていた。特にスレッドは劇など初めてで、役者の激しい動きと声を聞き、心震わされていた。


 劇は数時間に渡って行なわれ、劇場を出る頃には辺りはすっかり暗くなっていた。






「どうだった、スレッド?」


「ああ、とても面白かったよ」


 劇場を後にした二人は、月の光が降り注ぐ街中を歩いていた。


 二人が見た劇は貴族の令嬢と冒険者の男性の物語だった。箱入りで育てられた貴族の令嬢がある日、冒険者の男性と出会う。様々な冒険話を聞き、令嬢は外の世界に憧れる。そして、いつかは自分も外の世界を旅したいと思い始める。


 しかし、そう簡単にはいかない。貴族の娘では外の世界に出かけるなど両親が許さない。それでも外を旅したい貴族の令嬢は冒険者の男性に外に連れ出してくれるようにお願いする。


 様々な困難を乗り越え、貴族の令嬢と冒険者の男性は手を取り合いながら外の世界に旅立っていった。


 この劇は賛否が分かれている。貴族の令嬢達には大人気で、外の世界に旅立つ姿を自分と重ね合わせている。

 だが、令嬢達の親はうっとりと劇を観ている娘を見て、苦虫を噛む様な表情を浮かべている。まさかとは思うが、劇に影響されて外に出ようとするかもしれないからだ。


 また令嬢と冒険者の恋もこの劇の見どころで、冒険者と結婚するなどと言わないか心配が絶えない。


「どうしても、考えさせられるものがあったな…………」


 ミズハは空の月を見上げながら、昔を懐かしみながら呟いた。


 大貴族であるカグラ家の娘ミズハ。ミズハが冒険者になることを誰もが反対した。それでもミズハは反対を押し切り、家を飛び出した。


 自分の決断に後悔はしていないが、それでもあの時の両親の顔を思い出すと少しだけ心が苦しくなる。


 少し寂しそうに歩くミズハにスレッドは何かを思い出す様に声をかけた。


「…………“俺が君を護るから”」


「!?」


 突然のセリフに驚くミズハ。いつものスレッドでは考えられないキザなセリフにどうしたのかと心配になってしまうほどだ。


 そこで、ミズハは思い出した。スレッドの発した台詞は、先ほどまで観ていた劇のセリフだ。冒険者の男性が貴族の令嬢と旅に出るシーンでの会話だ。


 劇の場面を思い出し、クスッと微笑みながら続きを演じ始めた。


「“私は護られるだけの女じゃないわ”」


「“それでも、君を護りたいんだ”」


「“なら、護られてあげる。だから――――しっかり護ってね、王子様”」


 笑顔でスレッドに近づき、静かに目を瞑る。スレッド達が観た劇はこの先二人が口づけを交わして終了する。


 少し上を見上げる様に立ち止まるミズハの肩を掴み、ゆっくりと顔を近づけていく。


「…………」


「…………」


 いつものスレッドでは考えられない行動。雰囲気に酔っているのか、躊躇いなくミズハへの距離が縮まっていく。




「コホン!!」


『っ!?』




 後少しで二人の唇が触れるところでブレアの咳払いが聞こえ、二人は瞬時に距離を取る。


「…………迎えに来た」


「ブレア、これは、その!!」


 なかなか帰ってこない二人にブレアはしびれを切らしてライアを連れて迎えに来た。二人の姿を探していると、月の光の下で近づく二人を見つけて、思わず邪魔をしてしまった。


 ジト目で二人を見るブレアにミズハは必死に説明しようとするが、さっきまでのことを思い出してなかなか言葉が出てこない。


 弁解しているミズハとは対照的に、スレッドは黙ったまま右手で胸を押さえていた。今まで味わったことのないドキドキが胸の奥にある。


 ブレアが尋問し、ミズハが弁解する。スレッドは自分の胸の中にある熱い何かについて考え、ライアはやれやれといった感じで首を振っている。


 こうしてスレッドとミズハのデートは騒がしくも楽しく終わっていった。



いかがでしたでしょうか?


皆さん予想しているかもしれませんが、

次の話はブレアとのデートの話になる予定です。

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