第百十八話「ライアの変化」
「よし、ライア。競争だ」
「ガウ!!」
スレッドは合体紋章を発動させ、ライアと共に駆け出す。視界に映し出される景色は次々と変わっていき、まるで早送りの映像を見ているようだ。
凄まじいスピードで移動するスレッドに、ライアは余裕でついていく。前より一回り大きくなった身体を力強く動かし、軽やかに木の枝を飛び移っていく。
たった数分で目的の場所まで到着し、スレッド達は一休みする。しかし、その顔には余裕があった。
「結構本気で走ったんだがな…………」
「ワウ!!」
ライアの頭を撫でながら、スレッドは感心したように呟いた。ライアは誇らしげに胸を張る様な仕草を見せ、嬉しそうに頭を撫でられている。
突然変化したライアに驚いたスレッド達だったが、いつもと変わずにじゃれついてくるライアに三人は直ぐにライアを受け入れた。
「すまなかったね。大事なものだったのだろう?」
説明を終えたカロリーナは済まなそうにスレッドへと謝罪した。
一部始終を説明されたスレッド達は、カロリーナを責めなかった。仕方のないことではあったし、ライアが死んだわけではない。
むしろ助けてもらって感謝したいぐらいだ。
「仕方ないさ。確かに大事なものだが、ライアが消えるよりは断然良い。カロリーナも気にしないでくれ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
笑顔で応えるスレッドにカロリーナも笑顔に戻る。
あの場面ではテオの爪を使う以外に手立てはなかった。核を再生させるなどカロリーナの力でも不可能だ。
近寄ってきたライアの頭を撫でる。頭を触りながら核に意識を接続させ、ライアの体調を調べる。
カロリーナの話しでは問題ないはずだが、それでもスレッドが調べないわけにはいかない。核の中にはスレッドでしか調べることの出来ない部分が存在するからだ。
「…………マジか」
「どうしたんだい? まさか、問題でもあったかい!?」
核を調べているところで、スレッドは驚愕の事実に驚いた。あまりの驚きぶりにカロリーナも動揺する。
「問題ってほどじゃないが…………幾つかライアの身体に変化があるな」
「変化?」
「そうだな…………まずは、ライアの身体が今の姿に固定されてしまった」
ライアはスレッドが宝石に紋章を刻み込み、そこに氣を注ぎ込んで形を造り上げた氣獣だ。ライアの身体はスレッドの氣で構成されている為、スレッドの意思とイメージによってライアは姿を変えることが出来た。
そのイメージの補助の役割を行なっていたのが、核に刻まれた紋章だった。
テオの爪を取り込んだことにより核に刻まれた一部の紋章が変質し、補助を司る紋章も違う紋章に取り込まれて変化してしまった。
更に爪に含まれる特殊なエネルギーがスレッドの意思を阻害してしまう。
結果、ライアは今の姿から他の姿に変化することが出来なくなった。
「それと…………」
「? なんだい?」
「…………核の中に古代紋章が刻まれている」
「!?」
スレッドの言葉に珍しくカロリーナが本気で驚いていた。それほどまでにスレッドの告げた事実は驚くべきことだった。
「おそらくテオのドラゴンとしての知識が核と融合した際にドラゴンの知識が刻まれたんだろう」
「…………」
スレッドの推測にカロリーナは思考を巡らしていた。
人の力を超える力、神が生み出しその紋章は現在の紋章とは一線を画すほどの力を秘めている。神から人間に与えられたその力は、人々の生活を豊かにしていった。
しかし、強力な力は人間同士を争う力に使われていった。それに怒った神は人間から紋章を取り上げた。
その後、人々は独自の紋章体系を創り出し、今の紋章技術が確立された。そして、神からもたらされた紋章を古代紋章と呼ぶようになった。
今では古代遺跡の一部から古代紋章の一部が発見されている。研究者が必死に再現を試みているが、全く効果を上げていない。
そんな古代紋章がライアの核に刻まれているのだ。驚かないわけがない。
「まあ、いいさ。これでライアも強くなった」
「…………あんたの楽観的な思考が羨ましいよ」
驚愕の事実にも動揺することなく楽観的に考えるスレッドに、カロリーナは苦笑いを浮かべて答えた。
「よし、休憩終わり。ライア」
「ワウ!!」
走り終わったスレッドはストレッチをしながら休憩していた。ある程度身体が温まったところで訓練を開始する。
ライアはアースの紋章を展開させ、その紋章をスレッドに向けた。
「ガウウゥゥ!!」
紋章が発動し、地面から巨大な土の槍が幾つもスレッドに向かって襲いかかっていく。そのスピードは一般的な紋章術士の比ではないほどだ。武道の達人でも回避するのは至難の業だ。
襲いかかるそれら全てをスレッドは回避していく。合体紋章は解除しており、氣による身体強化のみで全ての槍を避けていく。
その動きはまるで踊っているかのような動きだ。
「ガウ!!」
ライアは更に紋章を展開させ、幾つもの風の刃を作り出す。風の刃はランダムな動きでスレッドに襲いかかる。
上と下、それぞれから襲いかかる攻撃を回避していく。それが終われば次の攻撃をライアが放つ。
全てを回避していく中で、スレッドはどんどんあの時の感覚を思い出していく。動きは鋭くなっていき、スレッドの身体から余計な力が抜けていく。
(感覚が研ぎ澄まされていく…………)
初めは動きと感覚のずれがあったが、徐々に感覚が動きに追い付いてきた。
(これを自在に引き出せれば…………)
魔族と戦う為には、自分はまだまだ力不足だ。竜の血に頼るわけにはいかない。
この力を自在に引き出せても、魔族にはまだ勝てないだろう。これ以外にも力が必要だ。しかし、焦ってはいけない。
一歩ずつ前に進まなければ、先は見えてこない。
スレッドとライアは気力が尽き、日が暮れるまで訓練を続けた。
いかがだったでしょうか?
これで一つ魔族への対抗策が出来ました。
これだけで魔族と戦わせるわけではなく、
いくつか対抗策を入れていこうと考えています。
強力な紋章をスレッドかブレアに与えようかとも考えましたが、
それでは芸がないですし、紋章を教えるだけで強くなる、
ではつまらないと思いましたので、こういう形にしてみました。
他にも変化をつけようとも思いましたが、
あまり変化しすぎるとダメになると考えてここに落ち着きました。
ただ、変身能力を無くすのはずいぶん悩みました。
しかし、ただただ力を手に入れるのではなく、
手に入れることが出来る分、何かを無くした方が
自分の中でしっくりきたので、思い切って無くしてみました。
その部分は賛否が分かれるとは思いますが、
とりあえずこれでいこうと思います。
次話ですが、内容は頭にあっても流れが上手くいってない、状態です。
更に来週は仕事が立て込んでいるので、
更新は早くても木曜か金曜あたりになると思います。